第14話
「……準備万端といった感じだな」
捕まえた暗殺者の男をピエーロへ任せ、村長宅へと来たコルヴォ。
無断で中に入ってみると、そこには多くの人間が待ち構えており、各々武器を持っている。
まるで、コルヴォが来ると分かっているかのような対応だ。
その状況に、コルヴォは思わず呟いた。
「仮面の男……、貴様がコルヴォじゃな!?」
「そうだ」
集まっている者たちに守られるように、上等そうな服を着た恰幅の良い老人が話しかけてくる。
案の定、コルヴォのことを知っているかのように問いかけてきた。
その問いに、コルヴォは頷きつつ返答する。
「お前がここの村長だな?」
「そうじゃ!」
暗殺者の男と戦う前に探知で見ていたため分かっているが、コルヴォは念のため確認する。
それに対し、老人は鷹揚に頷いた。
「逃げずにいたのは手間取らずに済んだ。大人しく捕まれ」
「何を言う。捕まれば命がないというのにおとなしく捕まる訳がないじゃろ?」
「たしかにな……」
逃げてる犯人に止まれと言って止まるようなことはない。
それと同じように、この老人もおとなしく捕まる気がないようだ。
自分のことを分かっているような物言いをしている所を見ると、裏にいる貴族から何かしらの情報が入っていたのだろうか。
それにしても、先程の暗殺者の男との戦闘前までは自分がのぞいているのを気付いていなかったはずなのに、戦闘をして戻って来たら迎え撃つ準備が万端となっていたことには疑問が残る。
暗殺者の男との戦闘は、少し離れた林でおこなったため、何か気付かれるような大きな音を立てていない。
こんな時のために、何か探知するため用意をしていたのか抜け目がない。
「お前の背後に何者かが隠れているのは分かっている。それに暗殺者の男を捕まえた」
「何っ!? そんなバカな……」
コルヴォの言葉に、村長は目を見開く。
S級の冒険者に調査されれば、自分が犯人だとバレるのは仕方がないことだが、背後にいる人間のことまでは分からないはず。
それに、S級並の戦闘力を有すると聞いていた暗殺者の男もいるため、何の心配もしていなかった。
しかし、その裏仕事の男が捕まったとなると、自分だけでなく背後にいる貴族までもが明るみになってしまう。
「フンッ! 奴は村へ来ていた。捕まえたということは、まだこの村のどこかにいるということだろ? 貴様を殺して解放すれば済む話だ」
数時間前に来たと思ったら、捕まるなんて何がS級並の暗殺者だ。
背後にいる貴族は、ちゃんとあの者の実力を確認したのだろうか。
しかし、捕まったとしてもそんなに時間は経っていないことから、暗殺者の男も村のどこかに隠されているのだろう。
このコルヴォという冒険者を始末して、村を隅々捜索すれば済む話だ。
転移魔術が使えるということを考えていないようだが、今回はあながち間違いではない。
「何だ? 俺に勝てると思っているのか?」
村を捜索されれば、たしかに見つけられてしまうだろう。
しかし、根本が間違っている。
たしかに何十人も屈強な肉体をした者たちがいるが、彼らが自分を殺せるかということだ。
「それはこちらの台詞だ。いくらS級だからといって、この人数相手に勝てると思っているのか?」
「この程度の数、たいしたことないな」
コルヴォからしたら、言葉通りこの程度の数相手にならない。
しかし、どうやら村長は自信ありげなようだ。
「こいつらは犯罪奴隷で来た炭鉱員だが、冒険者としては高ランクの者も数人おる。お前はここで終わりだ!」
炭鉱員は危険できつい仕事だ。
そのため、こういった仕事は犯罪奴隷にやらせるものだ。
死刑にすればそれまでだが、そうするよりも利用した方が国のためになるため、彼らは生かされていると言ったところだ。
その中に冒険者がいた所で、別に驚くことでもない。
「…………」
「フッ! 今頃怖気づいたか!?」
結局村長が何を言いたいのか分からずコルヴォが無言でいると、何を勘違いしたのか恐怖で口がきけなくなっていると捉えたようだ。
何だか上機嫌のため、コルヴォとしてはため息しか出ない。
「殺れ!! こいつを殺った者は、上に頼んで奴隷から解放してやる!!」
「マジか!?」「よっしゃー!」
村長の言葉に、炭鉱員の奴隷たちは歓声を上げる。
犯罪奴隷が解放されるなんて、余程のことでもない限りあり得ない。
死ぬまで炭鉱仕事するしかないくらいなら、この冒険者を殺すくらいなんてことない。
ここに来る前は高ランク冒険者とは言っても、色々とやり過ぎてランクを上げてもらえなかったに過ぎないと奴隷たちは思っている。
実力ならS級など相手にならないと、自信ありげな様子で武器を構えてコルヴォへと走り出した。
「俺が一番乗りだ!!」
全員身体強化の魔術を使っている所を見ると、たしかに冒険者だった者たちが多いようだ。
村長が言うように、その魔力量から言ってB、Aクラスの実力を持っている。
これだけの実力があるから、処刑されずに肉体労働をさせられることになったのだろう。
どこから来る自信なのか分からないが、移動速度の速い者からコルヴォへと襲い掛かる。
「……あの世に一番乗りだな?」
「……ふへっ?」
鶴嘴を武器に襲い掛かってきた男の攻撃を躱し、コルヴォは剣で男の腹へ一閃する。
それにより、男は体が上下に分かれることになった。
目で追えない速度の反撃により、男は訳も分からず変な声をあげて意識がなくなった。
「「「「「なっ!?」」」」」
コルヴォの動きが見えなかったのは、他の奴隷たちも同じだった。
我先にと攻めかかろうとしていたが、彼らはその足に急ブレーキをかけることになった。
「何をやっている! さっさと殺せ!」
村長からすると、襲い掛かった人間の動きすら見えていなかったため、何が起こっているのか分かっていないようだ。
殺されたのも、何かミスを犯したとしか思っていないようだ。
所詮田舎の成金ジジイのため、戦いにおいては素人なのだろう。
足が止まってしまった奴隷たちに、訳も分からず襲い掛かるように指示を出した。
「お、おりゃあ!!」「ハアー!!」
命令に従うしかない奴隷2人が、渡されてる安物の剣で襲い掛かってくる。
「ぐへっ!」「うっ!」
その攻撃をあっさり躱し、コルヴォは首を刈り取る。
「くそーっ!」「ちくしょう!」
他の者も順々に襲い掛かってくる。
一応高ランク冒険者だっただけあり、奴隷たちはコルヴォの実力の一端が見えた。
とても自分たちが勝てる相手ではないため、命令に従わず逃げ出したいところだが、奴隷紋によって命令には逆らえない。
襲い掛かってはコルヴォに殺されて行き、後に続く者たちは半泣き状態で攻撃してきている。
そんな彼らを、コルヴォは容赦なく斬り殺していった。
「なっ!? そ、そんなバカな……」
A級とS級、ランクでは1つしか違わない。
そのため、村長はA級の数さえいればS級なんて大したことがないと思っていた。
しかし、蓋を開けてみれば、瞬く間に元A級の冒険者たちが斬り殺されてしまった。
その光景を、信じられない様子で見ていた村長は、腰が抜けてその場にへたり込んでしまった。
「そ、村長!」「逃げないと!」
襲い掛かる奴隷たちの一掃が終わると、数人の男が残っていた。
地下から違う建物へ鉱物を移動させていた村人たちだ。
つまりは共犯者。
捕まれば彼らも処刑、もしくは奴隷行きだ。
動けないでいる村長を抱きかかえ、その場から逃げ出そうとしている。
「逃がすわけないだろ?」
「ヒッ!!」「ヒャッ!!」
当然逃がす訳もなく、コルヴォは村人たちに剣を向ける。
血塗れの剣を向けられ、村長と同様に村人たちも腰を抜かした。
「捕縛完了っと……」
この場に残った者たちを、コルヴォは全員魔力の糸で縛り付ける。
そして、仕事が完了したことを確認し、コルヴォは一息ついたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます