7

「んっ?」


 舌が先輩の中に侵入したと思ったら、硬いものに道を阻まれた。

 どうやら先輩は歯をがっちりと閉じていたらしい。


「ふーっ、ふーっ」


 先輩が歯を見せながら荒く口呼吸をしている。

 してやったりというような顔だが、私からすれば微笑ましくもある。


 搦め手を使ってもいいが、せっかくだからここは強引にいこう。


「いたっ、先輩、痛いですっ」

「え?」


 驚きに先輩の歯が浮く。

 もちろん、痛いなんてのは嘘だけれど


「んむっ!? ふっ、あむっ?」


 空いた歯の隙間に舌を滑り込ませる。一度入ってしまったらもう追い出せない。

 先輩には私の舌を噛むなんてことできないだろう。


「ん、んぅっ、はぅ、ぅむっ!」


 先輩の小さな舌と私の舌が触れ合った。


 追い出そうとしているのか先輩の舌は伸びきっていて、何度も私の舌を突いてきた。

 その伸びた舌を搦めとるように舌で巻き込み、唾液を啜る。


 部屋の中に水音が響き、その音に羞恥心を刺激されたのだろう。

 先輩の顔がどんどんと赤く染まっていく。


「っ、んむぅっ、ふあ、はむっ」


 一転して縮こまってしまった先輩の舌を舐め上げ、その根元から先っぽまでをしごき上げる。


 とっくに30秒なんて経過していて、先輩が私の肩を叩く。

 それをあえて無視してキスを続けていると、先輩の手がぎゅっと私の服を握り始めた。

 力が抜け始めているのだろう。段々と体重を預けるように私にもたれかかり始めた。


 先輩を抱き上げるように抱え込み、体を密着させた。

 こうするとより一層先輩の小ささを感じる。


 もはや先輩は抵抗を諦めたようで、ただただ私にされるがままにされている。

 このまま昨日と同じように好き放題させてもらうことにしよう。


「んくっ、ん、こくっ」


 先輩の口に唾液を流し込むと先輩はそれをこくこくと飲み下していく。

 まるでミルクを飲む赤ん坊のようだ。

 きっと先輩は自分が何をしているのかもよくわかっていないのだろう。


「んちゅ、はっ、っちゅ……んんっ!」


 ねぶって、しゃぶって、すすって、侵して。

 最後に先輩の舌ごと口内を吸い上げ、私は長いキスを終えた。


「んっく……先輩、お疲れ様でした」

「……ぁっ」

「ごめんなさい、私つい夢中になってしまって。30秒超えてしまいましたよね?」

「……した」

「え?」

「舌……大丈夫だった?」

「……?」

「痛いって、さっき……」


 先輩は私のついた嘘を信じ込んでいたらしい。

 もしかしたら、キスの最中も私のことを心配していたのかもしれない。


 なんて愛おしい人なんだろうか。

 今すぐ抱きしめてあげたい。

 抱きしめよう、今すぐ。


「わっと!?」

「ご心配をかけてしまいすみません。少し驚いただけですので私は大丈夫です。先輩こそ大丈夫ですか? ご気分が悪かったりしませんか?」

「だ、だ……だいじょうぶ、です……」


 先輩とここまで強く密着したのは初めてだ。

 恥ずかしながら、少し照れ臭く感じている私がいる。

 先輩も後輩である私と話しているというのに敬語になってしまっていた。


 鼓動がバクバクと鳴っているのが聴こえる。

 先輩の体温は暖かくて、小さな体が愛しくて。

 何を言うこともなく、ただただ先輩を抱きしめ続けた。


「き、キリちゃん……?」

「もう少しだけ、このままでいさせてもらえませんか? 先輩」

「う、うん……」


 弱く、本当に軽い、もしかしたら勘違いかもしれないと思えるほど些細な力で、先輩は抱き返してくれた。

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