第2話 宝石の魔法少女





「イタタ…って…あれ?あまり痛くない…えーすごーい」


突如現れた-薄いピンクのバレリーナのような服を着ていて服のあちこちだけでなく周囲に宝石のようなものを浮かせている。腰につけている小さなバッグにもいくつか宝石が入っていて、胸の真ん中にデカい赤色の宝石がついている。薄い水色の髪の毛を少しだけクルクルさせていて頭に宝石の埋め込まれたティアラを付けている魔法少女-は尻餅をついて女の子座りをして、服についた埃を払う。

プリンセス・アリスとドリームは宝石の魔法少女を見つめて警戒しているが、宝石の魔法少女はプリンセス・アリスとドリームの存在に気づいていないようだった。

プリンセス・アリスとドリームは警戒しながら音を立てないように少しずつ後退して宝石の魔法少女から距離を取ろうとする。


ガコン。と言う鈍い音が鳴り、ドリームが振り返ると、プリンセス・アリスが床に置かれていた箱のようなものに足を当ててしまったみたいだ。鈍い音が鳴り、宝石の魔法少女がドリームとプリンセス・アリスの存在に気づく。


「ひゃあ…魔法少女……やるなら相手になりますよ」


宝石の魔法少女は震えながら周囲に浮かんでいた宝石を一つ掴む。その様子を見たドリームは剣を床に突き刺してドリームから攻撃する気はない。と意思表示をする。


「私はドリーム、魔法少女プリンセス・アリスを護る魔法騎士だ。こちらからあなたへ危害を加えるつもりはない。そちらから攻撃してこない限り私たちはあなたに危害を加えないとこの剣に誓おう」

「え…あ、えっと…その……ラピィも戦うつもりはないです」


ドリームの言葉を聞いた宝石の魔法少女は手にした宝石を手放して戦う意志がないと証明するように両手を上げた。


「改めて名乗らせてもらうが、私はドリーム、こちらはプリンセス・アリス。少し、話がしたいのだが、応じてくれるだろうか?」


ドリームが宝石の魔法少女に提案する様子を見ていて、プリンセス・アリスは…夢は…しょうちゃん…割とノリノリだなぁ…と、ドリームの魔法騎士設定へのこだわりを感じていた。


「あ…えっと…その…ラピィは、ラピスラズリですぅ。わかりました。話し合いには応じますけど…その、ラピィは一人なのに対してそちらは二人、あなた方がラピィに危害を加えるつもりはないと言っても、不安ですぅ…なので、話をするのはどちらか一人で少し離れた場所で行うことが条件ですぅ」

「わかった。条件に応じよう。ただし、プリンセス・アリスを護ることが私の役目だ。だから、プリンセス・アリスが視界に入るギリギリの場所…それで許してほしい」

「わかりました。じゃあ、ラピィとあなたはあっちに移動して…そちらのお姫様はあっちの隅に移動ってことで」


宝石の魔法少女-ラピスラズリに言われ、ドリームは一度地面に刺した剣をプリンセス・アリスに渡す。ドリームの装備なのでドリームが持っているべきだが、プリンセス・アリスに預けることで、ドリームはラピスラズリと敵対する意思はないとアピールをする。




「で、お話ってなんですかぁ?」


ドリームと共に、プリンセス・アリスと離れた場所に移動するとラピスラズリがドリームに尋ねる。


「単刀直入に言おう。私たちと手を組まないか?」

「手を組む?」

「あぁ、この試験とやらを終わらせるためにはカーロスを倒すことが犠牲を最小限で済ませる手段だ。だが、カーロスは強い。だから、少しでも多くの魔法少女で集団戦に持ち込むことが効率的だ。それに、この先、カーロスを倒すことを諦めて残り5人になるまで、他の魔法少女を殺す者も現れるだろう。そう言った時に仲間がいれば安心できる。どうだろう。手を組んではくれないか?」

「なるほど…たしかに、他の魔法少女と戦うことになった際に仲間がいた方が頼もしい…わかりました。ただし、条件があります。あなた方の魔法の情報共有、それが条件です。もちろんラピィの魔法もあなた方に教えますよぅ」

「手を組むとなると、当然、お互いの魔法を教え合う必要がある。もちろん、その条件を飲ませてもらおう」


手を組むこと、割とあっさり決まったように見えるが、ドリームも、ラピスラズリも不安だったのだ。だから、一人でも多く、一秒でも早く、仲間が欲しかったのだろう。

手を組むことを決めたドリームとラピスラズリはプリンセス・アリスと合流する。

プリンセス・アリスから剣を返してもらったドリームは剣を背中に背負う。そして、プリンセス・アリスにラピスラズリと手を組むことをドリームが告げるとドリームの予想通りプリンセス・アリスは快諾した。




「それでは、互いの魔法を共有しよう。まず、私から…説明するより、実際に見てもらった方が早いな」


ドリームはそう言って背中の剣を床に突き刺した。そして剣を強く握る。


「私の魔法は剣を刺した場所から半径50メートル程度の地形変動をすることができる。先程、プリンセス・アリスと出会う前に少し試したが、ビルなどの建物の床などでも適応されるみたいだ」


ドリームが剣に力を入れると、プリンセス・アリスが立っていた床が高く伸び上がった。その後、再びドリームが剣に力を入れるとプリンセス・アリスが立っていた床は元に戻る。


「地形変動と言っても大それたことはできない。あまり、大きく変化させることはできないみたいだからな」

「ヘー便利な魔法だね。かっこいい」


プリンセス・アリスにそう言われてドリームは照れたような表情をする。ラピスラズリも、ドリームの魔法は戦闘向きと認識した。


「じゃあ、次はラピィの魔法を教えますね。ラピィは宝石を砕いて魔法を使います。周囲に浮かぶ宝石は砕いても割とすぐに生成されるみたいですけど、この腰のバッグに入っている宝石は中々生成されない希少なものみたいですね。周囲に浮かぶ宝石は赤は爆弾、青はシールド、黄はテレポート、緑は回復と言う感じですね。バッグの秘蔵の宝石はまだ、試していない…というか貴重なので試せないって感じですね。ラピィの魔法はこんな感じですぅ」


説明ついでにラピスラズリは周囲に浮かんでいた赤色の宝石を手に持ち、砕いた。それを空目掛けて適当に放り投げると割れた宝石が爆発した。


「中々の威力だね…」

「えへへ。まあねぇ」


プリンセス・アリスに魔法を褒められたラピスラズリは嬉しそうに頬を人差し指で掻きながら言う。


「アリスちゃんの魔法はどんな魔法なの?」

「え?アリスちゃん?」

「え…だめぇ?仲間になるんだから、アリスちゃんでいいかなぁって…」

「いやいや、アリスちゃんで大丈夫。じゃあ、私たちもラピィちゃんって呼んでいい?」

「うん」


いきなりアリスちゃんと呼ばれてプリンセス・アリスは驚いたが、実際はかわいらしい呼び方をされて嬉しかったみたいだ。プリンセス・アリスがラピスラズリをラピィちゃんと呼ぶとラピスラズリは嬉しそうな表情をする。「ドリームは…ドリームだよね。」と、ドリームの呼び方を考えようとしたプリンセス・アリスは笑いながら言うとラピスラズリも「たしかに。」と同意した。


「で、アリスちゃんはどんな魔法なの?」

「あ、えっと…まだ、試したことないから試して見ていいかな?」


プリンセス・アリスが尋ねるとラピスラズリとドリームがうん。と頷く。


「開け!魔法の扉」


プリンセス・アリスが魔法を唱えるとプリンセス・アリスの前に巨大な扉が現れる。まるで、不思議の国へ繋がるような魔法の扉だった。


「説明文には魔法の扉が助けてくれるよ。って書いてある。あと、魔法の扉を設置しておけば、別の場所で魔法の扉を開いた時に魔法の扉と魔法の扉を繋げられるみたい。ただし、常時設置しておける魔法の扉は一つで、他は少し時間経過したら消えるみたい」

「なるほど、ならば…拠点みたいなものを作ってそこに魔法の扉を設置して、いつでも拠点に帰れるみたいな使い方をするべきだな…魔法の扉が助けてくれる。って文章は気になるが…たぶん、今は試せないだろうし…保留だな」

「魔法の扉を盾みたいに使うこともできそうだねぇ」


ラピスラズリのアイデアになるほど、そういう使い方もできるのか…と、プリンセス・アリスとドリームは感心した。


「さて、魔法の紹介は一通り済みましたし〜どうしま……」


魔法の紹介が終わりラピスラズリが次にどうするかを相談しようとした瞬間、ドリームが肩から血を流した。


「物陰に隠れろ」


ドリームが叫ぶが、ビルの屋上には上手く隠れられそうな場所はない。何者かに狙われているのは確か……そう判断したラピスラズリはバッグから秘蔵の宝石を一つ取り出してそれを砕いた。ラピスラズリが宝石を砕くと、ビルの屋上を砕かれた宝石が巨大化してドーム状に覆う。


「高度はたかいし、敵の視界を妨げられましたね。どうしますか?敵が来るのを待って迎え撃ちますかぁ?」


敵の視界は妨げられていて、宝石の耐久力は高く、破るのは困難、故に敵がまだ、ラピスラズリたちを狙う場合、突入してくるとしたら、ビル内部から屋上への扉だけ、地の利はラピスラズリたちにある。


「いや、これだけ派手に魔法を展開したら、今狙っている者以外も駆けつけてくるかもしれない。攻撃してきた。ということは敵対する意思があることなので、ラピスラズリの時のように話し合いができるかも怪しい…敵の視界を塞いでいるうちに離脱しよう」

「OK〜じゃあ、ドリームとアリスちゃん、手を繋いでぇ。それで、アリスちゃんはラピィと手を繋ぐ」


ドリームとプリンセス・アリスはラピスラズリを信じてラピスラズリの指示に従った。


「まだ、慣れてないから変な場所に飛んだらごめんねぇ」


ラピスラズリはそう言い、プリンセス・アリスと繋いでいた手とは別の手で、周囲に浮かんでいた黄色の宝石を割った。





「………これでは狙えないか」


宝石で覆われたビルの屋上をスコープ越しに見つめていた女は、直接狙うのを諦めてスコープから目を外した。


「………?何故、こんなに遠くにいる?一瞬で移動……あの3人のうちの誰かが、テレポートのような魔法を使えるということか?」


長い茶髪を風に当て、闇夜に紛れるような黒スーツに身を包み、自身の身長より少し小さいくらいの大きなライフルを構えた魔法少女はその場で呟いた。


「まあ、いい…一度見た。いつでも殺れる……」


魔法少女は巨大なライフルを背に身につけて場所を移動する。一度撃ったからにはこちらの居場所を特定されているリスクを背負ったと考えなければならない。近距離で戦えば勝ち目のない彼女にとって、誰かと遭遇する可能性は少しでも減らしたかったのだ。




「ここ…は?」

「あーよかったぁ。無事にテレポートできたぁ。さっきはミスってビルの屋上に落下したけど今度は上手くいったぁ」


ラピスラズリの魔法か…と、ドリームは納得した。それにしても……かなり遠くまで移動した。とドリームは感じた。先程、ビルの上から見た景色は周囲にはない。今は、野原のような場所にいる。この試験のステージがいかに広いか、詳しいマップなどをきちんと把握する必要がある。とドリームは分析していた。


「ラピィちゃん。ごめんね。宝石使わせちゃって…私とドリームを助けてくれてありがとう」

「いいんだよぅ。それに、ラピィが宝石爆発させちゃったから位置を特定されたかもしれないし…あれはラピィの責任だよぅ。ドリームちゃん、こっちきてぇ」


ラピスラズリは謝りながらドリームを呼ぶ。ドリームがラピスラズリに近づくとラピスラズリは周囲に浮かんでいた緑色の宝石を割る。すると、先程、ドリームが血を流していた肩下の穴が塞がり、怪我が消えていた。


「これでよし。だねぇ。ごめんねぇ。軽率なことをして…」

「いや、ラピスラズリのおかげで助かった。感謝する」

「えへへ…」

「プリンセス・アリス、ラピスラズリ、今からちょっと移動しよう。開けた場所にいるのは危険だ。どこかで拠点にできそうな場所を見つけて、プリンセス・アリスの魔法のドアを設置しよう」


ドリームの提案にプリンセス・アリスとラピスラズリは頷いた。そして、3人は移動を始めた。




「ふぅ…あと、98人♪でも…序盤に殺しすぎたらつまらないですし…私の方から獲物を探すのは少し休憩♪ですね」


目の前に広がる血潮を容赦なく踏みつけ、足の裏に血をつけながら黒の魔法少女は歩く。レイピアの先端についた血を舐めて拭き取りながら黒の魔法少女-カーロスは不適に笑う。


残り-98人




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