第15話 離脱そして、遭遇





「くらえー」


キララが袴姿の魔法少女に向けた指の先端からビームが発射された。これがキララの魔法、光を集めてビームに変換する。当然、光が強い場所の方がビームの威力は上がる。だが、今は夜、しかも森の中、薄暗い場所では本来の力が出せない魔法だが、それでも魔法少女を倒すのには十分すぎる力がある。


キララが発射したビームを袴姿の魔法少女は避けた。袴姿の魔法少女が動いた瞬間にマールは魔法を発動して、目に見えない不可視の壁を作り出す。何か衝撃が与えられれば消滅してしまう脆い壁だが、使い道はいろいろある。ちなみに、一度に作れる量は面積で決まる。作り出している壁の面積の合計値が最大の面積値にならなければ何枚でも壁を作ることができる。


「キララちゃん…急いで…」

「うん」


キララのビームを避けるために袴姿の魔法少女は飛び上がっていた。地に足をついておらず、追って来られない今のうちに物陰に隠れたかったマールはキララに急ぐように言い、キララの方を振り向く。


「キララちゃん、伏せて!」


マールに言われてキララは咄嗟に伏せる。直後に、地面に斬撃が加えられた跡が残る。宙を舞った袴姿の魔法少女は空中から魔法を使い、キララを狙った。袴姿の魔法少女と地面に残る斬撃跡の軌道上には、先程キララがいた。マールが気づかなければキララの命はなかっただろう。


「キララちゃん…たぶん、さっき言ってた1つ目のパターン。刀を振った回数、一度じゃなかった」


マールが見た感じ袴姿の魔法少女は数回、刀を空中で振るっていた。そのうちのほとんどが、マールが作った魔法の壁と相殺された。森に仕掛けをしていた場合や、指定した座標を斬る魔法の場合、何度も刀を振る必要がない。その結果、マールは結論付けた。


「おっけ。それで、どうする?魔法がわかっても…強すぎるぞ。いっそのこと、間合いに入って近距離戦に持ち込んで魔法封じを試してみる?」

「たぶん、間合いに入る前に斬られて終わり、刀を振るスピードが以上だし、刀の扱いに慣れてる。接近戦で魔法が使いにくいのはこっちも一緒だから、武器があるあちらが優位なのは変わらないと思うよ…」

「……たしかにな、じゃあ、どうする?何か策はあるか?」

「視界を封じればいい。視界を塞いで魔法を使えなくして、逃げる」


キララとマールがそういうやり取りをしている頃には袴姿の魔法少女は地面に着地して再び刀を振るう。マールは慌てて魔法の壁を作り、斬撃を相殺した。


「キララちゃん、あの子に当てなくていい、あの子の足場付近に目一杯のビームを何発か撃ち込んで」

「わかった」


マールの指示に従って、キララはビームを乱射する。袴姿の魔法少女には当たらない。だが、地面にビームが当たると砂埃が込み上がる。それが、何度も起こり、凄まじい音と共に周囲一帯を覆い尽くす量の砂埃が発生する。


「キララちゃん、捕まって…」


咳き込みながらマールはキララに手を伸ばす。キララがマールの手を掴むと同時にマールは魔法の壁を作る。縦向きにではなく、横向きに、その魔法の壁を踏み台にしながら宙へ離脱した。次から次に魔法の壁を作り階段を登るようにどんどん宙をかける。マールに踏み台にされる衝撃で、魔法の壁はマールが通過した場から順に消えていく。追撃は不可能だ。


「さすが、マールちゃん」

「あはは…危機一髪って感じだね……」


宙を駆けながらマールは下を見る。下を見ると凄まじい速度で森の木が伐採されている。視界を封じられた袴姿の魔法少女が適当に斬撃を放っているのだろう。あと、少し離脱が遅れれば…宙に逃げる。以外の手段を取っていなかったら、マールとキララの命はなかったかもしれない。そう考えると怖かったが、無事逃げ切れてマールはホッとしていた。





「何、この音?」


プリンセス・アリスとラピスラズリが移動を開始してしばらくすると、周囲から凄まじい音と衝撃が響き渡る。森の中に入ったばかりのプリンセス・アリスとラピスラズリは足を止めて周囲を警戒する。


「アリスちゃん、どうする?」

「これが魔法少女同士の戦いなら…止めないと…」


しばらくして、音が鳴り止み地響きが止まる。プリンセス・アリスは迷わず音の中心点を目指して走り出す。


「ラピィちゃん、転移宝石は常に握ってて」

「わかってるよぅ」


プリンセス・アリスの後を追いながらラピスラズリは転移宝石を掴む。ラピスラズリの前を走るプリンセス・アリスはドリームの剣を構えて、ラピスラズリよりもずっと速い速度で走る。ラピスラズリはついて行くのがやっとだったが、ラピスラズリがプリンセス・アリスを見失う前にプリンセス・アリスは足を止めた。


「はあ…はあ…これ、何ぃ?」


切り倒された木を…森の中とは思えないほど見渡しが良い場所を見渡しながらラピスラズリが呟いた。


「争い…があったのかな?ラピィちゃん、警戒して進もう」

「うん」


「警告だ。それ以上近づいたら…斬る」


プリンセス・アリスとラピスラズリが、木が切り倒された森を歩いてしばらくすると、森の広場のような場所に出た。その中心点に陣取る袴姿の魔法少女、袴姿の魔法少女から一直線上に木は切り倒されていた。プリンセス・アリスとラピスラズリが歩いて来た方角以外の森は無事だと言うことに気づいて、ラピスラズリは震えた。


目の前にいる袴姿の魔法少女は強い。と………





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