第18話 許嫁と校外学習 バーベキュー編①

「おー!!やってるやってる!」


 集合場所に到着すると、先に着いた他の生徒たちは既にバーベキューをしていた。


「すごくいい匂いがする〜」

「お腹空いてなかったけど、この匂いのせいでお腹空いてきちゃったよー」


「あ!あれは茉優まゆさんと香織かおりちゃんじゃないか!?」


 いつも通りと言えばいいのか、この二人のファンクラブに入っている(?)奴らが俺たちの元に寄ってきた。

 正確に言えば、‴俺たちの‴ではなく‴高坂こうさかさんと香織の‴だろうが。


「茉優さん!これ、俺たちが焼いた肉です!食べてみてください!」

「香織ちゃん香織ちゃん!アイツらとじゃなくて俺たちと一緒に焼肉食べようよ!」


 こんな感じで高坂さんと香織は、あっという間に囲まれてしまった。

 二人を囲んでいる奴らと同じ班の女子たちは、「うわー、最っ低」とドン引きしていた。


 囲まれている当の二人を見てみると、高坂さんの方は優しく対応していて、既に焼かれた肉を口に入れて満足そうに、ほっぺに手を当てている。

 が、対して香織は露骨に嫌そうにしている。


「なあ、高坂さんはともかく、香織は助けた方が良くないか?」


 俺も同じ考えだが、このまま高坂さんを放っておくと、後で拗ねられそうで怖いため、ついでに助けておく事にした。


「ちょっ、いくら何でも人多すぎだろ……」


 パッと見二十人くらいいるぞ……。

 この中からどうやって助けろって言うんだ。しかも、まだどんどん増えてってるし。


「これは早く助けないと手遅れになるぞ、色々と」

「そうだな、慶哉けいやは高坂さんのこと頼むわ。俺は香織のこと助けてくっから」

「わかった、頼んだぞ」

「おうよ」


 俺と明琉は、同時にパッと見二十人いる群衆の中に入った。

 …………が、


「くそっ……!邪魔だ、退け!」


 全然前に進めない!

 この群衆の中には、かなりガタイのいい奴もいるっぽく、いくら押しても全く前に進まないのだ。


「こうなったら────────」


 今咄嗟にいい案を思いついたが、やるとしてもリスクが高すぎる。

 でも、確実に高坂さんからあの群衆を引き離すことができ、あわよくば香織からも引き離すことができる。


 やるしかない、か……。


 俺は一旦群衆の中から抜け、覚悟を決めて一度大きく深呼吸をした。


「ふぅ〜〜〜〜」


 そして、追いかけられても逃げられるように、後ろに人がいないのを確認し、今までで出したこともないくらい大きな声で言い放つ。


「‴俺の‴高坂さんから離れろぉぉぉおおお!」


「……え?」

「!?!?」


 この叫びにより、高坂さんは顔を赤らめ、群衆の視線は高坂さんや香織から俺へとシフトした。


「あ、あいつは!!」

「香織ちゃんの幼馴染のくせに茉優さんの許嫁とかほざいてやがる加賀慶哉かがけいや!!」

「おいお前ら!俺たちから茉優さんや香織ちゃんを奪ったアイツに復讐の時間だ!行くぞーー!!!!!」

「「「「おーーーー!!!!!」」」」


 高坂さんと香織を囲んでいた奴ら全員が俺への復讐に賛同し、走る準備が出来た奴から順に、続々と俺の元に全力疾走でやって来た。



「いや、思ってたんと違うー!」


 群衆の中には、陸上部なのか、とても足の速い奴がいて、どんどん俺との距離が縮まっていった。


 これでは、走り初めてから、群衆との差が一定に保たれたまま、どこかに隠れてなんとかやり過ごすという戦法が台無しだ。


「クソがーっ!!」


 直線をずっと走るだけでは、間違いなく追いつかれて、半殺しにされる。


 それなら…………


 右、左、右、右、左と何度も角を曲がると、俺を追っていた群衆は、いつの間にか後ろにはいなくなっていた。

 なんとか群衆を巻けた。


 と、思ったが…………


「あ、いたぞ!待ちやがれ!」


 数の暴力!!


 追ってきていた群衆は、どうやら手分けして俺を探しているらしく、何度巻いてもすぐに二人一組のペアに見つかった。


「こんなの、いくら逃げても何も変わらないじゃないか」


 最初から全力疾走していたため、そろそろ体力の方も限界に達しそうで、諦めかけたその瞬間、誰かに腕を引っ張られた。

 引っ張られる力からして間違いなく男ではない。


「!?」


 逃げるのを諦めかけた俺の腕を引っ張ってきた人物、その後ろ姿は今では見慣れた背格好で、綺麗な長い黒髪を揺らしていた。


 そう、その正体は、約一か月前に明らかになった俺の許嫁、高坂茉優だった。

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隣の席になった超絶美少女は俺の許嫁!? 橘奏多 @kanata151015

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