百合は花や葉の大きさに反して、茎がとても細い植物。この作品の主役である日芽子と月彦も、百合の茎のように折れてしまいそうな体を持っています。
タイトルにもあるアノレキシア(拒食症)や、性同一性障害を患い、体内外どちらも脆い月子こと月彦。「彼」と共に過ごしていくことで、自分のなりたかった姿に気付き、痩せ細り小さくなっていく日芽子。危うい者同士が雛のように寄り添い、冷たい手で温め合う様子、二人が好む旧い音楽や書籍で満たされた平穏な世界、「少年少女」や「老婦人」といった「性別」から遠い存在への憧れ――ほの暗くも美しく、時には可愛らしさすら感じてしまう光景が、繊細な感覚と美麗な文章で書き出されていきます。
触れれば容易く壊れそうな、硝子で作られた百合のように危うく、痛々しく、けれど健気で愛おしい。そんな二人がたどり着く結末には、感慨深いものがあります。
純粋無垢、無色透明な二人を描いた文学、ぜひご堪能ください。
ドラッグストアで登録販売者として働く女性が、ある日店内で出会った美しい客。性別不明の妖しい美貌を纏うその人は、「身体は女性、心は男性」という性同一性障害を抱えた女性だった……いや、心は男性なのだから、男性と呼ぶ方が相応しい。
この物語は、そんな二人の出会いで幕を開けます。
男性の心を持ち、女性としての体の成熟を受け入れられずにアノレキシア(拒食症)を患う彼、月彦さん。明確な性を持たない彼に、彼女——日芽子さんは一瞬で心を惹かれます。急速に心の距離を近づけた二人は、やがて互いの想いを強く結び合わせます。
こうして心を結んだ二人に立ち塞がるいくつもの困難。やがて、月彦さんを支えているかに見えた日芽子さんの心にも、深い闇が潜んでいることが明らかになり——けれど、それらの困難を渾身の力で打ち砕きながら前進することで、彼らは初めて「健やかな幸せ」へと近づいていきます。
現実世界の生きづらさを拒み、卵の殻の中へ留まっていたいと願う、雛にも似た二人。彼らは、一人ひとりでは、巣を蹴って羽ばたくことはできなかったかもしれません。心の病という深い恐怖に打ち克ち、二人が巣立ちを成し得たのは、自分自身を痛めつけることを止めて互いを支え合おうする「本当の愛情」が二人の心に育ったからに他ならない。——読み終えた後に、そんな強烈なメッセージが心に刻まれます。
心と身体に苦悩を抱えながら生きる「人間」という生き物。そんな、痛みや苦しみに満ちた時間に柔らかく寄り添うような、繊細な言葉選びと透明感に満ちた筆致は大変魅力的です。
触れれば壊れそうな脆さを漂わせながら、同時にしなやかな強さと温もりを感じさせる、生の闇と光に満ち溢れた物語です。
物語の展開がうまい。
そして、登場実物が魅力的。なにより、文章がとにかく美しくて、詩のようにすら感じます。
この作者さまは心を書くのがすごくうまいと思います。心理描写というより心。心をそのものを書いているような印象があります。
変な説明の仕方になっていますが、読めばわかってもらえると思います。
作中にはつらい部分も出てきます。でも、それにすら優しさを感じます。やっぱり心を書いているからなんだと思います。
心を書いた作品が、読者の心に刺さります。
僕はレビューが下手なので、作品の良さが伝わっていないと思います。
ですから、実際に読んで確かめてください。
儚くて美しくて、とても優しい、そんな物語です。
拒食症、同性愛、性同一性障害。赤裸々な言葉が並ぶタグとあらすじでどんな生々しい内容が綴られるかと思われるでしょうが、その内容は選び抜かれた言葉で穏やかに語られる純文学です。
自分の体に与えられた性を受け入れられず、現実と理想の間に生きる月彦。食べるのを拒むことで本当の己を貫こうとする痛み。
自分の生まれた体ゆえに受ける屈辱から、おんなとして生きることへの拒否感を募らせる日芽子。社会や家族という器の中でがんじがらめになり、嘔吐することでしか自分を逃せない痛み。
二人の痛みは違うようでとても似ています。そんな二人が出会った時に運命を感じるのは必然だったかも知れません。
お互いへの想いは依存から本当の愛へと育っていきます。それは殻の中にこもって大人になることを拒む雛が、初めて自分の力で殻を破り、巣立とうとする力です。
大事な人のために生きることはつまり自分のために生きること。苦しみの上を共に歩ける人がいるということ。この作品はそんな唯一の人に巡り合える奇跡を描いた愛の物語でもあります。
時には折れそうになるかも知れません。でもこのふたつの百合はきっと互いに寄り添い、支えあい、これからも咲き続けてくれることと思います。
生きることへの前向きで静かな強さを感じる作品でした。
僭越ながら推薦文を書かせて頂きます。
描く対象に作者様が真摯に向き合ったことが伝わる、そんな作品が私は好きです。フィクションだから、エンタメだからといって、被写体をいたずらに消費するような創作物は好きではない。現実世界を舞台にした文芸なら尚更のこと、一歩間違えば登場人物と重なる属性や経験を持つ人を傷つけてしまう危険性を孕んでいます。
『アノレキシアの百合』という作品に対して最初に感じたものは、登場人物たちにどこまでも誠実に向き合おうとする作者様の眼差しでした。そこに映し出されていたのは、「キャラクター」が演じる悲喜劇ではなく、懸命に生きようとする「人間」の姿でした。描かれているというより、映し出されていると表現した方がしっくりきます。読者はさながらドキュメンタリー番組の視聴者でした。
日芽子さんと月彦さん。愛し合う二人は、一歩踏み出すたびに傷口に血が滲む、そんな人生を歩んできました。
自分がいないと回らない職場への責任感から、摩耗する精神に鞭打って接客業に勤しむ日芽子さん。帰宅した彼女を優しく受け止める彼、月彦さんは、生物学的には彼女です。
名を、月子といいます。
性別違和と拒食症《アノレキシア》を抱える月彦さんにはどこか超然としている部分があり、その境遇は他人の価値基準で幸・不幸を測れるほど単純ではありません。彼は体重37㎏ちょうどを維持して生きるプロ・アノレキシア。彼の病める精神は、自身の在り方を肯定していました。
そんな彼に、日芽子さんが惹かれる理由。それが語られる箇所では特に、作者様によってかき集められた知識と、深い洞察が冴えわたります。
互いに依存度を強めていく二人の行く末に、光はあるのでしょうか。光を見つけたとして、そこに向かってゆく余力は残っているのでしょうか。暗闇の中にいた時間が長いせいで、眩しさに目をつむってしまうことはないのでしょうか。
まだ読まれていない方は、是非とも第一話を読んでみて頂きたいです。二人の痛々しくも鮮烈な生の記録を見守ることができた二カ月間は、ほんとうに貴重な体験でした。
絶望の淵を見つめないと語れない希望があると思います。明るいだけの励ましでは、明るくならない心があります。『アノレキシアの百合』はまさに、暗闇の中でこそその眩さに気付けるような、淡い光を見せてくれる作品でした。この小説により多くの方が出逢うことを願って、ここに推薦文を寄せさせて頂きます。
ドラッグストアの店員の主人公は、華奢な少年と出会う。しかし少年の生まれながらの性別は女。しかし、太ることに怯え、胸の膨らみを日々憎む「少年」と主人公はパートナーになっていく。拒食症の少年の家に主人公は入りびたり、二人で甘美な時を過ごす。拒食症の人は、自分に優しい人に依存する傾向がある。主人公はけしてこの関係が共依存という「症状」でないとしていた。
徹底的にカロリーを抑えた食事と、クラシック。そしてロリータファッション。主人公は永遠のお姫様。少年は王子様だった。
そして二人は危険な病的遊戯に溺れる。リストカットごっこ、である。赤いエナメルを垂らして、「傷口」を作り、流れる血液を演出する。二人だけの世界で、二人で身を寄せ合い、互いを想い合って褥に横たわる。それが続けばいいと思っていた。しかし、事件が起こった。
主人公の家族が「彼氏との同棲」が「嘘」だったと気づき、主人公を連れ戻しに来た。そして主人公は入院することに。ところが、主人公を訪ねた医師に、「彼を助けててあげてください」と言われる。病室で彼は死んだようにベッドに横たわっていた。
果たして、二人は今後どうなるのか?
病的なまでに閉ざされた二人だけの甘美な世界。
女性でありながら自分の女性的な部分を憎む彼と主人公の関係は、けして今までのガールズラブや百合にはない空気感があり、新しい形の関係性が描かれている。
この、むせ返るような花の香りに満ちた世界観に、溺れませんか?
是非、御一読下さい。
言葉へのこだわりが随所に感じられる文章で、美しい詩を読んでいるようです。
ひとの悩み苦しみに無理解な世間からときに遠ざかり、ときに近づこうと努力するふたり。
ふたりを見守る繊細な感性が、やさしくてかなしくて美しい世界を紡ぎ出します。
透き通った卵のなかの二羽の雛鳥。生まれること、成熟することに抗うアノレキシア。禁じられた遊び。永遠の少年と少女。(本編を楽しんでいただくためにここでこれ以上は書きませんが、)さまざまな形をとって波のように繰り返しあらわれる耽美なイメージに、心地よく溺れてしまうのです。
ふたりの遍歴がどこへ辿り着くのか、どきどき悶えながら見守っています。
多くの人が、健康でいたい。若くいたい。綺麗になりたい。異性にもてたい。美味しいものを食べたい。社会的に成功したい……そんな限りない欲望をもっています。けれど幸せってなに?と考えたとき、社会の「普通」や「常識」とかけ離れた自分の望みを見つけたら?
主人公の日芽子と恋人の月彦くん。二人は成熟した女性特有の形体を嫌悪し、さらには食べること、結婚すること、社会の中で犠牲的に働くこと、それらと向き合い遠ざかっていきます。
二人は不器用で危うく見えるので、読んでいてハラハラします。けれど多くの人が妥協した生き方をするなかで、最後まで不健全ともいえる生き方を貫く姿勢。案外強い人かもしれませんね。
幸福の形は人それぞれ。既定の枠組みから外れた先にも幸福と愛はあるのだと、二人が教えてくれます。
愛の檻の中で、閉じ込められた本当の自分。
心は追い付かぬまま、変容していく体。
行場無く蓋をした想い。
終焉を願う心を紅い血が癒す。尖った頸椎の愛しさ。
大人になりたくない。
穢れ無き透明な存在でいたい。
痛切な希求は体を蝕むのか、解放していくのか。
拒食症という病を通して描かれる少女の魂は、何処かで自分自身と重なります。
呼び覚まされるあの頃。蓋をした想いが溢れ出す。
少女の真摯に生きる姿に、浄化されいく。
物語はまだ途上ですが、これは救済の物語だと思うのです。
ただ美しいだけの文章ならば、これほど心に響かない。
どうか、どうか。
あの頃のあなたへ、届きますように。
綺麗になりたい。大人になりたくない。
誰しもが通る道筋なのかもしれません。
主人公は、綺麗さを追求するあまりアノレキシア(拒食症)になってしまった彼(性別は女性)に寄り添う、とても心優しい女性です。
だけど優しいあまり、ストレスを人一倍受け、彼女にもとても辛い過去がありました。
そして、愛を育み彼女も変わっていきます。
彼女と彼の危うさ、美しさ、だけど心から惹かれ合う純粋さから目が離せません。
続きを読まずにはいられない二人を見守りたい。
応援したい。
そう思います。
彼も彼女と過ごす事で、良い方向に少しずつ変わっていきます。
しんどい今を頑張っている方、是非読んでみて下さい
(*´ω`*)
アノレキシア、それは、拒食症のこと。
日芽子さんと月子……月彦さんの、葛藤を描いた恋物語です。
しかし、これはただの恋物語ではありません。現代病と言われている病を取り上げ、深掘りされたとても興味深い物語です。
「普通」に生きることの難しさ、他人との距離の取り方、親子とはどんな関係で保てば良いのかなど、副題と言うのでしょうか、さまざまなことを考えてしまいます。
認められれば、楽になるのでしょうか?
でも、求められるとは具体的にどうすれば良いのか、認められた先はどう生きたら良いのか、と、読み進めるたび自分の中の今まで持っていた価値観が変わっていくのがわかります。
医療系や心理系など、さまざまな知識がないとここまでしっかりとしたストーリーは作れません。その緻密さに脱帽しながら読んでいます。
どうか、日芽子さんと月彦さんさんが笑って過ごせる、幸せだと感じる最後を迎えられるよう、願いながら続きも読んでいこうと思います。
この危うさ、癖になりそうです。
息苦しいと思うことがある人…人間関係に四苦八苦している人に特に読んでいただきたい作品です。
人の心を追い詰め、傷つけるのは、悪意のこもった言葉だけではありません。
多くの人々が普段の生活の中で、当たり前に思い、何の疑問も持たずにいる常識、慣行、良かれと思ってかける善意の言葉ですら、傷つく人々がいます。
常識通りに生きれない自分に罪悪感を抱いたり、否定をされてこの世から消えてしまいたいとまで思いつめてしまう人々がいるのです。
この物語の主人公たちは、アノレキシア(拒食症)を患っています。
女性の体と男性の心を持つ月彦は、自分の葛藤を周囲に認められずに苦しみ、食べることを拒むようになります。痩せて性別を超越する美しさを求めることでなんとか命を繋いでいました。
そんな美しいアンドロギュヌス(両性具有)と運命的な出会いをした日芽子。
彼女は初め、月彦の良き理解者でした。でも、日芽子にも抱えた悩みがあり、やがて二人は共に肩を寄せ合って、互いを唯一の拠り所としながら小さな鳥かごの中で震えて過ごすようになっていきます。
自分たちの存在を最小限にして、死の隣で生きる二人。
どうかこの主人公たちが、安心して息を吸い、少しでも明日の幸せを思い描きながら生きていかれるようにと、願わずにはいられません。
作者様が心理、医学、栄養学などの知識をしっかりと調べられて、真摯に向き合い、愛情を込めて紡がれた言葉の数々は、美しく、誠実さに満ちています。
そして、静かに苦しみに寄り添ってくれます。
是非多くの方に読んでいただき、気づきに満ちた言葉を噛み締めていただけたらと思います。
ドラッグストアで働く主人公の日芽子が、男性の心と女性の体を併せ持つ月彦と出会ったことで動き出す物語。
拒食症や性の認識といった、遠いようで手を伸ばせば届きそうなところにある、私たちにとってもリアリティーのあるテーマですが、流れるような文体と美しく透明感のある情景描写によって美術品のように感じながら読み進めています。
日芽子と月彦の関係性は儚く、ともすればあぶくのように弾けてしまいそうな危うさを孕んでいますが、それ以上に培われる愛情は深く、そして温かい。不器用ながらも距離を縮めていく二人に、どのような形であれ幸せになって欲しいと願ってやみません。
美しいものを感じたい、と願う人に、とびきりの『美』を与えてくれる作品です。是非ご一読ください。
ドラッグストアで働く日芽子が出会ったのは、女性の身体に男性の心を秘めた美しき花・月彦。
月彦はアノレキシア(拒食症)。
身体にほんの少しの肉をつけることさえ拒絶し、ゼロカロリーのゼリーばかりを口にする。
見ていてとても心配になってしまう月彦を、日芽子は大きな愛で包み込み、否定することなく、ともに永く歩んでいこうと心配ります。
彼女の考え方、愛し方、生き方には実に多くのことを学ぶことができます。
健康とは、人生とは、愛とは。
世間一般とは少し違う解を持って、慎ましやかに寄り添って生きる二人の姿は、まさに愛らしい百合の花のように、世界の片隅に咲き誇るのです。
作者が得意とする、隅々まで余す所なく美しい言葉の波に、可憐なる花に、ともに陶酔してみませんか。