第17話
「初めまして、コルヴォ……」
「どうも、領主殿」
鉱物を横流ししていた村長と村人たちと、背後にいる貴族に雇われていた暗殺者の男(テオ)を捕えたコルヴォことジルベルト。
こんな時転移の魔術が使えるのは得で、ピエーロと交互にヴィロッカの邸を行ったり来たりして見張りをおこなっていた。
そして、数日前邸で見送ったセラフィーナと、コルヴォとして初遭遇した。
コルヴォの中身がジルベルトだと知らないせいか、セラフィーナはいつもと違い若干硬い表情で手を出してきた。
それに応えるように、コルヴォも挨拶と共に手を出し握手を交わした。
「あなたには何度も助けていただき感謝しているわ」
「どういたしまして。ただ、私は
「……そう?」
シーハ村の魔物退治に不正奴隷売買の犯人逮捕、そして今回の横流しの件と、ローゲン領の問題事を立て続けに解決してくれたコルヴォへ、セラフィーナは感謝の言葉を述べてきた。
その感謝を受け入れた後、コルヴォは何となく意味ありげな口調で返答した。
仮面の下は完全放置にした婿だと知らず、邸の時とは違う少し明るい表情をしているセラフィーナに、意地悪なことを言ってやろうと思ったジルベルトは、初めて会った時にセラフィーナが言った言葉を言ったのだ。
そんな事とは分からないセラフィーナは、首を傾げながら返事をするしかなかった。
「領主様! 犯人たちを馬車に入れ終わりました」
「ご苦労様」
王都へ犯人たちを運ぶため、セラフィーナは牢付きの馬車を用意しており、その牢の中に犯人たちが乗せられた。
犯罪者用の魔力封じの手錠をしているため、逃げ出すことはできないだろう。
あとは、彼らを王都へ送って王家の直轄組織の調査を受ければ、ローゲン領で暗躍していた貴族があぶり出せることだろう。
この国の奴隷化は、貴族と王家の直轄組織でしかおこなえない。
本当はこの場で奴隷紋を刻んで証言を得たいが、セラフィーナが主人の奴隷紋では嘘の証言をさせられているという言い訳をされる可能性があり得るためそうすることができない。
「早速王都へ向かいましょう」
「了解」
犯人が牢に入ったことが確認され、セラフィーナはアルヴァ―ロへ話しかける。
ギルマスのアルヴァ―ロも元はAランクの冒険者だ。
今回捕まった者たちは、ローゲン領にとっては重要な証人のため、自分も護送にと参加を申し出てくれた。
そのアルヴァ―ロの呼びかけにより集められたローゲン領では実力のある冒険者が、今回の護送の任務を請け負ってくれた。
彼らが数台の馬車に乗り込み、北東にある王都へ向かって移動を開始することにした。
「コルヴォ、お前も付いてきてくれるか?」
「あぁ、構わんよ」
護送するとなると、魔物の出現が予想される。
一応ローゲン領でも実力のある者たちを連れてきたが、もしも強力な魔物が出現した時のことを考えると、念には念を入れておきたい。
それを考え、アルヴァ―ロは犯人逮捕をしたコルヴォの同行を求めた。
元々、付いて行く気でいたため、コルヴォもそれを了承する。
「え? コルヴォも付いてきてくれるの?」
「えぇ、魔物だけでなく背後にいるものがこの犯人たちを始末しに来るかもしれないですからね。安全のために同行させてもらいます」
コルヴォの同行に、セラフィーナは少し嬉しそうな表情になる。
いつもの冷静な表情をしているというのに、無意識に顔に出ているようだ。
それはひとまず置いておいて、王都までの道程で危険なのは魔物だけではない。
不正奴隷売買の時のこともあるため、自分の手の者が捕まったと知った貴族は、自分の名前が漏れないように始末しに来るはずだ。
せっかく捕まえたというのに、また犯人を殺されてしまう訳にはいかない。
そのため、最後まで送り届けようとコルヴォは考えていたのだ。
「……そうね。アルヴァーロ、冒険者のみんなに注意をお願い」
「了解しました」
ここから先注意しなければならないのは、コルヴォの言うように魔物だけではない。
いつどんな手で貴族から追っ手を仕向けられるか分からない。
今この時でも危険だとコルヴォの言葉で再認識したセラフィーナは、同行する冒険者たちへも注意するようにアルヴァ―ロへ頼んだ。
「やはり調査員を呼んだ方がよかったのでは?」
「それだと時間がかかって、敵が刺客を送る時間を与えるだけだわ」
「……そうですね」
アラガート鉱山は、ローゲン領の領都よりも王都の方が近い。
犯人たちを移動させるより、王都から調査員を呼んで証言を引き出した方が安全なように思えるため、アルヴァ―ロはそちらの方を薦める。
しかし、そうするには調査員派遣を求める書状を出し、許可が得られるまで待つことになる。
そうなると、無駄なやり取りがおこなわれる分時間がかかり、敵に万全の状態で攻めさせる時間を与えることになってしまう。
その時間を与えるより、王都へ行って直接調査を求めた方が速いため、セラフィーナは護送するという判断をとったのだ。
領の赤字によってローゲン領の高ランク冒険者たちの何人かが他領へ移ってしまったため、もしも敵が万全の状態で攻め込んできたら、捕縛した者たちを守り切れるとは言い切れない
それなら、一刻も早く王都へ連れて行ってしまった方が良いと判断し、アルヴァ―ロもセラフィーナの考えに同意することにした。
「領主殿は新婚とお聞きしましたが、お相手の方はどうなさったのですか?」
「……置いてきたから大丈夫よ。いつも通り邸にでもいるんじゃないかしら」
王都へ向かって馬車で走りだした数時間後、一行は休憩をとることにした。
その時、コルヴォはセラフィーナの話し相手に選ばれた。
色々聞きたそうなセラフィーナに、コルヴォは先んじて問いかける。
ジルベルトのことを聞かれ、これまでなんとなく機嫌が良さそうだったセラフィーナは、声のトーンを僅かに下げたように返答した。
『そんなにジルベルトには興味がないのか?』
忘れていたのに、思いだしたらテンションが下がったという所だろうか。
コルヴォには興味があるようだが、中身の方には興味が無いような反応に、ジルベルトは若干落ち込む。
セラフィーナの中では、同一人物だと分かっていないのだから仕方がないが、そんなに印象悪いのだろうか。
「そういうお前はどうなんだ? カミさんがいるんだろ?」
「えっ!?」
セラフィーナと話していたところ、側で話を聞いていたアルヴァ―ロがツッコミを入れてきた。
その言葉に、セラフィーナが驚いたように反応する。
「どうしました? セラフィーナ様」
「い、いえ、何でもないわ……」
セラフィーナの慌てたような反応に、同行しているスチュアートが問いかける。
それに返答するが、言葉とは裏腹の反応をしている。
そして、スチュアートだけが分かる程度にテンションが落ちたように思える。
『お嬢様……、やはり……』
この反応でスチュアートは以前思ったのことと同じことを考えていた。
今回の移動で、セラフィーナはなんとなく嬉しそうにしていた。
それがコルヴォに会えるというものから来る感情だと、スチュアートの中では分かっていた。
そして、コルヴォが既婚者だと知って、何となく傷心に近い感情になったのだろうと内心で察した。
「うちのカミさんは放任主義でな。好きにしろと言われている」
「へぇ~、そうかい……」
コルヴォの言葉を聞いて、アルヴァ―ロは笑みを浮かべる。
聞く人が聞いたら仲が良さそうに聞こえるため、アルヴァ―ロはそう受け取ったのだろう。
しかし、実際の所はそうじゃない。
放任主義というより、完全に放置された存在だ。
そんな事まで言うつもりはないので、コルヴォはそれ以上は言わないことにした。
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