概要
現世から流れつく『モノ』たちが住まう異界に、少女はいつの間にか迷い込んでいた。
少女が出会った『絵巻屋』と『化身』と名乗る青年たちは、
この異界で存在があやふやな『アヤシ』を描くことによって、
『モノ』として定義・固定することを生業としている。
彼らは、行くあてがない少女に『写見(うつしみ)』と名付けて一旦そばに置くことにする。
『写見』は、『絵巻屋』のもとに次々と持ち込まれるトラブルに巻き込まれていき――
これは――『写見』と呼ばれた少女が、この世界で絵を描いていくまでの物語。
主人公: 8歳
朝読小説賞キャッチ: 失いし者たちが集まる異界で、互いに傷を癒しあう優しい和風FT
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!みんな傷ついてここにいる、だからこその不器用で優しい世界
異界に迷いこんだ少女の視点で語られる不思議な世界。
身元を引き受けた絵巻屋と化身によって、少女は『写見』という名前を与えられ、悲喜こもごもの様々な騒動に向き合っていくことになります。
そして随所にちらつく不穏な気配…。
全ての謎が集約する終盤で登場人物たちが背負ったものが明かされていきますが、特に写見の負う秘密は残酷で非常に辛いもので、読んでいて心が苦しくなりました。
けれど、彼女が葛藤の末に選び取った決断によって、読者は絶望の底から光が射す結末へと掬い上げられます。
本当にみんな不器用(特に絵巻屋)で、あたたかくて…抱き締めたくなりますね!
最終章はずっと泣いていました。
このモノガタ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!世界観と、個性溢れるキャラクター、一つ一つの物語に心揺さぶられる作品
「異界」という不可思議な世界観の中で繰り広げられる物語と、言葉の端から、仕草から醸し出されるキャラクターの個性が輝る作品だと感じました。
一つ一つの物語がしっかりとしたドラマになっていて、主人公が不器用に、それでも懸命に成長していく姿が強く印象付けられます。そして、時おり顔を出す切なさも、静かな余韻を残していたように思います。
個人的にとても楽しめました。次の話、次の話、というワクワク感もありましたし、テンポが良くて読みやすかったことも高評価の理由です。時に「おいおい」と突っ込みながら、時に「うんうん」とうなずきながら、楽しめました。次回の作品も楽しみにしてます。 - ★★★ Excellent!!!異界に描くは、想い込めた真のカタチ
己が何者なのか、記憶も過去も、自身の姿すらも失った少女が不思議な異界にて『写見』という名を与えられ、『絵巻屋』と『化身』なる二人のお兄さんと様々な事件と向き合い、『自分』を取り戻し、さらにその先へと進んでいく――そんな成長と優しさの物語です。
優しいと書きましたが、写見に隠された秘密はあまりに残酷で、目を覆いたくなるほどの悲しみと辛さに満ちています。
だからこそ、優しさが痛いくらいに身と心にしみるのです。
写見は与えられた名の通り、しっかりと目を開けて立ち向かい、時に届かない不安に躊躇いながらも手を伸ばし、全てを認めて受け入れ、そして大きな決断をします。
三人にずっと一緒にいてほしい…続きを読む - ★★★ Excellent!!!どのキャラも立っていて、どんどん好きになってしまう不思議。
写見はなぜこの異界にやってきたのか。絵巻屋の過去に何があったのか。化身はどうして、物事主はどうして、道行はどうして……さまざまな疑問がエンジンとなってスクロールをせかす。更新が待ちどおしかった。クライマックスからは涙が止まらなかった。愛し過ぎた。哀しすぎた。あげくの、嬉し過ぎる大団円。悔しいが、著者の思う壺で踊らされた年末年始になった。
後になって落ち着いて考察してみると、どの登場人物も愛おしい。
言っておくが『みんな良い人』で気持ち悪い、とは違う。
どいつもこいつも可愛いのだ。ダメなとこ、めっちゃあるけど。
新年早々、いい作品に出会えた。
幸先が良い。
著者殿に礼を言いたい。
楽しませ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!これは優しい物語だ
「自己もまた、このような他者もしくは世界なしには決して存在せず、これらからの抵抗を受けながら存在する」
自分という存在は他者からの存在無くては在り得ないのだ。
と、少々堅苦しい前置きからレビューさせていただきます。
一話から最終話まで読む中で、頭の中にあったのはディルタイのこの言葉でした。
主人公は自分を忘れた女の子。
かたちも名前もない彼女はともすればいないものでした。
ですが『絵巻屋』と『化身』に出会い、自分という存在を地につけた瞬間、この物語の主人公の長くて短い自分探しが始まります。
街の人に暖かく見守られ、認められ、けして彼女に起こることはいいことばかりではないけど…続きを読む