第25話

「では、よろしくお願いします」


「了解しました」


 王都に入ってすぐ、アポイントを取ったセラフィーナは王城へと向かった。

 そして、ここまで護送してきた犯人たちを、王家直轄の調査員へと渡すことができた。

 罪人たちは、王城の地下牢へと入れられ、早速これから調査に入ることだろう。


「それにしてもご苦労様でした。ローゲン殿……」


「いえ、私は助けられてばかりでした」


 罪人の受け渡しの場に、責任者として宰相のウルバーノが付き添っていた。

 全員が調査員に渡されたのを確認し、ウルバーノはセラフィーナへと労うように話しかけてきた。

 自分としては何もしていないという思いがあるため、セラフィーナは思った通りのことを返答する。


「彼がコルヴォですか……?」


「はい」


 ローゲン領に危害を加えている者がいるという知らせを聞き、調査を開始することになったのだが、どのような犯罪に関与しているのかを聞き出すために、セラフィーナからも色々と聴取した。

 その中で、頻繁に出てきたのがコルヴォと言う名。

 S級冒険者として、ローゲン領内の事件を立て続けに解決したということだ。

 宰相という立場上、S級冒険者の動向は把握するようにしているため、コルヴォはアレラード領の南東を中心として活躍しているという印象だった。

 それが、急遽ローゲン領に居を移したという話だったが、早速名前を広めているようだ。

 報告は受けていても会うのは初めてのため、ウルバーノは確認するようにセラフィーナへと問いかけ、

セラフィーナはそれに頷きを返した。


「少し話をさせていただきたいのですが。宜しいですか?」


「……分かりました」


 宰相でもS級に会うことなんてあまりないせいか、ウルバーノはなんとなく何か興味を持った。

 せっかくだから少し話してみたいと思いからセラフィーナへ問いかけると、彼女は了承する。

 そして、セラフィーナの先導により、ウルバーノはアルヴァ―ロと一緒にいるコルヴォの下へと向かっていった。


「初めまして、宰相のウルバーノです」


「初めまして、コルヴォと申します」


 セラフィーナの紹介により、コルヴォはウルバーノと挨拶を交わす。


「何か御用でしょうか?」


「申し訳ない。宰相といってもS級に会うことは珍しいので少し話してみたいと思ってね」


「そうですか……」


 自分に何かあるのかと疑問に思ったが、単純に話をしたいという話だ。

 伯爵家の3男といっても宰相に会うなんてそう滅多にないので、仮面下の表情が硬くなってしまう。

 それを何とか悟られないように、コルヴォはこれまで通りの口調でウルバーノへ返答した。


「これより数日の間に、結果が出ることでしょう。次は罪人の証言により出た貴族と共にローゲン殿にも登城いただくことになります」


「そうですか。畏まりました」


 相手が貴族であるため、護送してきた犯人の口から名前が出たから即処罰という訳にもいかない。

 余程のことでもない限り捕まえることになるが、釈明の余地だけでも与えるために呼びつけるそうだ。

 まだ相手が誰だか分かっていないせいか、セラフィーナは緊張したようにように頷いた。


「そうだ。君も一緒に来てくれるかい?」


「……私も、ですか?」


 話は終わったかのように思ったのだが、ウルバーノが急遽思い出したかのようにコルヴォにも登城するよう提案してきた。

 突然のことで、コルヴォは戸惑うように返答した。


「どういうことでしょうか?」


「折角なので、捕まえた本人がいた方が良いのではと思いまして……」


 ウルバーノの提案に、セラフィーナも戸惑うように問いかける。

 たしかに護送してきた罪人全員を捕まえたのはコルヴォだ。

 証言者という意味ではたしかにいた方がもいいかもしれない。

 それはそうなのだが、コルヴォを王の前に呼ぶには問題がある。


「見ての通り彼は仮面をつけております。それには何かしらの理由があると思われますので、陛下の前に出る場合ですと無礼に当たるのではないでしょうか?」


 セラフィーナにとってコルヴォは、ローゲン領の救世主である。

 王の前に出るとなると、仮面をつけたままでいるのは無礼に当たる。

 場合によっては不敬と罰せられるかもしれない。

 そのため、セラフィーナはコルヴォを庇うように仮面をつけていることを察するように言った。

 冒険者なのだから、大怪我を負うようなことがあっても不思議ではない。

 セラフィーナの勝手な勘違いなのだが、彼女の中ではコルヴォの仮面の下は大怪我を負った傷跡があるのだと考えていたのだ。

 コルヴォであるジルベルトは、今後も出来れば正体がバレないでいたい。

 自分がいなくても罪人たちからの証言が得られれば解決する話なので、セラフィーナに付き添う必要性を感じない。

 勝手に勘違いしているようだが、セラフィーナの提案に乗っかることにし、コルヴォは黙ったまま成り行きを見守った。


「そうですね……。では、彼が仮面を被ったままでも良いように、あらかじめ陛下から了承を得ておきましょう」


「えっ?」


「そんなこと簡単に決めてよいのでしょうか?」


 セラフィーナのもっともな意見に、ウルバーノはコルヴォの同伴を引っ込めると思った。

 しかし、コルヴォとセラフィーナの思いとは裏腹に、ウルバーノはあっさりと仮面着用のままの登城を認めた。

 あまりにもあっさりとしたウルバーノの返答に、コルヴォは小さく反応し、セラフィーナは意外そうに問いかけた。


「大丈夫です。もしも了承が得られなかった場合は連絡いたしましょう」


「そうですか……」


 心配しているセラフィーナと違い、どうやらウルバーノは陛下が認めると分かっているかのような言い方だ。

 仮面をつけたままで良いということになれば、セラフィーナとしてはウルバーノの提案を止めることはできない。

 そのため、若干渋い表情をしながら受け入れるしかなかった。


「頼めるかしら?」


「……分かりました」


 断りたいところだが、他に断る理由が思いつかない。

 仕方がないため、コルヴォはセラフィーナとの登城を受け入れるしかなかった。


「では、数日後にお会いしましょう。ごきげんよう」


「「ごきげんよう……」」


 コルヴォの登城を取り付け、ウルバーノは2人に挨拶をして気分良さげに去っていった。

 呆気にとられた2人は、その背中に返答することしかできなかった。






「S級冒険者のコルヴォか……」


 色々と手続きを済ませたウルバーノは、王の下へと向かった。

 そして、自身が取り付けたコルヴォの登城の了承を求めた。

 ウルバーノの話を聞き、王のロマーノは小さく呟く。

 その表情は、面白いと言っているかのように笑みを浮かべている。


「構わんぞ。ワシですらS級を見る機会はなかなか無いからな……」


 表情通り、ロマーノは楽しそうに返答する。

 気分で呼んで臍を曲げられ、他国へ移動すると言われては困る。

 そのため、王であってもS級を呼ぶとなると有事の際くらいのものだ。

 今回はちゃんとした理由もあるため、特別といったところだろう。

 王として日々国のために仕事をするのは苦ではないが、変化がない日々というのは面白くない。

 S級との対面なんて、面白そうだと考えたようだ。


「構わんのだが、お主がその者を呼び出そうと思った理由は何だ?」


 仮面をつけているというくらいは気にしない。

 それよりも、ロマーノとしてはどうしてウルバーノがコルヴォを呼ぶことにしたのか気になった。

 まさか、自分が喜ぶから呼ぶことにしただけのはずがない。


「……恐らくですが、彼は貴族だと思われます。もしくは元貴族……」


「ホ~……」


「彼の受け答えや仕草を見ていると、冒険者としての荒々しさ感じませんでした。もしも貴族だとすれば、ローゲン伯に助力する理由が知りたいと思いまして……」


 貴族でありながら冒険者になるというのは、珍しいことだがあり得ないことではない。

 爵位を継げない次男や3男が、冒険者になるということがあるからだ。

 ウルバーノの言うように、コルヴォが貴族か元貴族だとすれば、たしかになぜローゲン領にいるのか気になる。


「罪人の処罰と共に楽しみが増えたのぅ……」


 セラフィーナから受けた報告により、今回犯罪行為をおこなっていた貴族がいるということが、王として腹立たしくて仕方がない。

 その者を処罰することも楽しみだが、コルヴォのことも楽しみになったロマーノだった。






◆◆◆◆◆


「まさかあなたが犯人だったなんて……」


 証言も得られ、王都周辺の貴族が招集された。

 セラフィーナもコルヴォと共に登城し、貴族が立ち並ぶ玉座の間で王の登場を待っていた。

 そして、自分の領へちょっかいをかけていた人間の登場に、思わず睨みつける。






「カスタール伯!!」


 犯人の名前を聞いて、セラフィーナは怒りに震えた。

 その犯人というのが、一応は自分の義理の父であるネルチーゾ・ディ・カスタールだったからだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る