第7話 許嫁とお泊まり②

 俺は高坂こうさかさんのことを、どう思っているのだろう。

 急に許嫁と言われ、家に帰ると、母さんからは、許嫁の話をなかったことにしてもいいと言われた。

 いくら何でも急展開すぎて、俺の頭の中はぐちゃぐちゃだ。


「これからどうすればいいんだろう。俺」


 さっきは、咄嗟に「わかった」と言ってしまったものの、実の所は何も考えていない。

 俺にとって高坂さんは、記憶上では今日初めて会った女の子。そんな女の子との関係なんて、あまり特別に思うわけがない。

 しかし、高坂さんと一緒にいると、香織かおりとは違った居心地の良さがあった。


 本当に、これからどうすればいいのだろう。


「もう考えるのは、やめだ!そういう難しいことは、また今度考えればいい!」


 絶対に今すぐにでも、答えを出した方がいいと思ったが、こんなことを簡単に決められるわけがない。

 この事は明琉あくるにでも相談してみるか。

 今日あった事を全部話して、明琉にも考えてもらおう。



※※※



加賀かがくん、お待たせ。お風呂空いたけど」


 階段を上る手前、風呂から上がった高坂さんに出会でくわした。

 その時の高坂さんの格好は、風呂から上がった状態のままで、濡れた髪に、バスタオル一枚で身体が覆われていただけだった。

 それに加えて、胸の谷間が少し見えている。

 男の家にいるのに、この格好は無防備すぎるだろ。


「……こ、こ、高坂さん。その格好は少し刺激が……」

「…………え?」


 動揺した高坂さんの顔は、みるみる赤くなっていく。


「……見るなーーー!!!!」

「グハッ!!」


 俺は高坂さんに頬を叩かれ、後ろに向かって飛んで行く。

 この場合は、男の俺が悪い。取り敢えず、高坂さんに次会ったら謝らなきゃな。


「……高坂さん、中々良い身体だったな」


 いかん、いかん。

 これ以上言ったら、間違いなく殴られる。

 これ以上この件については、触れないようにしなければ。俺の身のためにも。



※※※



 俺たち三人は、食卓を囲んでいた。その三人とは俺、母さん、高坂さんだ。

 いつもは俺と母さんの二人で夜飯を食べることが多いが、今日は高坂さんもいるため、かなり賑やかな食卓となっている。

 しかし俺は、その賑やかな食卓での会話に入れていない。

 なぜかと言えば、母さんと高坂さんは、ずっと思い出話をしているからだ。

 ただの思い出話をするのは構わない。

 だがこの食卓で行われている思い出話は、‴俺の‴小さい頃の話なのである。それは許されない。

 確かに聞いてて懐かしいな、と思うこともあるが、とても人には言えない話ばかりだ。

 なぜそんな話を俺の前で出来るのだろうか。全く不思議でたまらない。



「高坂さん、さっきは……ごめん」

「い、いいよー、全然。気にしないで。あれは事故みたいな物だし」

「……うん、ありがと」


 夜飯を食べ終えた俺と高坂さんは、俺の部屋に戻り、早速先程の事故の件について、話を始めた。

 一応許しては貰えたが、そんな簡単に許していい物なのだろうか。てっきり、また平手打ちされるかと思ったのだが。


「そういえば加賀くん、なんでさっき話に入ってこなかったの?」

「どうして俺が、あんな恥ずかしい思い出話なんかに入っていかなきゃいけないんだ」

「そっか……」


 高坂さんは、どこか物寂しげに、そう言ってうつむいた。


「えっとー、高坂さん、一緒にゲームでもしない?」

「え、ゲーム?」

「そそ!テレビゲーム」

「ゲームかー、久しぶりだけど、やってみようかな」


 実を言えば、俺もテレビゲームは久しぶりで、やり方なんて全く覚えていない。

 中三の時に明琉あくると《かおり》と俺の三人でやって以来なため、二年ぶりくらいにやることになる。

 ここで、俺が急にゲームをやろうと言い始めた理由を言っておこう。

 今までの展開を見てればわかると思うが、バスタオル一枚の高坂さんを見てしまったりして、話すのがとても気まずいからである。

 さっきは謝って許してもらえたが、まだ少しばかり気まずさが残っている。


「色々あるんだけど、どれがやりたいとかある?」


 とりあえず、自分が持っているゲームのカセットを高坂さんの前に並べた。

 ゲームの種類は少なめだが、アクション系やシューティング系、ロールプレイング系などがある。

 これらのゲームは全部、女子には縁がなさそうなゲームだ。

 強いて言えば、ロールプレイング系のゲームは、やっていそうなイメージがなくもない。

 だが、高坂さんは俺が予想していたゲームとは違うものを選んだ。


「これ、とかやってみたいかも」


 高坂さんが選んだゲームは、大乱闘スマッシュシスターズ、略してスマシスというアクション系のゲームだった。

 スマシスとは、簡単に言えば、約三十人の女キャラから一人選び、闘うゲームである。


「本当に、これでいいの?」

「うん、ちょっとやってみたくなった」


 高坂さんにそう言われ、俺は早速テレビをつけて、スマシスを起動させる。

 高坂さんにコントローラーを渡すと、不思議そうな顔で、こっちを見てきた。


「……高坂さん?どうしたの?」

「いやー、加賀くん。私このコントローラー初めて見たから、使い方がわからなくて。教えてもらってもいいかな」

「分かった。じゃあ、スマシスしてる時に色々と操作方法教えるね」

「うん、ありがとう!」


 こうも笑顔で礼を言われると、少し照れる。


 それから俺たちは、スマシスを始めた。


 カタカタカタカタカタ━━━━━━


 高坂さんは、スマシスにハマったらしく、ずっとコントローラーを持って、テレビを見ている。

 意外にも操作方法を覚えるのが早くて、ちゃんとキャラを使えるようになってから、およそ二時間、俺とずっとこのゲームをしていた。


「ずっとこればかりやってて、飽きないの?」

「逆に飽きるの?」


 疑問を疑問で返された。そんなに楽しいのか。


「でも、もう夜遅いし、寝なきゃ明日起きれないよ」

「それもそーだね。じゃあ、明日の学校休もうか」

「どんだけこのゲームしたいんだよ!」

「だって面白いんだもん。ずっとやっていたいの!」


 えええええええ。

 学校を休んでまで、する事ではない気がするのだが。


「……じゃあ別に明日の学校終わってから、うち来ても良いから、今日は寝よう?」

「それなら寝る!」


 子どもか!

 学校で見た高坂さんは、もっと大人っぽい雰囲気だったため、今とは全然雰囲気が違う。

 今日だけで全く違う一面を見れた気がするな。


「俺も今日はもう寝よう」


 電気を消して、俺はベッド、高坂さんは床に布団を敷いて、俺の部屋で二人で寝た。

 もちろん俺は、学生の本分を逸脱する行為は決してしない。したくないと言えば嘘になるが、母さんの目もあるため、したくても出来ないのだ。

 母さんの目がなければするのか?と問われたら困るが、多分勇気が出なくてしないだろう。

 それだけは分かってもらいたい。

 では、おやすみなさい。

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