第11話 幼馴染と尾行

 あたし、西宮香織にしみやかおりは今、とある男女の尾行をしている。

 その男女の男の方の名前は加賀慶哉かがけいやといって、あたしの幼馴染兼好きな人だ。

 でも、女の方は正直嫌いだ。

 女の名前は、高坂茉優こうさかまゆ

 あたしは慶哉に抱きついていただけなのに、あの女は……。


「加賀くんは私の許嫁なの。あまり近づかないでくれる?」


 何が許嫁だ。ふざけないでほしい。

 あたしだって慶哉の幼馴染だ。

 絶対に許嫁よりも一緒にいる時間が長い。

 それなのに、なんであの女は偉そうに自分のモノみたいに主張するんだ。意味が分からない。


 しかも、慶哉とあの女は教室から出て行った後、始業式にも出ず、姿を消した。

 そのせいで教室の皆は大混乱。


『本当に茉優さんの許嫁なのか?あいつ』

『誰だよあいつ。俺の茉優さんを奪いやがって』

『香織ちゃんもいるんだから、茉優さんに手を出すんじゃねー!タラシが!』


 特にクラスの男子は慶哉に対して、ああだこうだと嫌味を言っていた。

 まあ、クラスの男子の言い分は分からなくもない。


 慶哉が高坂茉優とも繋がっているとなれば、高校の三大美女の二人と繋がっていることになる。

 そうなれば必然的に、高校の男子は慶哉に嫉妬するだろう。

 酷く恨まれて殺される可能性だって有り得るかもしれない。これを聞いた人は大袈裟だとか言うかもしれないが、大いに有り得る。


 あたしたちが通っている高校は女子が少ない。

 そのため、当然可愛い子だってそこら辺を見渡しても、そうそういない。

 だから男子は、貴重な可愛い女の子を失うわけにはいかないのだ。


 自分で言うのも何だが、あたしは女子の中では可愛い方だと思う。告白なんて、何度されたか数え切れないほどされているし、いつの間にか高校三大美女の一人として知られているし。

 聞いたところによれば、あたしのファンクラブだってあるらしい。

 恐らく、高坂茉優もあたしと全く同じ状況だ。

 そんな二人と親密な関係だなんて、他の男子からすれば許せるわけがないだろう。


「あたしも今は同じ気持ちだから、少しは同情するわ」



 でもあの二人、これからどうするんだろう。

 少し遠くから慶哉たちを観察しているためか、話し声が一切聞こえない。

 もう少し近づけば聞こえると思うが、さすがにリスクが高すぎる。


「どうしよう。もう帰ろうかな……」


 これ以上ただ尾行を続けても、もう無駄な気がしてきたし。

 映画館から出た慶哉たちは、ショッピングモールの中にある書店に入ってから、暫く出てきていないこの状況。

 もう何もすることないだろうし、あたしも帰ろうと思ったその時。


「この後どうしようか」


 書店で買い物を終えた二人が出てくるのが見えた。楽しそうに笑いながら。


「この後?この後は加賀くんの家で‴お泊まり‴の予定だけど」


 …………は?


 あの女、今なんて言った?

 泊まりって聞こえたような……。


「分かったよ。じゃあ、行こっか」


 え?え?本当に泊まるの?

 あたしでもまだ慶哉の家に泊まったことないのに?

 確かにあたしから慶哉の家に泊まりたいって言ったことはないけど。泊まれるなら、あたしも泊まりたいって言えばよかった!!


「あれ?待って、やばい!見失った!」


 色々と考えてたら、いつの間にかあの二人いなくなってるじゃん!


「……はぁ。もう帰ろっと」


 別に今日はもう帰ってもいいだろう。

 だってあたしは、あの二人の関係を終わらせることが出来るかもしれない秘策を思いついてしまったのだから。

 ダメだ。考えるだけで笑みがこぼれてしまう。


 これでやっと慶哉は、あたしのモノになる。



※※※



 朝起きると、携帯に一件のメッセージが届いていた。無論、送り主は慶哉だ。


『今日は一緒に登校出来なくなった。ごめん』


 恐らく高坂茉優と登校するのだろう。

 悔しいけど、今は我慢だ。


「今日の学校、楽しみだな〜」


 そう呟いたあたしは、いつもの時間よりも早く家を出て、学校に向かった。


 いつもより早い時間に学校に着いたのはいいのだが……、こいつら、さすがに鬱陶しい。


「香織ちゃーん、ここで何してるのー?寒いし、一緒に教室行かなーい?」

「いやいや香織ちゃん、俺とあっちで二人きりで話そうよ」

「おい、抜け駆けする気か!?香織ちゃんはみんなのモノだぞ!」


 そもそもあたしは、貴方たちのような名前も知らない人たちのモノになった覚えはないし。

 ただあたしは慶哉たちの登校を待ってるだけなのに……。はぁ、本当に邪魔なんだけど。


「あ!見〜つけた」


 あたしの用があるのは慶哉。ではなくて、今は高坂茉優の方だ。

 慶哉は自分に用があると思っていたらしく、顔が引きつっていたが、高坂茉優は真顔であたしを見ていた。


「高坂茉優さん、ちょっと話があるんだけど。いいかな?」


 あたしは微笑みながら、そう言った。

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