第3話 儚きもの

僕はずっと昔から、人を傷つけたくないと思ってきた。

だから、ちょっと内気だったかもしれない。

一人で本を読むことが多かったし、お喋りは苦手だったし、いまでもそうだ。

現実には存在しないものの方が好きだった。

お伽話やファンタジー、SFの類いに心惹かれた。

批評や評論も苦手だ。たとえ、それが当たっていたとしても、きっと指摘された方はいい気持ちがしないと思うから。

何であれ、一つの作品を作り出す労苦は、他人が窺い知れないものがある。

売れっ子になると、たくさんのスタッフを抱え、出版社にも協力を得て、少しは楽になるのかもしれない。

でも、最初の一作は自分一人だ。ダメかもしれない、つまらないのではないか、などという思いに悩まされつつ、一字一字書き進めていく作業は、果てしがない。一体いつ終わるのだろうとため息が出る。

特に、現実に存在しないものを描くときは、そうだ。誰も知らないものたちのドラマが、本当に受けるのか。自信はない。

今はインターネットがあり、何人の人が読んでくれたか、すぐに分かる。

落胆も多い。同時に、ホッとする。

変に受けると、後が怖いから。

ダメダメなくらいが丁度いいという気もする。

誰も傷つけない物語が、誰かを励ましたり、誰かの力になったりすることを夢に見る。

儚い夢だけど、いつかは…

そして、きっと…

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