第26話
「皆の者、面を上げよ!」
王国の南にある魔の森攻略は、この国の領土を拡大するうえで重要な案件だ。
その重要な領地を任されている伯爵家の、足を引っ張るような行為をおこなっている貴族がいる。
その犯人に処罰を与えるということで、王都周辺の領地を持つ貴族たちが集まった。
ロタリア王国国王ロマーノが姿を現し、貴族たちは男性は片膝をつき、女性はカーテシーをして頭を下げ敬意を表す。
彼らの前にある玉座に座ると、ロマーノが一言告げる。
すると、玉座の間に集まった者たちは、それに従うように下げていた頭を上げた。
「ローゲン伯爵、冒険者コルヴォ前へ」
「「ハッ!」」
玉座に座るロマーノの発言を受け、セラフィーナは爵位の順に並んで立つ貴族たちの中から出る。
そして、ロマーノの方へと数歩前へ進んで足を止めた。
それに付き従うように、コルヴォはセラフィーナの後ろで控える。
コルヴォが参加することは集まった貴族たちにも伝えられているため、仮面を付けていることを注意したいところだが、王が許可を出しているということなので、そのことに触れるような者はいない。
しかし、初めてS級の冒険者を見る者が多いのか、視線だけはコルヴォに集中している。
「カスタール伯爵、その子2人前へ」
「「「ハッ!」」」
セラフィーナたちが前へ出たのを確認し、ロマーノはカスタール家の3人に前へ出るように指示する。
この時点で、何故カスタール家の者たちが呼ばれたのか分からない者はいないだろう。
集まった貴族たちは、驚きで声を出すのを控えつつカスタール家の3人を見送った。
「ローゲン伯爵。お主が連れてきた犯人たちの調査が済んだ。それにより、犯人たちの口から共通する名前が挙がった」
役者が揃ったことを確認し、ロマーノは話し始める。
セラフィーナが突き出した犯人たちを奴隷化し、虚偽の発言ができないようにしてから得た話のため、調査による信憑性は確実だ。
奴隷化というと非人道的のような気がするが、拷問をしないで済む分まだ人道的といっていいかもしれない。
ロマーノは、調査によって得た人物に対し視線を向けた。
「カスタール家当主ネルチーゾ。そなたの名前だ!」
ロマーノは、大きいわけではないが、この場にいる者たち全員に聞こえるように話す。
眉間にしわを寄せていることで、誰もが怒りを抑えているのだと分かる。
多くの貴族が集まるなか、正式にカスタール家領主のネルーチゾが犯人であるということを告げたのだ。
「そして、息子の2人の名前も挙がった! これについて申し開きがあるならもうしてみよ!」
「い、いや……」「そ、それは……」
アルガード鉱山の横流しに関わった村長と村人たち、それと暗殺者のテオだけなら、調査しても息子2人の名前が出ることはなかったかもしれない。
しかし、裏ギルドの長までもが捕まったことにより、息子2人の名前が挙がった。
招集されたということは、もう言い逃れすることができないということだが、それでも3人は何とか生き残ろうと言い逃れる理由を考えていた。
だが、結局息子2人は理由が思いつかなかったのか、発言を許されたと言っても何を言うこともできず視線を泳がすことしかできなかった。
「私共には何のことだか分かりません」
息子2人と違い、ネルチーゾはどこか堂々としている。
そして、ロマーノに対し、平然とした様子でしらを切った。
「ホ~……、では、どうしてお主たちの名前が出たのだ?」
奴隷化して調査した結論なのだから、息子の2人のように言い訳のしようがないはずだ。
しかし、それでも平然としているネルチーゾに、どう言い訳をするのか気になったロマーノは、怒りを抑えて聞いてみることにした。
「恐らくは、私どもの名前を使って動いていた者がいるのだと思われます。ですので、その者の調査をすることを願います」
「……その者とは誰のことだ?」
問われたネルチーゾは、自分たちは利用された可能性があると証言した。
たしかに、証言した者たちがネルチーゾたちの名前を出したが、それが何者かによって誘導された記憶ということもなくはない。
しかし、全くカスタール家に関係ない者がそのようなことをできるわけがない。
誰がしたというのか、ロマーノはネルチーゾにその者の名前を尋ねた。
「……申し上げにくいのですが、我が3男のジルベルトにございます」
「なっ!?」
ロマーノの問いに、ネルチーゾは言いにくそうに答える。
自分たちが生き残るためにネルチーゾが導き出した答えは、もう1人の息子のジルベルトだった。
その名前に、少し離れた横に立つセラフィーナは目を見開いた。
「陛下のローゲン領を思ってのセラフィーナ嬢への婚約者募集に応えたつもりでしたが、このようなことになって申し訳ありません。婿として受け入れてくれたセラフィーナ殿には申し訳ないが、奴は我が領でも無能と言われていた男です。そのため我々はあまり何も言わず好きにさせていたのですが、まさか奴がこのようなことを密かにおこなっているとは思いもしませんでした」
話し始めたら止まらないと言うかのように、ネルチーゾは次々と話し始める。
あくまでも、全てはジルベルトのせいにするという考えのようだ。
「では、なぜジルベルトとやらはこのようなことを……?」
「奴は放置していた我々が疎んでいると勘違いしているのでしょう。そんな我々を陥れ、自分は妻であるセラフィーナ嬢を殺して当主に着くという考えなのだと思われます。ここまで来ると、もしかしたら陛下が気を揉んでいらしたセラフィーナ嬢の結婚相手を募集することすら念頭に置いていたのかもしれません」
ローゲン領ちょっかいをかけ赤字にし、セラフィーナの結婚相手をなくして自分が結婚。
そして、父たちを陥れるようにセラフィーナの命を奪って領主となる。
それがジルベルトが考えた道筋だと、ネルチーゾは証言する。
『……おいおい、マジかよ……』
平気で嘘をつくネルチーゾに、さっきまでオロオロしていた息子2人までも堂々としだした。
それを見て、コルヴォとして控えるジルベルトは、自分が実家を潰すことになるかもしれないと密かに悩んでいたことがバカらしくなっていた。
「……つまり、犯人はすぐ側にいたということ……?」
「その通りですよ。セラフィーナ嬢。私はこれでもあなたの義父、そのようなことをする訳がないでしょう?」
「そんな……、あの人が……」
ネルチーゾの嘘に引っかかる人間がいるのかとジルベルトは思っていたのだが、よりにもよって妻であるセラフィーナが引っかかっていた。
何だか言われてみればと言いたげな表情で、これまで起きたことを整理し始めている。
その様子に気が付いたのか、ネルチーゾは追い打ちをかけるように発言する。
単純というか、箱入り娘というか、セラフィーナは段々とネルチーゾの意見を信じていっているかのようだ。
「フフッ!」
目の前でおこなわれる光景があまりにも滑稽で、コルヴォであるジルベルトは思わず声を出して笑ってしまった。
「……貴様! 不敬だぞ! 何を笑っている!!」
S級冒険者とは言っても、所詮は平民でしかない。
犯人を捕まえた張本人だから付き添いで呼ばれているだけの存在でしかないのに、自分たちの会話を笑ったことにネルチーゾは腹を立てる。
なんとか時間を稼ぎ、このままジルベルトの調査を開始させる方向に導く。
その時間を使ってジルベルトを自殺したように殺してしまえば、嘘を本当にできるとネルチーゾは考えていたのだ。
その空気を止められた気がしたため、腹を立てたのだろう。
「……どうした? コルヴォとやら、何かあるなら申してみよ」
「失礼しました。カスタール伯は罪を逃れるために息子を差し出すとは思いませんでした」
「何だと!?」
「コルヴォ……」
コルヴォの反応が気になったのか、黙って聞いていたロマーノが問いかける。
発言を許されたため、ジルベルトはコルヴォとして話し始める。
その内容は、ネルチーゾは犯人のくせに息子のせいにしているという発言だ。
貴族の自分を嘘つき呼ばわりされ、ネルチーゾはこめかみに青筋を立てた。
密かに思いを寄せるコルヴォが、まさか夫であるジルベルトのことを庇うなんて思わず、セラフィーナは驚いている。
「陛下。ジルベルトという者はローゲン領を陥れるようなことはしておりません。私の命に代えても構いません」
「ほう? お主は今それを証明する方法があるか?」
「はい」
コルヴォの物言いは、明らかにジルベルトのことを知っているような発言だ。
しかも、S級冒険者の命を懸けるなんて相当の信頼を置いているということだ。
コルヴォが自信ありげに答えるので、ロマーノはこのまま話の流れに乗ってみることにした。
そして、ロマーノ問いを受けたコルヴォは、返事をすると共に、仮面を脱ぎだした。
「私がジルベルトですから……」
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