13

「先輩、私とのキスは嫌ですか?」

「え?」

「答えてください先輩。私とキスするのは嫌ですか?」

「いっ、嫌じゃない……よ?」

「ありがとうございます。私は先輩が嫌がることはしないと誓っていますので、先輩が嫌かどうかは私にとってとても重要なことです。いえ、重要なことでした」

「ど、どういうこと?」

「決めました先輩。私、これからは先輩がして欲しいことだけします!」

「え?」

「よく考えたら、そっちの方がいいですよね。私がしたくて先輩が嫌ではないことよりも、私も先輩もしたいことをした方が……そう思いませんか?」

「そ、それはそうだろうけど……」

「ですから、教えてください先輩。先輩は、私とキスしたいですか?」

「っ……だ、だから、私はキリちゃんがしたいならっ――」


 先輩の唇に人差し指を添える。

 これ以上、先輩が言い訳を重ねないように。

 その口から、素直な感情を吐き出せるように。


「先輩、私の言いたいことわかりませんか?」

「?」

「私は、先輩とキスがしたいです。溶けるくらいに熱くて、深いキスをたくさんしたいです。ふふっ、自分でもなんてはしたないことを言ってるんだろうって、ちょっと恥ずかしいですけど。でも、好きって感情はやっぱり伝えることが大事だと思うので。……私がこれだけ言ってるのに、先輩は何も言ってくれないんですかってことですよ?」

「っ!」

「言葉にするのが恥ずかしいのは誰だっていっしょです。そして、好きを言葉にしてもらえたら嬉しいのだっていっしょなんです。……こんなことまで、言わせないでください」


 ほんの少しだけの躊躇い。

 きゅっと一文字に結ばれた唇。


 はたして先輩は口を開いた。


 視線を泳がせて。

 頬を真っ赤に染めて。

 唇を震わせ、吐息を震わせながら。


 私の目をまっすぐに見た。


「す、好きっ……です……」

「何がですか?」

「き、キリちゃんとのキス……わ、私も、好き……」


 ああ、ついに。

 ついに……。


 魚が網にかかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る