第8話 静かな毎日

僕は静かな毎日を過ごしたい。

庭のある一戸建てで、移ろいゆく四季を眺め、日々の小さな変化を愛で、ゆったりとした時間を過ごす。

妻や娘がいて、たまに訪ねてくれる友もいる。

晩酌の酒に喉を喜ばせる。

程よい酔いを楽しむ。

熱い風呂に入れば、やがて眠くなる。

布団に入って数分、何も考える事なく睡魔に落ちる。

年とともに、夜中に何度か目が醒めるようになったのが難点と言えば難点。

でも、若い頃のように、布団の中で思い悩むことはなくなった。

仕事を考え、職場の人間関係を憂い、取引先の無理難題を煩うことは、もうない。

夢は幼き頃に向かう。

長く忘れていた思い出が夢となって現れる。

いいこともあり、嫌なこともある。悲しいこともあった。

全ては捨て去るためにあると思う。

歳をとると、やがて来る死に向かって、ゆっくりと準備を始めているのだろう。

過去のさまざまなことを、時系列に関係なく、時には人も入れ替わり、夢の中で追体験する。

目が醒めると、それらが過ぎ去ったことであるとわかる。

死ぬ時に走馬灯のように過去を思い出すというが、それだと忙しい死になる。

死の時には、何も煩わず、ただこれから行く世界のことを思いたい。

静かな毎日の先では、そうあって欲しい。

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