第5話 許嫁とお泊まり①
買い物が終わったのは良いけど、この後はどうしたものか。
「この後どうしようか」
「この後?この後は
……え?お泊まり?
年頃の男女が一つ屋根の下でお泊まりだと?
俺はまだ女子とお泊まりをしたが一回もない。幼馴染である
男となら数え切れないほどしたことがあるけど。女子とはちょっと緊張するな。
「随分急だね。でも、親が了承してくれるかわからないよ?」
「それなら大丈夫だと思うよ」
高校生の男女だぞ?いくら相手が許嫁だとしても許してくれるわけ……。
『うちに泊まるのー?全然いいわよー』
そんな馬鹿な……!!
絶対母さん良からぬことを考えてるだろ。
そうでなければ許してくれるわけがない。
「はい、加賀くん。案内よろしくねー」
高坂さんの顔はどこか楽しそうに見える。
一体何がそんなに楽しいんだか。
「分かったよ。じゃあ、行こっか」
※※※
幸か不幸かショッピングモールから俺の家まではあまり遠くなく、歩いてでもすぐ着いた。
「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
俺一人で帰ってくる時はいつも奥から「おかえりー」と言われるだけなのだが、今日は帰ってくると、奥から大きな足音が近づいてくるのがわかった。
「おかえりなさーい!あら!
女の子を家に連れてくるだけで、ここまで「おかえり」が違うなんて。
まあ、初めて女の子を家に入れるし、これが普通か。
「ありがとうございます。それより、お母さんもまだまだお若いですね」
「あらあら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。ずっと玄関に居ると寒いでしょう?さあ、上がって上がって!」
こんな茶番劇を隣で見せられる俺の気持ちにもなって欲しいものだ。
茶番劇が終わり、俺と高坂さんは早速俺の部屋がある二階へと向かう。
ここで一つどうしても見られてはいけないブツがベッド下にあることに気付いた。そのブツとは、男子高校生では持っていない人はほぼいないであろう、エロ本だ。
これだけは何としても見られるのを阻止しなければならない。しかし、ドアの前で待たせれば勘づかれるに違いない。そうなると、高坂さんが俺の部屋から出て行った時がチャンスになる。
「へー、加賀くんの部屋って意外に綺麗だね」
「意外にって、失礼だなー」
「ごめん、ごめーん」
絶対反省してないな。
しかし、今はそれどころじゃない。
俺はさりげなくエロ本が置かれてあるであろう場所の前に座った。ベッドにもたれ掛かるように座ったため、絶対見えないだろう。このまま、高坂さんが部屋を出ていくまで維持しなければならない。
高坂さんは辺りを見回しながら、俺と向かい合うようにして座った。
「なんかこの部屋、シンプルすぎてつまらない」
さっきから酷い言われようだ。
別にシンプルで良いじゃないか。シンプルの何が悪いんだ。高坂さんは一体何を求めているのやら。
「ごめん加賀くん、ちょっとおトイレ借りていいかな」
「ああ、いいよ。階段降りて、すぐの扉入ればあるから」
「分かった。ありがとう」
やっと行ったな。では、始めますか。
高坂さんがトイレに行ったことを確認し、ベッドの下からエロ本を取り出して、元々決めていた場所に何事も無かったかのように隠す。
ここは母さんにもバレていないであろう場所。いくら高坂さんでも見つけられないはずだ。
「ただいまー、ってあれ?加賀くんどうかしたの?」
「い、いや?別に何も無いけど?」
「ふーん?」
いつものような表情で居たはずなのに……。
なんで気づかれるんだ。しかし今の会話なら、まだ何も分からないはず。ギリギリセーフだ。
「慶ちゃーーん!お風呂沸いたわよー!」
母さんが大きな声を上げながら、俺の部屋にノックもせずに入ってきた。
本当にどこまでもデリカシーのない親だな。
「俺の部屋に入るならノックぐらいしろよ」
「ごめんねー。そんなことよりお風呂どーするの?」
風呂か、こんな時は女子が先の方が良いよな。
「高坂さん、先お風呂入る?」
「良いの?じゃあ、遠慮なく」
高坂さんは立ち上がり、俺の部屋を出て風呂場に向かおうとすると突然立ち止まり、こちらに振り返る。
「覗いちゃダメだからね?」
「の、覗くわけないだろ!」
一体何を言っているんだ。この超絶美少女は。
覗いて欲しいのか?覗いて欲しいのなら、いくらでも覗いてあげますよ。
普通の男子高校生ならこの考えは普通だと思うが、どうだろうか。
全国の男子高校生にこのアンケートをしてみたい。普通ではないと答える人は、いない‴はず‴だ!そう思いたい。
そんな意味のわからない事を考えてると、高坂さんが居なくなったことを確認した母さんが俺の部屋に入ってきた。
「だから母さん!俺の部屋に入る時はノックを……」
「慶ちゃん……、話があるの」
「……話?」
「そう。高坂茉優ちゃん、慶ちゃんの許嫁について」
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