第4話 許嫁と初デート②
デートとは言っても、映画で終わりはさすがに有り得ない気がするのだが、どうだろうか。
折角始業式をサボって、今まで見たこともないくらい可愛い女の子とデートをしているというのに。
ここで帰るわけにはいかない。
「まだそこまで暗くないし、どこかに行かない?」
「んー、そうだねー……。じゃあ、ちょっと行きたいところがあるんだけどいいかな?」
「行きたいところ?」
「そそ、ここからだとちょっと遠くなっちゃうけど」
遠くなるのか。
だが、近いよりかは遠い方が此方としては好都合。
もう一層のこと電車を使ってどこかに行きたい。
そんなレベルでまだ帰りたくないのだ。
高坂さんと香織のどちらと一緒にいる方が心地良いか聞かれれば、困るに違いない。
勿論、香織の方が圧倒的に一緒にいる時間が長い。それなら、居心地が悪いなんてことは有り得ないだろう。
一方の高坂さんは、今日初めて話したはずだ。
それなのに何故、こんなにも居心地が良いのだろうか。
「何やってるの
色々と考えてるうちに、高坂さんはあっという間に遠くの方にいたため、俺は慌てて高坂さんの方に向かった。
しかし、確かに考え事はしていたが、そこまでずっと考え込んでいたのだろうか。
「ごめんごめん、ちょっと考え事してて」
「えー?また私のこと考えてたのかな〜?」
映画館に行く途中にも言われたような気がするのだが、高坂さんはこのくだりが好きなのだろうか。
「まあ、そんなことは置いといて、目的地はどこなんだ?」
そう、俺はまだ高坂さんから行き先を聞いていない。ただ行きたいところとだけしか聞いていないのだ。
しかし、何も知らないでどこかに連れて行かれるというのは、スリルがあって楽しい。
「ただのショッピングモールだよ」
どうやら期待した俺が馬鹿だったみたいだ。
でも、一体ショッピングモールで何をするんだ?
「ショッピングモールって、買い物でもしたいの?」
「うーん、まあ、そんな感じかも」
彼此約三十分が過ぎ、俺たちは目的地であるショッピングモールに着いた。
確かに遠いと言われれば、遠く感じるかもしれないが、俺にとってはあまり遠く感じなかった。
俺の家から高校までの距離に比べれば、まだ近い方だ。
因みに、俺の家から高校までどれくらいかかるのか。その答えを聞いて驚く人が大半だろう。
徒歩で約一時間半は掛かる。
ここで、自転車で行けばいのに、とか色々と言われるかもしれない。
しかしそれを言う奴らは、俺が自転車で登校するのを許さない人物が、‴一人‴存在することを知らない奴らだ。
俺が自転車で登校するのを許さない人物は‴香織‴だ。
※※※
今通っている高校の入学式前日、俺は香織と電話していた。これが事の発端である。
「香織、明日どこで待ち合わせする?」
『んー、いつもの公園でいいんじゃない?』
俺と香織は少し前に、入学式は一緒に行こうと約束していた。
勘違いしないで欲しい。
決して、俺から誘ったわけではない。
「じゃあ、いつもの公園で」
『あ!
「ん?」
『明日は自転車じゃなくて、歩きで来てね』
そう言われ、今も自転車じゃなく、歩きで登校しているのだ。
なんで自転車じゃダメなのか考えたことがあったが、結局分からず終いで、そのままこの生活に慣れてしまった。
そのため、ずっと歩いて登校しているのだ。
※※※
「で、着いたのは良いけど、何が買いたいの?」
「……加賀くん?」
高坂さんは俺の名前を呼びながら、近づいてくる。
「え?はい?」
「加賀くんにはデリカシーがないのかな?」
高坂さんは怒った様子で顔を近づけながら、俺の顔をまじまじと見てくる。
「ご、ごめん。そんなに聞かれて嫌だったとは思わなかった」
「今日の予定は本屋に行くだけだから許せるけど、もし私が下着とか買いに行く予定だったらどーする?」
その時の状況について想像してみると、あまりにも恥ずかしすぎて、考えただけで顔が赤くなる。
「やっぱり、お互い恥ずかしいでしょ?」
「うん。ホントにごめん」
「分かればいいのです」
これからは、こういう事は気をつけるとしよう。
またこんな事があったら気まずいし。
しかし、本屋に行くなら俺も何か買おうかな。
丁度今読んでいる本が読み終わって、暇つぶしに困っていたところだ。
「俺も本屋、一緒に行っていいかな」
「え、いいの?」
予想外なのか、真顔で聞いてくる高坂さん。
そんなに俺には本を読むイメージがないのだろうか。それは少し心外だ。
「俺だって本くらいは読むさ」
「意外!如何にも本読まないで、ずっと遊んでいそうな顔してるのに」
顔で人を判断するなんて、とても失礼だ。
せめて少し話してから人を判断して欲しい。
「失礼な!これでもテストの学年順位では真ん中あたりなんだぞ」
「加賀くんすごーい」
棒読みで言ってくる高坂さんは、どこか自分の順位を聞いて欲しそうに見えた。
「高坂さんは、順位どれくらいなの?」
「私?私はね〜」
高坂さんは、聞かれて嬉しそうな顔をしながら、自分のリュックの中を漁り始める。
「あ、あった!」
リュックの中から出した高坂さんの手には、一年生の頃の学年末試験の成績表がある。
「まだ持ってたんだ」
「え、逆に持ってないの?」
成績表をずっと持ち歩くなんて、誰がするか。
「貰った日に捨てるでしょ?普通」
「そんなのしたことないけど。取り敢えず見てみて」
俺は渡された成績表を一通り見ると、驚きすぎて声が出なかった。
「そ……そんな馬鹿な…………」
俺が唖然とするほどの
俺たちが通っている高校の二学年の生徒数は、三百人ほど。高坂さんはその中の三位なのだ。
こんな超絶美少女が、知識も持ち合わせているなど許されるわけがない。
しかし学年を見渡しても高坂さんを悪く言う人など、いないだろう。いたとしても、女子で嫉妬する人が数人いるくらいかもしれない。
……羨ましすぎだろ。
「フッ、加賀くん、思い知ったか!」
「……参りました」
このままこの話をしていると、高坂さんは間違いなく図に乗るだろう。この話はこれくらいにして、さっさと本屋に行こう。
「高坂さん、恋愛小説読むんだ」
「女子なら普通じゃない?私の友達は皆、小説読むなら恋愛小説だよ」
俺は、さっき買おうと思って手に取った小説を、背中の後ろに隠した。
「加賀くん、今手に持ってるものを見せてもらおうかな」
高坂さんは笑った顔で、そう言ってくる。
俺が何のジャンルの小説を手に取ったのか、至極当然のように知っているみたいに。
だが、ここで俺が買おうとしている小説が何か知られるわけにはいかない。
「いや?何も持ってないよ?」
「じゃあ、何で手を後ろに回しているのかな?」
怪しい、怪しい、怪しいとジロジロ見てくる高坂さん。
ここはもう諦めて見せるしかないのか。
俺が買おうとしているこの‴恋愛小説‴を。
しかし、この状態を続けていると、そろそろ周りにいる客の視線が痛い。
「分かった、分かった。見せるからもう勘弁してくれ」
「よろしい!」
「でも条件がある。このことは口外しないこと」
イエッサーと小声で言いながら、高坂さんは敬礼のポーズを取った。
一瞬見惚れてしまったが、すぐに我に返って、自分の持っている本を渡した。
絶対に馬鹿にされると思ったが、そんな予想はすぐにも裏切られる。
「へー、加賀くんも恋愛小説読むんだ。もしかしたら話し合うかもね」
「馬鹿にしないのか?」
「馬鹿にする?なんで?」
高坂さんは別に気を使ったわけでもなく、本心でそう言っているっぽい。
他の人に言えば、馬鹿にされると思っていた俺がバカみたいじゃないか。
「ごめん、なんでもない」
結局、俺も高坂さんも恋愛小説を購入し、二人でショッピングモールを出たのだった。
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