6

「1回のキスは30秒までにするから!」


 キスの回数が形骸化した次の日、先輩はふたりきりになった途端にそう宣言した。

 昨日、息継ぎを何度も挟んで好き勝手にしすぎたせいだろう。


「わかりました。それじゃあさっそく――」


 いただきます。


「ひぇっ!?」


 唇を舐め上げると先輩は震え上がった。


「ちょ、待って……! 待ってって!」

「でも、時間が……」

「止めるから、時間は止めるからちょっと待って!」

「はい、わかりました。それで、どうかしたんですか?」

「あ、あなた何してんのよ!」

「何と言われましても……キスですけど?」

「い、今唇舐めたでしょ!?」

「舐めましたけど……私の部屋でキスしたときも舐めましたよ?」

「あっ……でもっ、今までは……」

「今までのもキス。そしてこれもキスですよ先輩。さあ、目を閉じてください」

「んんっ!?」


 チロチロと、ペロペロと。アイスを舐めるように、毛づくろいをするように。

 先輩の唇のシワをなぞって、その固く閉じられた門に沿って。

 粘液に塗れた舌を這わせていく。


 それでも、先輩は唇をぴったりと閉じて決して迎え入れてはくれなかった。


「ふーっ、ふっー」


 先輩が鼻で荒く呼吸をしている。息継ぎ防止のためか、それとも必死になっているせいなのか。

 私の顔に生暖かい呼気が何度も当たる。


 これでは雰囲気も何もあったものではないが、可愛い。とにかく可愛い。

 せっかくなので、この可愛さも利用させてもらおう。


「んむっ!?」


 先輩の鼻をつまむと、そのくりっとした目が見開かれた。


「むーっ、むー」


 あくまで口は閉じたままで、先輩は抗議の声を上げている。


「すみません、先輩。でも、鼻息が、その……ちょっと強くて」


 先輩は自身の鼻息が荒いという自覚はなかったようだ。

 私が指摘をすると、途端に顔を赤らめて大人しくなった。


「あと20秒ですから、あと少しだけ我慢してくださいね……んっ」


 先輩の顔は苦しそうだけれど、息継ぎの猶予を与える気なんてない。


 呼吸をしたければその口を開けてくださいね、先輩。


「んっ、むーっ……っ、っ……ひゅっ」


 ついに耐えられなくなったのか、先輩の口が開いた。

 勢いよく空気がその中を出入りする中、私も舌を滑り込ませる。


「んぅっ!?」


 いただきます。

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