第18話 大樹の根元に、ごろぴた5号ちゃん!

◇◆



 山の頂に在る祠。そこは開けた広大地となっていて、標高に似つかわしくないほどの緑が覆っていた。その祠のすぐ後ろには樹木群が聳え立ち、なかでも一際大きな大樹が祠の後ろに構えている。その大樹の根は土台となっていた巨石に絡みつき、自らの自重を巨石に乗せていた。


「この場所だけ他とは雰囲気が違うみたいですね。とても神聖な感じがします」


 大樹の木漏れ日を眩しそうに顔に受けたシュルツが深呼吸をする。土の隆々とした力強さ、草木の緑の濃淡が輝き、空気の瑞々しさが感じられた。ここがユリさんが大樹の守り目として務めている場所なのだ。


「この場所こそが聖霊の力を強く引き出す場所でございます。シュルツ様。どうか祠の前、その中央にお立ち下さいませ」


 シュルツがユリの指示通りの場所に立つ。彼を見守るのはユリ、ココ、そしてペルン。彼らは朝食を終えるとすぐに山の頂を目指して出発し、ちょうど昼過ぎにこの場所に到着したのだった。もちろん、ここまで来る道すがらにシュルツの義手に必要な鉱石と数匹の魔獣を倒して、必要なエーテル結晶石や素材を荷車魔動器―――ごろぴた5号機ちゃんに保管している。これから聖霊契約を成立させて、それからシュルツの義手を完成させる。とても順調な滑り出しといえた。

(*入手素材:緑星屑3個、黒翅熊の脳幹からエーテル結晶石×5個、夕食用の獣肉類)



□■□■ Topic ③ □■□■

 エーテル結晶石について確認されている事項。

 1)浮島の地中奥深くに形成される浮島自体の『中央エーテル結晶石』。この大きさは浮島に住む聖霊の数に比例し、浮島の規模、自然等や生態系を特徴づけている。また、成長するエーテル結晶石でもある。

 2)浮島等に生息する生物の頸椎に蓄積される『エーテル結晶石』。通常、エーテル結晶石とはこの『エーテル結晶石』を指す。魔動器の素材や消費したエーテルを回復するために用いられる。

 *この他にも狭間から流れつく結晶石や、実存強度を上げるための純核が存在するという。

□■□■ E N D □■□■



「それでは、『聖霊契約の儀』を執り行います。まずは聖霊召喚のための召喚陣を描きますので、シュルツ様はそのままでお待ち下しませ」


 召喚陣の制御式をシュルツの足元に描いていく。表されているのは領域魔法の制御式だ。制御式はより高度になればなるほどに複雑化する。初歩的な聖霊魔術から高難易度の魔法までのあらゆる魔術が制御式によって生み出されるのだ。



□■□■ Topic ④ □■□■

 天異界のエーテルを基準にして聖霊魔術を初歩的なものから順に示すと、

  標準魔術(平面単一・制御式)

  高位魔術(平面複合・制御式)

  複合Ⅰ式魔術(立体単一・制御式)

  複合Ⅱ式(立体複合・制御式)

  複合Ⅲ式(立体可変複合・制御式)

  領域『魔法』(自在式)

 になる。

 これが聖霊魔術の体系である。これに対して黒魔術師が行使する黒魔術は別系統であるが、制御式の強度段階はほぼ同じといえる。

□■□■ E N D □■□■


 

 シュルツの足元に描かれた召喚陣が徐々に光を放ち始める。彼は多重の立体制御式に目を奪われていたが、ふと視線を感じて顔を上げた。召喚陣の縁で心配そうに見つめているココと目が合う。だから、シュルツは片手をあげて大丈夫の仕草を送るのだが「シュルツ様! じっとしていて下さいませ」と鋭い一言を受けてしまう。慌てて、元の姿勢に戻ろうとしたとき、ペルンの姿を思わず目に入った。彼は聖霊召喚の儀式そっちのけで、この場所に来る途中に仕留めた黒翅熊とびぐまの肉骨を『ごろぴた5号機ちゃん』から取り出し、丁寧に下ごしらえの最中だったのだ。丁寧に大きく広げた魔動器シートの上に調理テーブルを並べて真剣な眼差しで包丁を振るい肉をさばく。シュルツは「ペルン先輩。もしかして、その包丁さばきも修久利に通じているのでしょうか?」と見入っていた。

 ココはそんなシュルツに少し微笑んでそれから聖霊契約の説明をし始める。これから契約するシュルツが知っておかねばならない大事なことだから。


「この世界の魔術の一つに聖霊魔術というものがある。それは聖霊だけが世界の森羅万象を制御し得る制御式を創り出せれるから。私は聖霊そのもの、ユリちゃんはその体に聖霊を宿している。でも、ペルンには聖霊は宿っていないから魔術は行使できない」


 そこで言葉を区切り、自分の胸に手を当てて目を閉じる。


「天異界に住む聖霊はみんなそれぞれに独自の系譜を作ってる。その系譜の中で一番強大で長い歴史を持つものが『古き大聖霊の六律系譜』なの。六律系譜はその力でこの世界の根幹法則である『属性』にもなっているくらい凄いの。六律系譜は聖霊魔術を創り出して、属性魔術や魔法を支配している。そう、この世界の頂点だよ。だけど、それ以外の聖霊も私みたいに浮島ごとに系譜を創ってて、もちろん六律系譜の属性影響を多分に受けている。私の場合は六律の六属性の全てを得ているけど、魔動器制作しかできないんだ。それに私の系譜はまだまだ弱くてシュルツしか従者がいない状態なの」

(*六律六属性=天、火、土、水、風、死)


 ココの説明にシュルツは一つ一つ頷きながら聞いていく。


「これからシュルツがするのは『聖霊契約』。特定の聖霊と契約することで、その聖霊に魔術情報を処理してもらって制御式を描いてもらうのです。その制御式に自分自身でエーテルを注ぎ魔術として発現させる。高度な制御式であっても契約者のエーテルが乏しければ難度の高い魔術は行使されない。ただ、この契約には代償として自らの器を一部差し出さなくてはならないの。この合意形成が成されれば『契約』が成立する。一度契約したら、どちらかが破棄しない限りは永続する」

「代償ですか。その代償とは具体的には何を指すのでしょう?」


 シュルツは代償と聞いて思わず質問する。


「代償となるのは魂や肉体、あと能力。でも、魔術の行使の都度に代償が求められるわけではないです。聖霊が器を求めるのは契約が終了した時点。聖霊が器を求めてしまうのは、聖霊それ自体は姿形を持ち得ないエーテル存在だから。私の場合は目覚めたときから体を持っていたけど、本当は黄色い綿毛のような過密されたエーテルが本質なの」

「なるほど。それで器を求めるのですね。そうすると、やはり代償はあってしかるべきか」


 ココの話を聞いてシュルツは腹を決める。代償を支払うことでより高度な戦闘が出来るのならば、それでココを守れるのだ、安いものだ。気を付けるべきことはココの目的が叶うそのときまで契約が終了して自分の器を使い切ってしまわないことだけ。それさえ気を付けていれば何も問題はない。

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