これは優しい物語だ


「自己もまた、このような他者もしくは世界なしには決して存在せず、これらからの抵抗を受けながら存在する」
 自分という存在は他者からの存在無くては在り得ないのだ。
 と、少々堅苦しい前置きからレビューさせていただきます。
 一話から最終話まで読む中で、頭の中にあったのはディルタイのこの言葉でした。

 主人公は自分を忘れた女の子。
 かたちも名前もない彼女はともすればいないものでした。
 ですが『絵巻屋』と『化身』に出会い、自分という存在を地につけた瞬間、この物語の主人公の長くて短い自分探しが始まります。
 街の人に暖かく見守られ、認められ、けして彼女に起こることはいいことばかりではないけど必ず誰かがそばにいてくれるという安心。

 そして、自分という存在を認めるために向かい合わなければならない過去。
 彼女の過去になにが起きたのか。
 それに向き合えるのか。
 後半に進むにつれ、主人公たちも読者も重い足取りで歩いていく錯覚を覚えます。
 だけど一人ぼっちではありません。
 きっと、その先には……。

 自分という存在は他者からの存在無くては在り得ない。
 彼女と彼らは、己と、他者と、どう認めるのか。
 そうして最後に。
 彼女たちの未来はぜひあなたに見届けてほしいのです。


 ます!


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