第17話 許嫁と校外学習 水族館編

「……くん、加賀かがくん!起きて!」

「…………ん、高坂こうさかさん?どうしたの?」


 目を開けた瞬間、視界に入ってきたのは、興奮気味な高坂さんだ。


「着いた!着いたよ!」


 外を見ると、目的地である横浜のレジャー施設に到着していた。

 ちなみに今日は、午前に水族館に行き、昼にバーベキューをして、午後に遊園地に行く予定だ。

 水族館や遊園地も楽しみだが、やはりバーベキューが一番楽しみだな。


「寝てたらあっという間だったな……」

「本当だよ!加賀くんすぐ寝ちゃうから、私退屈してたんだよ!?」

「え……ごめん」

「ふふふ、帰りのバスでは寝かせないからね?」


 覚悟してろよ、と言わんばかりに、まるで小悪魔のように何か企んでいる高坂さん。

 ……すごく嫌な予感がする。


慶哉けいや〜!!早く来なきゃ置いてっちゃうわよ〜!」


 俺と同じく寝ていたはずの香織かおりは、もうバスの外に出ていて、俺に向かって手を振っている。

 明琉あくるは見当たらないが、恐らくトイレにでも行っているのだろう。


「待たせてたのか……。悪い事をしたな」


 この後、無事に明琉とも合流し、俺たち四人は水族館へと向かった。



※※※



「「「「お〜!!!!!!!」」」」


 明琉と合流してからおよそ二十分。

 俺たちは散々迷った末、何とか水族館に到着した。

 水族館は屋内にしかない所しか知らないが、ここの水族館はどうやら屋内と屋外に分かれているらしい。


「いやー、すごいよなー。ここ屋外にもあるらしいぜ?」

「本当だよね〜!楽しみ〜」

「まずは屋内から回るか?まだ時間はたくさんあるし、ちゃんと全部回れると思うけど」

「はいは〜い!加賀くんにさんせ〜!」


 高坂さんに続き、香織や明琉の両人も異論はないみたいだ。


「じゃあ行くか」

「「うん!」」



 それから俺たち四人は何事もなく屋内を一周し、屋外に向かうため出口に向かっていた。


「いや〜、すごかったね!」

「本当だよね〜!色々な魚見れたけど、やっぱり一番クラゲが可愛かったかも〜!」

「あ、それわかる!!」

「だよねだよね!」


 高坂さんと香織はかなり仲が悪いと思っていたが、そんなのは裏腹に二人でクラゲの話で談笑していた。


「おうおう慶哉さん?あの二人いつの間に仲良くなってるじゃないっすか」

「……そうだな」


 しかし、校外学習に来る前はあんなに仲が悪かったのに、クラゲの話だけで仲良くなるなんて……。

 ……女子、恐るべし。


「早く早く!二人とも置いてっちゃうよ〜!」


 そう言いながら大きく手を振っている高坂さんは、水族館内にいる大勢の客の目線を吸い寄せた。

 声の大きさのせいもあるだろうが、それで高坂さんを見ている人など、ほんのひと握りだろう。


 なぜなら今の高坂さんの顔は、言葉では言い表せないくらい可愛いのだ。

 元から美形だが、今見せているとびっきりの笑顔によって、可愛さが余計引き立って見える。

 さすがは高校三大美女の一人って感じ。


 女の子は笑っている方が可愛いというのは、本当だったんだな……。


 そして、改めて高坂さんの可愛さを実感させられた俺は、明琉と共に奥で待っている二人の元に向かった。



※※※



「あ!イルカだ!!!!イルカがいるよ香織ちゃん!」

「え、ほんと!?でもあっちにはペンギンがいるよ!茉優まゆちゃん!」


 屋外に出ると、屋内ではしゃいでいた香織と高坂さんの二人は、余計にはしゃぎ始めた。


 いつの間にか苗字呼びから名前呼びになってるし……。


「なあ、明琉」

「むむむむ」


 どうやら明琉は、呼びかける前から俺の事を見ていたようで、何か考えているのか顎に手を当てていた。


「明琉、考え事か?」

「……まあな」

「お前、俺の事なんか見て何考えてたんだよ」

「いや〜、嫉妬していたのかなぁ〜と」

「……は?」

「だ〜か〜ら〜!嫉妬だよ嫉妬!慶哉が香織に嫉妬してるんじゃないかなーって思ってさ」

「俺が?香織に?何故」


 何を根拠にそんなことが言えるんだ。

 大体香織に嫉妬することなんて一ミリも……。


「そんなん見てれば分かるっつの」

「嫉妬してるって自覚ないんだが?」

「それは重症だな」

「おいコラ」


 それから明琉は、俺を置いて逃げるように高坂さん達がいる所に小走りで向かった。


 でも嫉妬って、好きな人が異性と楽しく遊んでいたりする時にするんだよな。


 ということは───────‴俺は高坂さんのことを好き‴、なのか…………?


 いや、それはない!!

 だって会ってからまだ一ヶ月しか経ってないんだぞ?いくら何でも……。


 そ、そうだ!これは明琉の思い違いに違いない。

 うん。絶対ない、はずだ───────!


「加賀くーん!何やってるの〜?」


 あー、もう考えるのはやめだ。

 折角の校外学習、楽しまなければ勿体無い。


 そう思い、俺も小走りで高坂さん達がいる所まで小走りで向かった。


「悪い悪い、考え事してた」

「一体何を考えてたのかな〜。ねぇ?け・い・や?」


 ……こいつ、絶対分かってて発言してるだろ!


「加賀くんが何考えてたのか気になる〜」

「あたしも〜!」

「は、ははははー」


 明琉め、後で覚えとけよ。


「あっ…………!!!!」


 明琉の狂言に食いついていた高坂さんは、腕に付けていたベージュ色の腕時計を見て、驚いた様子で声を上げた。


「どうした?」

「もう少しで集合時間になっちゃう……」


 そんなにあれから時間が経ってたのか!?

 俺まだ水族館全然満喫してないんだけど!


「……ゲッ!ガチじゃん。もう集合場所に向かわなきゃ間に合わないぞ」


 明琉も驚いた様子で自分の腕時計を見て、焦りを抑えきれない声音で喋った。


 俺だってまだ海の生き物全く見てないし、これでは水族館に来た意味がない。

 まあ、その分遊園地で楽しめばいいか。


「慶哉走るぞー!早く行かなきゃ肉がなくなっちまう!!」

「なくなるわけねーだろ。肉は逃げやしない」


 そう、昼飯はバーベキュー。

 この校外学習で一番楽しみな時間がやってくる。



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お知らせ


 ちゃんと読んでくれた方には分かると思いますが、香織の一人称を『あたし』に変更しました。

 ご了承ください。

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