繊細な人ほど傷つきやすい 片隅で震える人々に寄り添ってくれる物語です

 人の心を追い詰め、傷つけるのは、悪意のこもった言葉だけではありません。
 多くの人々が普段の生活の中で、当たり前に思い、何の疑問も持たずにいる常識、慣行、良かれと思ってかける善意の言葉ですら、傷つく人々がいます。
 常識通りに生きれない自分に罪悪感を抱いたり、否定をされてこの世から消えてしまいたいとまで思いつめてしまう人々がいるのです。

 この物語の主人公たちは、アノレキシア(拒食症)を患っています。
 女性の体と男性の心を持つ月彦は、自分の葛藤を周囲に認められずに苦しみ、食べることを拒むようになります。痩せて性別を超越する美しさを求めることでなんとか命を繋いでいました。
 そんな美しいアンドロギュヌス(両性具有)と運命的な出会いをした日芽子。
 彼女は初め、月彦の良き理解者でした。でも、日芽子にも抱えた悩みがあり、やがて二人は共に肩を寄せ合って、互いを唯一の拠り所としながら小さな鳥かごの中で震えて過ごすようになっていきます。
 自分たちの存在を最小限にして、死の隣で生きる二人。
 
 どうかこの主人公たちが、安心して息を吸い、少しでも明日の幸せを思い描きながら生きていかれるようにと、願わずにはいられません。
 

 作者様が心理、医学、栄養学などの知識をしっかりと調べられて、真摯に向き合い、愛情を込めて紡がれた言葉の数々は、美しく、誠実さに満ちています。
 そして、静かに苦しみに寄り添ってくれます。
 是非多くの方に読んでいただき、気づきに満ちた言葉を噛み締めていただけたらと思います。
 
 

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