第4話
「失礼……」
「は、はい?」
この世界には、冒険者と呼ばれる者たちが存在している。
ギルドと呼ばれる組合に登録された自由業者である。
様々な依頼の中から自分に合ったものを選び、それを達成することで資金を得るという方式になっている。
冒険者の仕事は多岐にわたり、出現した魔物を討伐することも仕事の1つだ。
ローゲン領の領都にある冒険者ギルド。
その建物に1人の人間が入ってきて、受付の女性へと話しかけた。
フルフェイスの仮面を被っているせいか、受付の女性はやや怯えるように返事をした。
「ギルマスがいたら会わせてもらいたいのだが?」
「……いや、それはちょっと……」
ギルマスとはギルドマスターのことで、ここの所長といったところだ。
多くの冒険者を束ねる地位にいるため、色々と忙しい身だ。
アポイントメントを取らずに会おうなんて、さすがに認められないため、受付の女性はやんわりと断った。
「俺はこういう者だ」
「っっっ!!」
仮面の男も、身分の知れない人間をおいそれとギルマスに会わせるようなことはしないと分かっている。
そのため、身分証明として、冒険者カードを見せた。
冒険者カードは、冒険者登録をした時に与えられるカードで、持ち主の魔力によってのみ情報が表示される仕組みになっている。
他人が勝手に使用したりできないため、身元を示す証明書として利用されている。
その冒険者カードには、持ち主の登録名や性別などの情報の他に、冒険者としてのランクが表示される。
仮面の男が差し出した冒険者カードのランクを見た受付嬢は、目を見開いて固まった。
「しょ、少々お待ちください!!」
そして仮面の男に一言告げると、慌てたように受付の裏へと向かっていってしまった。
どうやらギルマスの所に向かったようだ。
「お待たせしました。どうぞこちらへ」
「あぁ」
少し待っていると、先程の女性が戻ってきて、仮面の男を受付内部へと招く。
そして、仮面の男をギルマスの部屋へと案内してくれた。
「お連れしました」
「あぁ」
ノックをして中に入ると、顎髭を生やしたスキンヘッドの男が書類に目を通していた。
彼がギルマスなのだろう。
受付の女性に声をかけられたギルマスは、目を通していた書類を机の上において立ち上がった。
「そこへ掛けてくれ……」
「分かった」
受付の女性に案内されて室内に入ってきた仮面の男を、ギルマスは執務用の机の前に置かれている応接用のソファーへと仮面の男を促した。
その言葉に従い、仮面の男はソファーへと腰かけた。
「ここのギルマスのアルヴァ―ロだ。失礼だが、念のためカードを確認させてもらっていいかな?」
「あぁ、いいぞ」
ギルマスのアルヴァ―ロの言葉に従い、仮面の男はもう一度冒険者カードを取り出した。
そして、確実に自分の情報だと分かるように、目の前で魔力を流た。
「本当だ……」
そのカードを見て、アルヴァ―ロもランクを確認して驚いたように呟く。
受付の女性に言われた時は、冗談かと思ったが本当だった。
「単刀直入に聞きたい。どうして
冒険者のランクは、依頼達成した数や難易度によって通常EからAまでの5段階で評価される。
特に実力が突出した冒険者に対しては、Aの上にSのランクを与えられる。
しかし、ロタリア王国内にいるSランクの冒険者は、5名しかいない貴重な存在のため、領都のギルマスといってもなかなか会えるようなことはない。
冒険者という職業のため自由に移動していいのだが、アルヴァ―ロはこの町に何をしに来たのか気になった。
「色々あって、しばらくここに住むことにした」
「っ!! 本当か!?」
「もちろん」
「そいつはありがたい!」
仮面の男の言葉に、アルヴァ―ロは嬉しそうな声で反応する。
Sランクといったら、一騎当千の実力の持ち主。
そんな存在にいてもらえるなら、伝染病の流行や世界最強の生物である竜が襲い掛かって来るなどの事態が起きない限り、この町が潰れるようなことはない。
領兵と共に町を守る一翼を担っているギルドとしては、これほど嬉しいことはないため、思わず反応してしまうのも仕方がないことだ。
「とは言っても、来たばかりで右も左も分からない身。なので、この領の話を色々と聞かせて欲しいのだが?」
「分かった! 俺の知っている限りのことを話そう」
仮面の男の質問に、アルヴァ―ロはこの町に住むにあたり、どこの武器屋が良いとか細々したものから、ローゲン領内の町や村の現状など様々なことを説明した。
「それで、早速で悪いんだが、南西にあるシーハ村に行ってくれるか? 魔の森に近いため、魔物の頻発に苦慮している状況なんだ」
「シーハ村か……」
ローゲン領に関する様々なことを説明し終わり、アルヴァ―ロは恐縮しつつも仮面の男へ依頼の話をし始める。
S級であっても、魔の森は危険な地だ。
冒険者は自由業のため、依頼によるリスクマネジメントは本人に任されている。
この町に住むと本人はいっているが、それが本当なのか、そしてそれがいつまでなのか分からない。
最初から魔の森関連の依頼は早いとは思いつつも、ローゲン領の現状が現状なので、意を決して頼むことにしたのだ。
アルヴァ―ロからの依頼に、仮面の男は地図を見てシーハ村の場所を確認した。
「分かった。そこへ向かうことにしよう」
「助かる!」
アルヴァ―ロが断られるのではと息を飲むが、仮面の男からの了承の言葉に安堵する。
「ではシーハ村へ向かうとする」
「あぁ、健闘を祈る」
依頼を受けた仮面の男は、早速といわんばかりにソファーから立ち上がり、シーハ村へ向かうことを告げた。
部屋から出ていこうとする仮面の男の背を見ながら、アルヴァ―ロは感謝の思いと共に激励の言葉をかけたのだった。
「ギルマス! どうしてS級の冒険者がうちに?」
「知るかよ。でも、ローゲン領に住むって話だ。この時期にこんなありがたいことはない」
「本当ですか!?」
「あぁ」
仮面の男がギルドから出ていった後、アルヴァ―ロの所へ仮面の男を案内した受付の女性が駆け寄る。
S級なんて存在に会うことができて、興奮している様子だ。
アルヴァ―ロ自身緊張していたのだから、職員でしかない彼女の興奮も分からなくはない。
彼女だけでなく、自分の気持ちも落ち着かせるために、アルヴァ―ロは彼がここへ居着くことを言葉にした。
その言葉に、女性は歓喜したような声をあげる。
ローゲン領の状況を考えれば、彼の存在は渡りに船だ。
「早速シーハ村の依頼を受けてくれた」
「それって、いくらS級でも……」
S級の冒険者が拠点にしてくれるというのは嬉しいが、最初に頼むにはローゲン領のイメージを落としかねない依頼だ。
いきなり危険な場所への依頼に、女性は反論の言葉を言い淀んだ。
「きちんと説明したうえで向かったんだ。自信があるんだろ?」
「……そうですね。朗報を待ちましょう」
「あぁ」
いきなり魔の森関連の依頼をしたのは、確かに彼のローゲン領に対する印象を悪くする可能性がある。
しかし、ローゲン領のことを考えると、そんな事を言っていられる状況はとうに過ぎている。
説明して納得した上で彼も依頼を受けたのだから、何の問題もない。
女性の言う通り、アルヴァ―ロは朗報が届くのを待つことにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます