第14話 囚われし聖霊。黒魔術師の聖ヱ術。
◇◆
ユリは自らの身に宿る聖霊の力で空を舞う。眼下ではシュルツが鉄杖を振るって
「あの鉄杖に光るものは来訪者の異能そのもの。しかも常時発現すら可能とは予想を遥かに上回ってございますね。これならココ様の護衛役として上々でございましょう。しかし、またいつぞやと同様の事態が生じてしまう可能性があります。だからこそ、果たして限界がどこにあるのか、私がその任をこの戦場にてしっかりと務め果たしましょう」
抜刀したユリは頭上で空を引き裂き続けている黒点に目を転じ、その暗黒の淵に潜みし者を感じ取り一閃を放った。閃光と轟音が轟き、闇淵から黒魔術師が弾き出でる。「ようやく引き摺りだすことに成功しました。それともシュルツ様の連樹子に惹かれたのか。いえ、いずれにせよここまでの時間を要したこと自体、我が剣術もまだまだ未熟という事ですね」
刀の切っ先を黒点から零れた闇に向ける。
黒点の鳴動が差し迫る暗天のなかで、その弾き出された闇が変容し一人の黒魔術師を形作った。
「なるほど、なるほど。どの程度の
冗長に話す黒魔術師の言葉が終わらぬうちにユリは居合にて首を刎ね飛ばす。が、寸でのところで空間転移によって躱されてしまった。実存強度9.8950を有するユリの剣術を躱せる黒魔術師もまた並外れた実力を持った存在だということだろう。
「ふむ。避けたと思ったのですが、なかなかに修久利の剣先は鋭い。だが、これでますます核心に近づいたようだな。これほどの修久利の使い手は天異界には存在しない」
黒魔術師の首の皮膚が裂かれ血が垂れている。手のひらで首元を押さえて治癒術を施しながら、素早くユリとの間合いを広げた。
ユリは刀を鞘に収め笑みをこぼす。
「黒点の闇に隠れていた黒魔術師が良く吠えるものですね。だが、その力は高位黒魔術師級であるのに相違なし。その高位黒魔術師が天異界1層に、しかもこの浮島に来るなんて私はなんて運が良いのでしょう。黒魔術師を殺せる喜び、とても胸が高鳴ります。浮島に攻め入る黒魔術師は殺す。聖霊に仇為す黒魔術師は殺す。黒魔術師であるなら殺す。一切合切殺して、殺し尽くしましょう」
実存強度
ユリ 9.8950
高位黒魔術師 9.1870
□■□■ Topics ② □■□■
実存強度7.000以上から、そのエーテル支配度が飛躍的に上昇する。
9.0000であれば、200ミーレ(*300km)以内にある形あるものを破壊し尽くすのに必要なエーテルを支配する力を持っている。
□■□■ E N D □■□■
ユリは高位黒魔術師を観察する。相手は高位黒魔術師であり独断で行動することはまずないと言っていい。その命令系統の上には必ず司令塔の『災呪の穢れ』がいる。高位黒魔術師の一挙手一投足を仔細に観察することで、どの災呪の穢れに所属する者なのか推し量ることは可能だ。一つ言えることは地上で来訪者の異能を使っているシュルツではなく、修久利を使う私に興味を抱いている点を判断材料として使えそうだとユリは判断する。
「修久利に執心する災呪の穢れはただ一人。ですが、この時点での確定はあまりにも早合点というもの。もう少し探る必要がありますね」
そう呟き、高位黒魔術師が構成を始めている魔術の漆黒制御式に警戒を移す。黒魔術師相手で最も警戒すべきは『来訪者の異能』―――恩寵だ。魔女の力をその配下である黒魔術師が使える形に劣化させたものである。しかし、より高位の黒魔術師になるにつれて本来の来訪者の異能―――魔女の場合は『
魔女の力は『
『聖ヱ術・白亜の回廊よりもたらせし紅蓮』
黒魔術師が制御式を編み業火の濁流がユリを飲み込んでいく。その圧倒的支配力をともなった炎が空の一角を火の海に変えた。しかし、その業火を掻き消すような凛とした声が響く。
「六律系譜をして、
瞬時に巨大な制御式が浮島全域に広がり聖霊
続けてユリは、魔術の残滓が燻るなか間髪入れずに
『
大悟に至らんとする者のみが終わりなき研鑽の果てに扱える
『聖ヱ術ノ
宙に立つ黒魔術師の全方位から襲い掛かってくる刃を、光輝く蒼き光が黒魔術師を包み込みユリの刀技の全てを防いだ。高位黒魔術師の聖なる『恩寵』の光が修久利の剣技を霧散させた。
再び漆黒の空で二人は対峙する。だが撃ち合う前と違って、明らかに高位黒魔術師の疲弊が目立っている。来訪者の異能はその使用者に必ず代償を支払わせる。なんらの負担もなく使用することなど不可能であり、それが自ずと使用回数を制限する枷となっていた。無論、高位黒魔術師も下位の黒魔術師程ではないにせよ、例外ではなく実存強度が減り体の一部が壊死していた。が、それも厭わずに修久利の刀技に目を輝かせていた。
「よもや修久利の奥伝までを使いこなせる者とは何たる幸運かっ! 修久利は世界の理を超越する御業。なるほど、なるほど。完成に近づきし修久利を防ぐには、聖女の恩寵なくしては邪霊どもの輪廻へと呑まれていたことでしょう。本当に素晴らしい修久利です。しかも、貴方の身の内には聖霊『麒麟』が巣食っているようだな?」
「黙れ、黒魔術師。貴様らと会話する気はない。そう、貴様らが吐く言葉すら汚らわしい。この汚らわしさを祓う為にはお前の滴る血をもって濯いでもらいましょう。それと、そうですね。私に殺される前に、お前に命令を出している災呪の穢れの名を吐いてから逝け」
「ははは! 面白い娘だ。なるほど、その容姿然り、その聖霊然り。我らが求めていたモノに近しき存在だな。お前は、お前こそが『カジハ』であるのだな?」
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