息もつかせず襲い来る不幸と弟嫁との蜜の時間 禍福に踊らされる人生の恐怖

 かつて主人公は初恋を手放した。
 その代償の大きさに気づいた時には、もう大きな厄災に魅入られた後だった。
 思いがけず鼻先にぶら下げられた逆転のチャンス。
 取り戻したいと願うも、嘲笑うように襲いかかる不幸の嵐。
 翻弄され壊れていく精神。
 果たして、彼に救いは訪れるのだろうか。

 生きるとは選択の連続だ。日常的な簡単なものから、人生の転機に至るまで。
 選択の基準は様々だが、時に人はもっともらしい理由をつけて諦める。
 それが戦略的撤退なのか、単なる怠惰なのか、境目は曖昧だ。
 ただ、判断ミスが重なれば理想から遠のき、心は満たされず空洞を生む。
 そんな時、隙間が好物の「魔」に魅入られてしまったら……

 この物語の中で、多くの人が魔に呑まれていく姿が自分と重なってみえて怖かった。誰の心にも確実に存在する自己否定や自己憐憫がとても丁寧に描かれているからこそ、リアルに己の問題として読み進めることができた。

 皆さんも是非、この恐怖と結末を体験してみてください。
 お勧めです。

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