第16話 許嫁と校外学習 バス移動編
俺たち二年生は今、横浜にあるレジャー施設に向かうため、バスに乗っている。
そこまではいいのだが……
「
隣に座っているのは
校外学習当日で浮かれているのか、いつもよりテンションが高い。
しかも、初めて私服姿を見るが、綺麗な顔立ちや綺麗な黒髪に似合った清楚な感じの服装で、いつもに増して可愛らしい。
「どうしたの?私のことばっかり見て。あ、私の私服姿に見惚れてたのかな?」
「まあ、そんな感じかな。可愛いと思うよ。すごく」
「え…………」
高坂さんの顔がどんどん赤くなっていくのが分かった。
なんか変なことでも言ったのか?
女子の服装を褒めるだとか何とか、ネットに書かれているのは嘘だったってことか。
「あ、ごめん。何か気に触ることでも言った?」
「……いや、違うの。初めて可愛いって言ってもらえた気がして。その……ありがと」
「……え?あ、うん」
そういえば、これまで一度も高坂さんに可愛いって言ってなかったっけ。
ちょっと自分でも恥ずかしくなってきたな……。
「あの〜、お二人さ〜ん?二人だけの世界作らないでくれます〜?」
後ろの席に座っている
笑顔で喋っているが、間違いなく怒っている。
……だって、雰囲気的にすごく怖いんだもん。
「本当だよねー。許嫁だっていうのは知ってるけどさー、もうこれは‴新婚夫婦‴って感じ」
…………は?
…………新婚、夫婦?
香織の隣に座っている
まだバスに乗車してから、僅か三十分。
高坂さんと目を合わせて話すのが、とても気まずい状況になってしまった。
明琉が変なこと言うから、恥ずかしくて顔を直視できないじゃん!
はぁ……、持ってきたお菓子でも食べて気を紛らわせるか。
俺はバス移動中に食べる用のお菓子をバッグから取り出し、時間的には少し早いが食べ始めた。
やっぱりお菓子はチョコのポッキーが一番美味しいな。チョコポッキーしか勝たん。
「加賀くん……、私にもちょーだい?」
高坂さんは、恥ずかしいのか目線を逸らして
「ん」
平常心平常心。
高坂さんに袋の中に入っているポッキーを差し出すと、不服そうな目を向けてくる。
「え、何?」
「……いや、なんでもない。ありがと」
一体何なんだ?
さっきから高坂さんの様子がおかしいような気がする。
「おい、
「あ?なんだよ」
耳を貸せ、と後ろから明琉が身を乗り出してきた。
言いたいことは分かった。だが……
「………………は?それまじで言ってる?」
「いいからやれって」
……仕方がない。
少し恥ずかしいけど、やるしかなさそうだ。
さっきの不服そうな高坂さんを見る限り、やはり明琉の言う通り‴あーん‴して欲しかったのかもしれないし。
「高坂さん」
俺が高坂さんの口の近くに手でポッキーを持っていくと、高坂さんは驚いた様子でこっちを見てきた。
「……加賀くん、どうしたの?」
「いや、勘違いだったら申し訳ないんだけど、あーんして欲しいのかなーって思って」
「……え、いいの?」
「まあ……、誤解を生むこと間違いなしだけどね」
苦笑しながら改めて高坂さんの口の近くにポッキーを持っていく。
「あーん」
「……どうだ?」
「んー、世界一美味しいかも」
「なんて大袈裟な」
俺たちは苦笑した。
さっきの気まずさが嘘みたいだ。
ポッキーって、すごいなぁ。
高坂さんのあーん顔、すごく可愛かったし。
「加賀くん加賀くん」
「ん?」
「あーん」
「ん」
口に入ったのはイチゴ味のポッキー。
美味しい。
「えーと……、美味しい?」
「……美味しいよ。世界一」
「ふふふ、良かった」
あーんのやり返しを受けるのは予想外だったが、気まずさがなくなって結果オーライだ。
でも、恥ずかしすぎて死にそう……。
そんな俺たちを後ろに座っている明琉は微笑ましそうに見てるが、隣の香織は悔しそうに見ている。
……あれ?
俺と高坂さんが仲良くしているところを香織に見られて良かったんだっけ?
屋上で話していた時、香織に対して高坂さんは俺に微塵も興味がないと言っていたのは、記憶に新しい。
「今更なんだけどさ、香織に見せちゃって大丈夫だったのか?」
「何を?」
「いや……その、あれだよ、あれ」
「あ〜、あーんなら別にいいんじゃない?そこまで気にする必要はないと思うよ」
そう、なのか?
あーんって恋人同士がするやつじゃなかったっけ。
普通にやばくない?気にする必要あるくない?
「高坂さん、落ち着いて聞いて欲しい」
「ん、何?」
「全然大丈夫じゃない」
高坂さんは驚いた顔で見てきた。
もしかして、本当に大丈夫だと思ってたのか!?
しっかりしてそうに見えて、意外に抜けてるところあるよなぁ。
なんて可愛い生物なんだ、この子は。
そして俺たちは恐る恐る後ろを振り向くと、そこにはスヤスヤと寝息を立てて、可愛らしく寝ている香織の姿があった。
特筆すべきことではないが、隣の明琉も静かに寝ている。
取り敢えず一時逃れにはなったが、バスを降りたら覚悟しておかなければいけないな。
そんな嘆息をもらしながら、俺も深い眠りについた。
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