カタチ写してモノと見る 〜異界絵巻屋定義エンギ

黄鱗きいろ

一段目

第一章 異界に落ちた少女

初話 えまきやえんぎ

 むかしむかし、あるところに……。


 ……ええ?


 そんな始まり方はつまらない。もっとかっこよくて面白い話がいい、と。


 まったく、注文が多いですね。話してあげませんよ?


 ………。


 放っておいてください。ぶっきらぼうなのは生まれつきです。無愛想なのもね。


 大丈夫。これは大団円のモノガタリですよ。


 何しろこれは『えんぎ』ですから。『えんぎ』は大団円と相場が決まっているものです。


 ほら早くお話を始めましょう。こちらにおいでなさい。


 さあ、しゅるりと開いた絵巻をのぞき込んで。





 これは、とある女の子のモノガタリです。


 何も望まなかった彼女が、すべてを望むまで。


 彼女が絵を描いて、この世界で生きていくまで。


 そんな幸せで傲慢で力づくなモノガタリ。


 さあさ、ごらんなさい。


 ――モノガタリの始まりは、異界のどこかにある狭い路地からでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る