鎖された耽美な世界で咲き誇る、純真な二人の物語

百合は花や葉の大きさに反して、茎がとても細い植物。この作品の主役である日芽子と月彦も、百合の茎のように折れてしまいそうな体を持っています。

タイトルにもあるアノレキシア(拒食症)や、性同一性障害を患い、体内外どちらも脆い月子こと月彦。「彼」と共に過ごしていくことで、自分のなりたかった姿に気付き、痩せ細り小さくなっていく日芽子。危うい者同士が雛のように寄り添い、冷たい手で温め合う様子、二人が好む旧い音楽や書籍で満たされた平穏な世界、「少年少女」や「老婦人」といった「性別」から遠い存在への憧れ――ほの暗くも美しく、時には可愛らしさすら感じてしまう光景が、繊細な感覚と美麗な文章で書き出されていきます。

触れれば容易く壊れそうな、硝子で作られた百合のように危うく、痛々しく、けれど健気で愛おしい。そんな二人がたどり着く結末には、感慨深いものがあります。

純粋無垢、無色透明な二人を描いた文学、ぜひご堪能ください。

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