第6話 許嫁の秘密

茉優まゆちゃんに聞かれてはダメなの。ちょっと寝室に来てくれる?」


 俺は今、母さんにずっと気になっていたことについて話があると言われ、寝室に向かっている。

 無論、何故俺に許嫁がいるかだろう。

 高坂さんは俺が許嫁だと知っていたが、俺は何も知らなかった。考えれば考えるほど、色々な疑問が湧いてくる。


「とりあえずどこでもいいから座りなさい。長くなるかもしれないから」


 俺は言われるがままに、母さんが稀に使っている椅子に座る。

 そして母さんは、俺の目の前にあったベッドの上に腰を据えたと同時に喋り始めた。


「まずは慶ちゃんに謝らなきゃね。慶ちゃんに許嫁がいるってこと、今まで隠しててごめんなさい」


 今更すぎない?とツッコミたいが、我慢だ。


「慶ちゃん、小学三年生の頃、覚えてる?」

「覚えてるよ。俺と香織かおりが仲良くなった時期だろ?」

「そう。実は慶ちゃんが香織ちゃんと仲良くなる前にはもう、慶ちゃんは茉優ちゃんと出会ってるのよ」


 俺と高坂こうさかさんは俺が香織と仲良くなる前から出会っていた……だと?

 そんなの全く覚えてないぞ。


「あれは慶ちゃんが小学二年の冬休みの時ね。家族でキャンプをしに行ったの。そして、キャンプ場で出会った茉優ちゃんの家族と仲良くなった。その時の茉優ちゃんは引っ込み思案で、ずっとお母さんの後ろに隠れていたの。そんな茉優ちゃんに、慶ちゃんが一緒に遊ぼうって声を掛けてから、お昼ご飯の時間も忘れて、楽しそうにずっと遊んでいたのよ。その時、茉優ちゃんのお母さんが言っていたわ。『茉優があんなに楽しそうに遊んでいるところ、見たことない』って」

「それが許嫁になる理由と何か関係あるのか?」

「なくはないわね。そして偶然、茉優ちゃんのお母さんと自分たちの結婚の話になったんだけど、その時に茉優ちゃんのお母さんが冗談で、『うちの茉優とお宅の慶哉けいやくんで結婚出来たら良いんですが』って言ってくれて、その時の私はすぐ言ったわ。‴こちらこそお願いしたいですよ‴と」


 何やってんだ、この母親たちはー!

 しかも母さん最後の一言、ドヤ顔で言ってたぞ?

 普通ドヤ顔で言わないだろー!


「じゃあ、俺たちの許嫁の関係は母さんたちの冗談で決まったってことか?」

「まあ、そーなるわね」

「そんなんで高坂さんは許してくれたのか」

「あの時の茉優ちゃん、この話を聞いて相当嬉しがっていたらしいわよ」


 予想を遥かに超えていくな。


「でも、なんでこの話を高坂さんに聞かれたらダメなんだ?恥ずかしいかもしれないけど、わざわざ場所を変えるような話じゃないだろ」

「それはね……」


 一瞬の沈黙。

 そして放たれた言葉は、俺が全く予想も出来ない言葉だった。


「慶ちゃんがもし嫌なのであれば、茉優ちゃんとの関係は無かったことにしてもいいわよ」

「…………え?」


 母さんは、いつもとは違った真剣な顔で俺と喋っている。この言葉は紛れもなく本気で言っている。

 それなら……


「分かった━━━━━━━」

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