第12話 戦火の傷、少年の誓い。

「シュルツ、分かったべ。俺はこの場で引き続きココを守っている。んだから、お前はこの衝撃波の発生地。黒点の場所で戦っているユリのとこさ行って、加勢して来ればいいべよ」

「ユリさんの所ですね。ええ、勿論です!」

「それとだ。あともう少しでココの魔動器が稼働する。ココの家と黒点を結ぶその射線上で邪魔になるものを全部消し去れば、剣術の一つでも覚えられるかもしれねえぜ?」

「本当ですか! それはとても良いことを聞きました。では、もっといっぱい敵を屠って僕もペルン先輩みたいな剣技を修得してきますね」


 鉄杖を右手に構えてペルンの剣術を真似る。左腕がなくなったことで体の重心が取り辛いが、戦闘で剣術を使おうと心に決めたシュルツは自然と口元に笑みが浮かぶ。


「シュルツッ! 怪我してる。早く手当てしないと!!」


 家屋の出入り口からココの震えた声が大きく聞こえてきた。一目散にシュルツに駆け寄り、彼の右胸を両手で包み込む。シュルツの右胸はその肩口から先が消え去っており、応急措置の自己修復でなんとか出血を止めている程度だった。腕を失い、左胸に亀裂が走っている大怪我をココが見逃すはずがなかった。

 ココはすぐさま魔動器制御式を編み、発動した魔術が優しい光となって傷口を照らし完全に塞いでいく。そして、痛みも消えていくのだった。


「ココ、ありがとう。本当にココの魔術は凄いね。痛みもきれいに飛んで行っちゃいました。これでもっと沢山の敵と戦うことができます。僕は黒魔術師を倒しまくって、ペルン先輩のような剣術を身に付けて、もっと強い敵も倒せるようになりますから」

「待って、シュルツは目覚めたばかり。いっぱい痛い思いをする。怪我もする。だからここに居て―――」

「ココ、僕は貴方の敵を殺す為の兵器です。貴方を傷つける敵を、浮島に攻め入ってくる敵を、みんな全部ぶっ殺してきますから」

「シュルツ、違う。貴方は兵器なんかじゃないっ! みんなと一緒の、私の家族。私の大事な家族です。だから、危険な目にあって欲しくない」


 瞳に涙を貯めて、シュルツの上着の裾をぎゅっと握る。シュルツはそんな彼女の手を左手で持ち上げて言う。


「ならば、なおのこと。ココを悲しい気持ちにさせるものを僕は許すことができません。僕は黒点の場所で戦っているユリさんに加勢しに行ってきます。一緒に戦うのです。だから、ココも魔動器であの黒点をぶっ壊してしまいましょう!」

「‥‥‥うん。分かった。でも、本当に気を付けて」


 シュルツはココの返事を聞いて頷き、彼女の隣にいるペルンに「ココをよろしくお願いします」と一礼して、鉄杖を左手にさっそうと黒点直下の場所に走って行った。

 ココがシュルツの後を数歩追いかけたが、ペルンに静止される。


「ココ。これ以上先には行けねえべ。黒魔術師に見つかっちまうからな」


 その言葉でココの歩みは止まり、ぐっと唇を固く結ぶ。

 ペルンは彼女の目線の先のその後ろ姿を同じく見やる。「シュルツが連樹子を使用して黒魔術師を倒すことは予想できてたべ。しかし、連樹子による反動を強く受けるものとばかり思っていたんだが。実際は予想を超えていたべさ。自我も魂も連樹子に侵されることなく活動できる来訪者など俺の記憶にはないべよ」と、なかば飽きれながらも畏怖の念を感じずにはいられない。

「まったくココはすげえもんを従者にしちまったべな」

 思わず洩れ出た呟きがココの頭に落ちて、彼女はペルンを見上げて大きな瞳で言うのだ。

「ペルン。それはとっても当たり前」



◇◆

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