不思議の国の魔法少女

りゅう

第1話 不思議の国の魔法少女




日曜日の午前8時30分、私は5分前に起きて必ずTVをつけてとあるアニメ番組を視聴する。かわいらしい衣装を見に纏った女の子が悪の組織と戦い人々を守る。

シンプルな設定で中学3年生にもなって真剣に視聴しているのは私くらいではないだろうか…


魔法少女になりたい。小さい頃、女の子なら一度は抱くことがある夢だろう。時が流れ成長して、現実の世界に馴染んでいくにつれて、その夢は…次第に薄くなり…やがて、いつの間にか、消え去っている。

それが、普通なのかもしれない。でも、私は…未だに…魔法少女になりたい。と本気で思っている。本気で…魔法少女になることを夢見ている。


「はぁ〜今日もいい話だったなぁ……」


毎週必ず視聴している魔法少女のTVアニメを視聴し終わった後、私はTVの電源を切り、スマホの画面を見つめる。私は無意識のうちに、魔法少女 なるためには と検索をしていた。魔法少女になれるわけない。そんなことはもう理解している。でも…私は…今でも……


「魔法少女になりたい……」


私がそう呟いた瞬間、スマホの画面が異常な程に光始めた。私は驚いてスマホを手から落とす。するとスマホが勝手に宙に浮き、私に迫ってくる。


「え…え…え……」


私が慌てていると私は光に包まれた。何が起こっているのか、理解できなかった。


『牧田 夢さん、魔法少女になりたい。その願いを叶えるチャンスをあげるのだ。まずは、スマホの画面に魔法少女名を打ち込んでキャラクターのアバターを作るのだ』


光に包まれた謎の空間で私が目を覚ますとそのような声が聞こえた。いつの間にか私の手に収まっているスマホの画面を見つめると空欄のスペースとキーボードが画面に映されていた。


魔法少女になれる……そんなこと、ありえないと、わかってはいても……これだけ異常な現象が起きていると……信じてみたくなる。魔法少女になれる。と……


『プリンセス・アリス』


私は、空欄にそう打ち込んだ。そして、アバターを作り始める。名前は不思議の国のアリスの名前から付けた名前なのだが、アバターの見た目はシンデレラに近い気がする。白色と銀色の綺麗な髪の毛にお姫様のような綺麗な青と白のドレス、ドレスのスカートは若干短めにして、白色のニーソを身に纏い、絶対領域を作り出す。そして、白色レディース手袋を付けて、銀色のティアラを頭に載せる。靴はガラスの靴のように綺麗な靴を選んだ。めちゃくちゃかわいい魔法少女像をイメージしたらこのアバターが出来上がっていた。アバターが完成して、完成ボタンを押す。


『牧田 夢さん、あなたは魔法少女候補として登録されたのだ。魔法少女:プリンセス・アリスの魔法は魔法の扉なのだ。魔法の扉を開くことで、その時必要なものなどを取り出したり、魔法の扉と魔法の扉を繋げて自由に移動できる魔法なのだ。魔法については後で詳しく説明するとして…今から、他の候補と一緒に魔法少女になるための試験の説明を受けてもらうのだ。この空間にいる間は現実世界の時は止まっているので、時間を気にせず説明を受けるのだ』


気づいたら私は、先程作ったアバターの姿になっていた。めちゃくちゃかわいい理想の魔法少女の姿になって感激をしていると私は再び光に包まれた。気づくと、私と似たようなかわいらしい服装をした、魔法少女のような人たちがたくさんいる空間に私はいた。


「魔法少女、それは長くこの世界の平和維持、人のためにと時に戦い、時に人に希望を与え、時に命を救い、人のために尽くす。それが魔法少女です。ですが…この街の魔法少女は弱く…一晩にして全滅、人助けばかりして鈍っていた魔法少女はこの街からいなくなりました。よって、新たな魔法少女を選ぶ必要があります」


前置き文のような言葉が空間内に広がり、ざわついていた人たちは黙り込んだ。


「さて、お集まりいただいた99名の魔法少女候補の方々…私は今回の試験官を務めさせていただくカーロスです。こちらは試験のガイド役のピクセル…所謂妖精ってやつですね。あなた方をここまで導いてくれたのはピクセルです。試験中もピクセルはガイドとして中立の立場で働いてくれるでしょう。あなた方のスマホにピクセルや、魔法少女向けのアプリがインストールされているので試験が始まり次第確認することをおすすめします」


私たち全員に見えるように宙に浮かぶ魔法少女-周囲に丸い球体をいくつか浮かべて腰にはかわいらしいレイピア、服装は薔薇のような綺麗な花をモチーフにされている黒薔薇のゴスロリ服を着用したフワフワの茶色髪の魔法少女が私たちに言う。私はスマホの画面を確認すると見慣れないアプリと可愛らしい猫のような動物が画面内で動き回っていた。


「さて、さっそくですが、試験の説明をいたしましょう。最初にですが、試験時間がいくらかかっても現実世界の時間は進まないのでご安心を…」


試験官である魔法少女、カーロスはそう前置きをしてニヤリと笑う。その瞬間、私はゾッとして身震いした。恐怖…私は無意識のうちに恐怖を感じていた。


「さて、試験の内容ですが…これからあなた方には街を模した試験ステージに移動していただきます。そして、残り人数が5人になるまで……殺し合い♡してもらいます♡あなた方の身体の身体能力は強化されていますし、一人一つ特別な魔法を使えるので思う存分楽しんでください。途中、ミッションなどをクリアすれば武器などを手に入れることが可能ですよ。是非、ミッションに参加してみてください。もちろん、試験官として私も試験に参加しますよ。もし、私を殺すことができたらその場で試験は終了です。簡単でしょう?何か質問があれば今…どうぞ……」


試験官、魔法少女カーロスが一方的に説明をするが、何を言われているのか、何を楽しそうに語っているのか、この場にいるほとんどの魔法少女は理解していない。

そんな中、オレンジ色のかわいらしいアイドル歌手のような衣装を身に纏っている魔法少女が手を挙げた。


「殺し合い…とは。どういう意味でしょう?」

「そのままの意味です」

「試験で死ねば…現実でも?」

「もちろん」

「参加を拒否することは?」

「もう、手遅れです」


オレンジの魔法少女の質問に魔法少女カーロスは淡々と不気味な笑みを浮かべて答える。そのやり取りを聞いていた魔法少女たちは……恐怖に包まれた。


「そうか…最後に一つ…」

「なんでしょう?」


宙を舞う魔法少女カーロスの真下にオレンジの魔法少女は移動しながら最後の質問を口にした。


「今、あなたを殺せばこの場にいる者は全員助かるのだな?」

「はい♡」


オレンジの魔法少女の言葉に魔法少女カーロスが答えた瞬間、オレンジの魔法少女は思いっきり地面を蹴り、信じられないほど飛び上がり魔法少女カーロスに迫る。魔法少女カーロスは笑顔で腰のレイピアを抜きとった。


オレンジの魔法少女の拳は、魔法少女カーロスに届かなかった。魔法少女カーロスは、軽くレイピアをオレンジの魔法少女目掛けて突いただけで、オレンジの魔法少女は綺麗に貫かれた。レイピアはオレンジの魔法少女に掠ってすらいない。にも関わらず、オレンジの魔法少女は貫かれて綺麗に真っ二つになる。


「あはは♡綺麗…」


オレンジの魔法少女は生々しく赤色の液体をばら撒きながら二つに別れて地面に落ちた。地面に落ちて少しするとオレンジの魔法少女はその場から消えた。


「残り…99人♪」


魔法少女カーロスは、オレンジの魔法少女だけでく、私たち全員の戦意をも斬り裂いた。


「それでは、ステージに強制転移しますね。あなた方のご武運をお祈りしております。ステージで遭遇した際は…楽しみましょうね♪」


魔法少女カーロスがそう言い、レイピアを地面に突き刺すとその場にいた全員が光に包まれてその場から消えた。


「ここ…は?」


私が目を覚ますとビルの上のような場所にいた。状況を未だに理解できていない私が困惑しているとスマホが震えた。


『魔法少女:プリンセス・アリスに試験について説明するのだ。まず、マップアプリ、開くとステージのマップと自分の居場所、そして残りの魔法少女の人数がわかるのだ』


実際に、マップアプリが開かれると魔法少女の人数は99と表示されていた。試験を受けさせられている魔法少女98人に先程の恐ろしい魔法少女……合わせて99人……


『魔法少女の身体は食事や睡眠は不要なので気にしなくていいのだ。所持アイテムはアイテムアプリから確認するのだ。ショップアプリではミッションなどで手に入るコインでアイテムや武器を買えるのだ。活用して欲しいのだ。そして、ステータスアプリ、そこにはプリンセス・アリスの魔法が表示されるのだ。魔法は一人一つ、変更はないから最初に確認するだけしてくれればいいのだ。以上が試験の概要なのだ。わからないことがあれば、画面のピクセルをタッチしてくれれば答えられることは答えるのだ。じゃあ、試験頑張るのだ』


ピクセルは一方的に説明をして黙り込んでしまう。どうしよう…これから……どうすれば……


ビルの上で私は空を見上げた。絶望…を感じることしかできなかった。今は夜、空は暗く。希望の光などなかった。


「君は……」


声が聞こえて私が振り返ると、そこには魔法少女がいた。銀色の髪の、ボーイッシュなスタイルの魔法少女、かっこよさとかわいさを兼ね備えた鎧のような衣装を着ていて背中に剣を背負っている。かなり大きな剣だ。

私は怖くて…慌てて逃げ出そうとする。


「待って…」


逃げようとした私の腕を魔法少女は掴んだ。殺される…そう思ったが、私の腕を掴んでいる魔法少女は背中の剣に手を伸ばさない……


「夢…だよな?その…アバター…夢…なんだろ?」

「え…」

「やっぱり。夢なんだな。僕だよ。翔太だよ。翔太」

「しょう…ちゃん?」

「おう。まあ、今は魔法少女:ドリームだ。魔法少女って言うよりかは魔法騎士って感じだけどな…」

「しょう…ちゃん…しょう…ちゃん…」


嬉しかった。幼馴染みの男の子、翔太が側に来てくれて…偶然、だろう。でも…翔太が私の側に駆けつけてくれて…私の側にいてくれて……少し落ち着けた。そして、かなり安心…できた。


「どうして…なのかな…」


ドリームと一緒にビルの屋上の隅で並んで座り、私は…プリンセス・アリスは嘆くように呟いた。プリンセス・アリスの呟きを聞いたドリームは何と答えればいいのかわからないような表情を浮かべる。プリンセス・アリスの言葉に答えたいが、ドリームも何も現状を理解できていない。適当なことは言えないとドリームは言葉を出すことができなかった。


「私、魔法少女になりたいって…思ってたよ…嬉しかったよ。理想の魔法少女の姿になれて嬉しかったよ……でも、魔法少女って人を助けるものでしょう……なのに、なんで……魔法少女になるために……人を殺さないといけないの?なんで…殺し合いなんて……しないといけないの?」


プリンセス・アリスは……夢は嘆くように……弱々しく、瞳から涙を溢しながら言う。その様子をドリームは……翔太は拳を強く握り、黙って見つめていた。ここにいるほぼ全ての人間が、魔法少女が、プリンセス・アリスと…夢と同じことを嘆いているだろう。だが、その嘆きによって何か変わることはない。と、ドリームは現実を見ていた。


「プリンセス・アリス、あなたはせっかく魔法少女になれた。だから、そのまま、清く、尊く、正しい魔法少女であればいい」


ドリームが優しくプリンセス・アリスに声をかけるとプリンセス・アリスは泣きながらドリームの方へ顔を向けた。


「私は…僕は…魔法少女じゃなくて、魔法騎士だからね。夢には…プリンセス・アリスには清く、正しい魔法少女であってほしい。そして、生きて欲しい。夢として…プリンセス・アリスとして……だから僕は、私は、夢の魔法少女になりたいと言う夢と清く、尊く、正しい、魔法少女プリンセス・アリスを護る騎士になる。君を…死んでも護る剣となり盾となる。君には生きて、正しい魔法少女になって欲しい」

「しょうちゃん…」


涙目でドリームを見つめるプリンセス・アリスの涙をドリームは優しく指で拭き取ってあげる。その後、背中の剣を手にして、剣をビルの屋上の床に突き刺した。


「魔法騎士ドリームは、魔法少女プリンセス・アリスの騎士として、魔法少女プリンセス・アリスを護り抜くとこの場で誓おう」


騎士の誓い…と言うように、翔太は…魔法騎士ドリームは…夢に…プリンセス・アリスに己の剣を捧げた。

誓いをしたドリームは再び、プリンセス・アリスに近づいて、僕が側にいて君を護る。だから、安心して…と優しく告げて、翔太は…ドリームは、愛する幼馴染みである夢を…プリンセス・アリスを抱きしめた。


「しょうちゃん…ありがとう。でも…私…しょうちゃんに人を殺して欲しくないよ。しょうちゃんは…優しい子だから……人殺しになんかなって欲しくない」


ドリームに抱きしめられたプリンセス・アリスは弱々しく涙を流しながらドリームを抱きしめ返して自身の思いを告げる。


「僕だって…私だって…人を殺したくないさ。でも、私は…ドリームはプリンセス・アリスの夢を護る騎士だから…夢と、プリンセス・アリスとその夢を護るためならこの手は汚れても構わない。だから、私が殺すのは悪魔だけだ。このふざけた試験を始めた悪魔だけだ。正当防衛以外で他の魔法少女を傷つけるつもりは絶対にない。だから、安心して…私は…悪魔を倒し君を護るために戦うだけだから…私の剣は汚したりはしない」

「しょう…ちゃん…」

「今はドリームと呼んで欲しいな。君をこの戦いから護り抜くまで、私は君の魔法騎士なんだから…」

「ドリーム…ありがとう。でも、私もドリームに死んで欲しくない。だから…私も戦う」


プリンセス・アリスは涙を拭って立ち上がりドリームと向かい合った。


「私もしょうちゃんを…ドリームを護るから…」


夢は…プリンセス・アリスは翔太が…ドリームが床に突き刺した剣に手を置いて誓った。翔太とドリームは私が護る。と…2人で生き抜く…と……


月夜の光が床に突き刺されている剣に当たり、反射をし、プリンセス・アリスとドリームに光を当てる。2人の約束が…誓いが……天に認められたかのような出来事だった。

プリンセス・アリスとドリーム、お互いの誓いが天に認められた後、2人は手を握る。ドリームがプリンセス・アリスの身体を手繰り寄せてドリームはプリンセス・アリスを優しく抱きしめた。


「絶対に死なせない…」


どちらが…呟いたのだろうか……どちらの決意だったのだろうか…だが、その言葉はたしかに。2人の元に届いていた。




「え…あ、え、きゃーーー」


プリンセス・アリスとドリームがお互いを抱きしめあっていると、ビルの上に突然、誰かが現れて真っ直ぐ2人を目掛けて落ちてきた。

ドリームは咄嗟にプリンセス・アリスを離して代わりに、床に突き刺していた剣を手にしてプリンセス・アリスの前に立つ。


ドリームが剣を構えるのと同時に…突然現れた者がビルの床に勢いよく激突し、鈍い音がビル屋上に鳴り響いた。










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