第10話 許嫁と修羅場①

「おい香織かおり高坂こうさかさんに話ってなんだ」

慶哉けいやには関係ないから黙ってて。あたしは、‴高坂茉優こうさかまゆさん‴と話がしたいの」


 そう言った香織は、気味の悪い笑顔を高坂さんに向ける。


「早速本題に入るけどさ、あんたは慶哉と付き合ってるわけ?」

「いいえ、付き合ってないわ」

「ふ〜ん、じゃあ昨日のあれは何だったんだろうな〜」


 いつもの香織とは思えない口振りだ。

 いつもはこんな喋り方じゃないのに。

 高坂さんに何か恨みでもあるのか?


「……昨日?」

「恍ける気?昨日あんたは教室であたしになんて言った?」

「えーっとー、とても言いにくいのだけど……」

「何よ」

「全然覚えてないわ。ごめんなさい」


 高坂さんのその一言で、一瞬の沈黙が流れる。

 その場にいた高坂さん以外の人は皆、驚きで言葉が出なかったのだろう。


「……は、嘘でしょ。昨日の事よ?あんたは昨日の事も覚えてないの?」

「だって、昨日は色々ありすぎたから。しょうがないと思うの」

「じゃあ、昨日やった事で覚えている事を言ってみなさい」

「スマシスをやったこと!」


 高坂さんって、もしかして天然なのか?

 恐らく香織が聞きたいのは、‴俺と高坂さんがどんな関係なのか‴だ。

 ここは険悪な雰囲気になる前に、俺がなんとかしなければ。


「おーい、二人共、そろそろここで話すのは止めないか?周りの目が……」

「慶哉は黙っててって言ってんじゃん!何?そんなにあたしにこいつと話させたくないわけ?」

「いや、そんなことはないけど……」

「じゃあ口出ししないで!」

「あ、はい」


 香織に怒鳴られたのは、何気に初めてかもしれない。本当に今日の香織、どうしたんだ?

 もしかして、今日俺が一緒に登校出来ないって言ったこと、怒ってるのか?

 それで高坂さんに八つ当たりしてるなら、さすがにそれは許されない。


「おい香織!もしかして俺が今日一緒に登校出来ないって言ったこと怒ってるのか?」

「それもあるけど、あたしが言ってることは……!」

「香織が知りたいのは俺と高坂さんの関係、だろ」


 高坂さんは、何も分からないのか首を傾げていた。

 俺が話すしかないのか……。


「そうだよ。で、どうなの?」

「この場で言わなきゃいけないって分かってるんだが、ここでは言えそうにない」

「は?」


 香織が俺に対してわだかまりがあるのは間違いない。

 そして、ここで俺と高坂さんの関係について話せば、香織の蟠りはなくなるのかもしれない。


 だが、周りには俺と高坂さんの関係の噂を聞いているであろう男が大勢いる。

 恐らく昨日の時点では、まだ確証を得てはいないはずで、ただの噂として話題になっているだけ。

 それをここで話してしまえば、嘘かもしれない噂を真実として受け止められてしまい、俺への殺気が強まるに違いないのだ。


「香織、すまん!この話はもう一度昼にしないか?」

「え、なんでよ。逃げる気?」

「違う!ここでは言えない事情があるんだ。だから改めて昼に話そう」

「わかった……」


「行こう、高坂さん」

「え、うん?」


 俺に手を引かれた高坂さんは、戸惑った様子でついてきている。

 なんで戸惑っているのかはわからない。


「ねぇ、加賀かがくん」

「ん?何?」

「あの香織って子、置いてってよかったの?」

「いやいや、一緒に来てどうするの。絶対気まずくなるだけだよ」

「あー、そっか」


 高坂さんって、本当に天然なんだな。


「そういえば、勝手に昼の用事作っちゃったけど、何か用事とかあった?」

「私は大丈夫だよ。元々加賀くんと食べる予定だったし」


 …………え?


「え、高坂さんの友達はどうするの?」

「話せば大丈夫だよ。もしかして、私と昼ご飯食べるの嫌?」

「いや、別に嫌じゃないけど……」

「じゃあ決まりね!」

「うん、わかったよ」


 出来たてのカップルのような話をしていた俺たちを後ろから見ていた香織は、右手に持っていたスマホを握りしめた。


「あの女、あたしから慶哉を奪った……。絶対に許さない……!」


 香織が握りしめていたスマホの画面には、‴俺と高坂さんが抱き合っている写真‴が映し出されていた。

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