第12話 差し伸ばされた手は遠く






残り人数82人、アゥアとウェディングが死んだ直後くらいから、下準備の時間は終わった。と言うように、残り人数が減少していった。


そして、もう1人、終わりを迎えようとしていた。


「アヤカ…綾香!」


最愛の恋人に、祭神は…志穂は手を伸ばした。




祭神の祈りとアヤカの感覚強化を持ってしても、アヤカはカーロスの動きについていくのが精一杯だった。


「チートめ…」

「ふふふ、元はあなたたちと同じ♪ですよ♪鍛え方と使い方、あとは戦いの経験値があなたたちと比べて圧倒的に優れているだけです♪」


志穂は逃げただろうか…一か八かの勝負に出るか、志穂が逃げるための時間稼ぎに徹するか…アヤカは決めれずに戦っていた。その悩みがアヤカの動きを多少だが、鈍らせていたのかもしれない。


アヤカの攻撃をカーロスはあっさりと躱すが、アヤカはカーロスの攻撃を辛うじて避けることが精一杯だ。このまま戦い続ければ志穂が逃げる時間を稼ぐことはできるが、アヤカに勝ち目はない。


「時間稼ぎ、ですか?つまらないことしないでください♪そうだ。あなたにやる気を出させてあげましょう。あなたを殺した後は、あなたが逃した魔法少女を殺します。あなたが死んだと知った時、あの巫女さんがどう反応するか…楽しみです♪殺し方はどうしましょうか…私が直接殺すか…それとも、ミッションで巫女さん討伐とかやってしまいます?大切な人を失い大勢に命を狙われる。最高に楽しめそうですね♪」

「黙れ……」


アヤカと戦いながらカーロスが楽しそうに語るシナリオにアヤカは怒りを示した。そして、決めた。ここでこいつを殺す。と…志穂のために…


「今から3分後、立っていた方が勝者だ」


アヤカはそう宣言して、魔法のリミッターを外す。アヤカは普段、魔法を使う際に魔法にリミッターをつけて使用している。アヤカの感覚強化で突然感覚を強化すると、アヤカの体がついていかない。制御しきれなくなるからだ。通常のアヤカから志穂の魔法がかかると魔法のリミッターを少し外す。その状態…先程までの状態ではカーロスに勝てないと判断したアヤカはリミッターを完全に外すことを選んだ。その状態でまともに動くことができるのは…3分。


「っ…」


アヤカが宣言した直後、カーロスは宙を舞っていた。一瞬で、アヤカがカーロスとの距離を詰めて全力で蹴り込んだ。

アヤカの今の状態を一言で表すと完全なバーサーク状態だ。人間は、普段、運動などをする際、体に負荷をかけすぎないように無意識のうちに運動量をセーブしたりする。だが、今のアヤカは完全に痛覚を遮断し、反射神経を限界まで強化する。痛覚を遮断することで本来ではあり得ない100%の力を引き出す。そして、反射神経強化により、引き出した100%の力をフルで活かせるような状態にする。こんなことをすれば、体への負荷はとてつもないものになる。だが、綾香には関係ない。この3分間だけは…何も感じないから……


まさに諸刃の剣、そう言った力を使いアヤカはカーロスを圧倒する。蹴って蹴って、殴り、蹴る。カーロスをサンドバッグのように痛めつける。アヤカに再び殴られたカーロスは体を地面に打ち付けて口から血を吐き出す。


「カハッ……はぁ…はぁ…つよい♪」


この状況をカーロスは楽しんでいた。強い魔法少女と戦えることに喜びを感じていた。


「強い♪強い♪強い♪強い♪強い♪強い♪強い♪強い♪強い♪強い♪強い♪強い♪強い♪強い♪強い♪強い♪強い♪強い♪強い♪………強い♪殺し甲斐がある♪」


楽しそうに笑いながら、カーロスはアヤカの猛攻を受け続けていた。アヤカはカーロスに反撃の隙を与えずに力任せに押し切るつもりだった。


「あぁ…速い♪強い♪痛い♪最高♪でも…」


アヤカが蹴りを入れるが、当たっていない。痛覚を遮断していたアヤカはそのことに気づくのが少し遅れた。カーロスがその場から消えたことに気づいてアヤカは周囲を見渡す。


「もう、慣れました♪もう、飽きました♪でも、楽しかった♪ですよ♪」


アヤカの真後ろに現れたカーロスはアヤカの体をレイピアで刺す。カーロスはアヤカの猛攻に少しずつ慣れていた。少しずつ慣れて、少しずつ魔法を使っていた。気づかれないように少しずつ、アヤカの猛攻を受けながら…


「っ…!!!」


レイピアで刺せば…普通、痛みでまともに動けない。少なからず動きは鈍る。それが、今までのカーロスの経験だった。だが、目の前にいる狂戦士にはその経験が通じない。痛みなど…感じないのだから。

アヤカは全力でカーロスを蹴る。そして、レイピアを体に突き刺されたまま、カーロスに追撃を加える。1発、2発、3発と打ち込んだところでアヤカの体は限界を迎える。


「詰み…か……」


痛覚はまだ切っている。痛みは感じない。だが、アヤカの体はぼろぼろで動ける状態ではない。手足は曲がらず指をまともに動かすこともできない。痛みは感じないのに、不思議な感じだった。


「はぁ…はぁ…ここまで、私を追い詰めたのはあなたが初めてですよ♪」


カーロスは口から血を吐き、横腹を片手で押さえて片足を引きずってふらふらの状態でアヤカに近づき、大の字で仰向けになっているアヤカの体からレイピアを抜く。


「これで、終わりです♪」


アヤカは目を瞑った。アヤカが目を瞑ると、志穂がアヤカを…綾香を見送ってくれた。


「生きてくれ…」


最後の願いを……アヤカは口にした。


「何年後だろう。数十年後くらいかな…私を…覚えていてくれ……私は先に……」


もう、口を動かすことしかできなかった。アヤカが言いたいことを言い終わるまで、カーロスは待っているみたいだった。アヤカの口が動かなくなり、カーロスは片手でレイピアを構える。


あの世でまた…会おう。ゆっくり、来てくれ。長い時間会えないだろうけど私のこと、忘れないでくれ。とアヤカは心の中で口にする。


「アヤカ…綾香!」


聞こえてきた声に反応し、アヤカは…綾香は目を開いた動くはずのない体を無理矢理動かして首を曲げる。


何で…来た……


口に出せない思いを綾香は心の中で叫ぶ。


「1人じゃ寂しいでしょう。ずっと、一緒だから…一緒に、生きよう」


祭神は…志穂は走りながらアヤカに…綾香に手を差し出す。逃げようと、生きようと…綾香は志穂の手を…取りたかった。手を繋ぎたかった。また、志穂の温もりを感じたかった。だが、体は動かない。もう、動かない。


そう、綾香は思ったが、気づくと綾香は志穂へと手を伸ばしていた。震えながら…ゆっくりと…志穂の温もりを感じたい……綾香の想いに体が限界を超えて応えてくれた。


あと、少し…志穂、早く志穂を感じたい。あと、10メートルくらい…早く……志穂を……


だが、その想いが叶うことはなかった。差し伸ばされた手は遠く。アヤカの手が届くことはない。

カーロスは…容赦なく。終わらせた。


残り-81人





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