第16話
「テオの奴が捕まった!? しかも村長たちもだと!?」
「ハイ……」
カスタール家領主でジルベルトの父であるネルチーゾが、訪問者の報告に驚きの声をあげる。
自分に繋がる証拠を隠滅するためにローゲン領へ向かわせた暗殺者のテオが、証拠を隠滅するどころか捕縛されるという結果になったという報告だ。
しかも、自分の指示で採掘した鉱物を横流ししていた、アラガート鉱山の村長たちまで捕まったという話だ。
自分が関与していたことを証明する人物たちを、ローゲン領のセラフィーナに掴まれた状況になってしまった。
「どういうことだよ!?」
「せっかくジルベルトの奴を送り込んだって言うのに……」
この報告に、ネルチーゾだけでなく、この場にいた2人も慌てる。
ネルチーゾの息子で、長男のコルネリオと次男のエミディオだ。
領民からは父の仕事を手伝う孝行息子たちといわれていたが、仕事を手伝っているということは裏の顔も知っているということで、知らないのは何もせずフラフラしていた3男のジルベルトだけだ。
エミディオが言うように、ジルベルトを婿に出したことでローゲン家と縁戚関係を結ぶことに成功した。
後は、何らかの方法でセラフィーナを葬り去ってしまえば、横流しなどを犯さなくても手に入れることができるはずだった。
手を引く前にこのようなことになってしまい、2人もただでは済まないことを恐れているのだ。
「帰ってこないからおかしいと思ったが……」
「捕まえたのはS級のコルヴォのようです」
「また奴か!!」
実力もあり転移の魔術を使いこなせることから、ネルチーゾはテオのことを重宝していたが、それだけに自分の悪事に関する多くの情報を知られている。
もしもそれら全てが明らかになれば、爵位の剥奪どころか、処刑か奴隷落ちになることは間違いない。
それを考えると、ネルチーゾは焦りから室内をうろつき始めた。
そして、テオたちを捕まえたのがコルヴォだと聞いて怒りを露わにした。
「どうしてくれる!? これでは完全に私が犯人だとバレてしまうではないか!?」
「すいやせん……」
怒りを抑えきれず、ネルチーゾは報告に来た男を怒鳴り散らす。
テオを寄越したのが、この男だからだ。
こんなことになるとは想定していなかったため、怒鳴られた男は頭を下げて謝罪した。
「何が裏ギルドだ! 大金を払っている意味がないではないか!」
「金に見合うだけの仕事をしろよ!」
父のネルチーゾに続くように、息子2人も男に文句を言う。
コルネリオの言うように、この男は裏ギルドと呼ばれる組織を束ねる者だ。
裏ギルドとは、ネルチーゾが領地拡大を図るために、暗殺などの裏仕事をさせる人間を集めたカスタール領だけにある非公式の組織だ。
構成員の多くは犯罪者ばかりで、そこに金を出していたのがカスタール家だ。
荒くれ者たちをまとめるには結構な額を必要とするため、このような結果に激怒するのも当然といったところだろう。
「……捕まった者たちはどこだ?」
「コルヴォの監視の下、まだアラガートの村にいます。それを知ったセラフィーナは、身柄引き取りと共に王都へ連れて行くつもりのようです」
いら立ちながら問いかけるネルチーゾに対し、裏ギルドの男は返答する。
テオと村長たちが捕まったのは分かったが、それですぐに王家へ伝わる訳ではない。
セラフィーナが報告しても、テオたちの証言がなければもみ消すこともできるかもしれない。
そのために、ネルチーゾはテオたちの居場所が気になった。
そして、男の説明を受けて、これからどうすれば自分たちが助かるかの道筋が見えたかのように笑みを浮かべた。
「奴らが王都に入る前に殺れ!」
「っ!! 全員ですか?」
「あぁ、捕まった者たち、それにセラフィーナとアルヴァーロを含めた全員だ!」
カスタール家が裏で関与していたと王家に知られる前に、何もかもを消してしまえば済む話だ。
捕まった暗殺者のテオや村長たちはもちろん、セラフィーナやそれに同行するであろう領兵や冒険者たちも全員殺してしまえば、自分たちが罰せられることはなくなるはず。
それを成すために、ネルチーゾは裏ギルドを使うことにした。
「奴らを止めれば、今回の失態は見逃す。それどころか報酬はいくらでも払ってやる」
「っ!! 本当ですかい!?」
裏ギルドといっても、ただ荒くれ者たちを管理しているだけに過ぎないが、カスタール家の援助によってかなりの数が集まっている。
今回のことで、カスタール家にもしものことがあれば、自分たちまで一網打尽にされるかもしれない。
そうなる前に逃走でも図ろうかとも頭をよぎったが、報酬と聞いて気が変わった。
男は目の色を変えたように、ネルチーゾへ聞き返した。
「あぁ! セラフィーナを消す機会でもあるからな」
「なるほど、了解しやした!」
今回のことで、期せずしてセラフィーナも動くことになった。
この機を利用して裏ギルドたちに始末させれば、当初の予定だったローゲン領の乗っ取りも不可能ではない。
そのため、ネルチーゾはこの機を逃すまいと、男に暗殺を指示したのだ。
ネルチーゾの考えを理解した男は、納得したように頷いた。
この機にセラフィーナを殺し、婿であるジルベルトを傀儡としてローゲン領を手に入れる。
そうすれば何の問題もなかったような結末にできる。
自分たち裏ギルドも安泰だ。
「今日まで集めた裏ギルド。全勢力を使って仕留めて見せます」
「抜かるなよ!」
「ハッ!」
ネルチーゾの狙いはローゲン領だけでなく、この国そのものを手に入れるつもりだというのを知っている。
それに助力することにより、自分たちは新国家の貴族としての地位が得られることになっている。
没落貴族の出身の自分が返り咲くには、ネルチーゾに賭けるしかない。
引くわけにはいかないことを覚悟した男は、ネルチーゾの下から去っていった。
◆◆◆◆◆
「長! 先方は何だって?」
「ネルチーゾ様よりの指示だ。捕まった者と護送している者、全員殺せ!」
「「「「「よっしゃ!!」」」」」
カスタール領の外れの地下。
裏ギルドの者たちが潜んでいる施設。
そこに集まった者たちが、ネルチーゾの下から戻ってきた男に問いかける。
その問いに皆殺しと告げると、男たちは待ってましたと言うように歓声を上げた。
「S級のコルヴォが出てくるかもしれないから充分気を付けろ!」
「「「「「了解!!」」」」」
ここに集まったのは、冒険者としても高ランクだった犯罪者ばかり。
コルヴォに殺された鉱山の奴隷たちなんかとは違い、その腕っぷしによって捕まるのを逃れた猛者たちばかりだ。
「フッ、これだけの者が集まれば、なんとかなるだろう」
いくらS級のコルヴォといっても、容易に倒せる人間たちではないはず。
しかも、何百人もの人間相手に、捕まえた者たちやセラフィーナを守り切れるわけがない。
いつもは制御の面倒な者たちだが、こんな時ばかりは頼もしく思える。
やる気に満ちている男たちを見て、裏ギルドの長は暗殺の成功を確信して笑みを浮かべたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます