第3話 狙撃の魔法少女




糸谷 香奈は自身の運命を嘆いていた。22歳になり、現実を受け入れていた彼女は…気づいたら、この…殺し合いに巻き込まれていたのだから…


彼女は、人を殺したくはない。だが、彼女は死ぬわけにはいかなかった。

彼女-魔法少女:スナイプはステージに降り立つと、すぐに軽く動き回った。この、魔法少女の姿になる前まで感じていたお腹の重さと…温もりを、今の彼女は感じられない。

彼女は死ぬわけにいかなかった。彼女が背負っている命は…彼女の命だけではないから……


魔法少女スナイプは長い茶髪で高身長の美少女、黒をベースとしたスーツのような衣服の魔法少女だ。背には彼女の身長より少し短いくらいのスナイパーライフルを装備している。どうしたものか…とスナイプが行動に悩んでいると、爆発音がした。近くのビルから煙が上がっている。スナイプはスナイパーライフルを床に置き、伏せ込むような体制になり、スコープを除きこむ。

煙が上がったビルの屋上には…3人の魔法少女がいた。


撃つ……


スナイプは引き金を引こうとした。だが、人を…殺す。その、重みは重く、引き金は冷たく、硬かった。

だが、生き残らなければならない…そう思い返し…スナイプは…香奈は冷徹になれた。一番強そうな剣を持つ魔法少女に狙いを定めて、スナイプは冷たく重い引き金をひいた。


「………これでは狙えないか」


スナイプの狙撃は当たった。だが、急所を外していた。しかも、魔法の弾を使わずに、元々スナイパーライフルに入っていた普通の弾を使ったため、威力も低かったのだろう。魔法の弾をセットする場に5つしかない魔法の弾を入れて、狙いを再び定めようとすると、ビルの屋上は宝石に包まれていた。スコープ越しに宝石を確認したスナイプは、直接狙うのを諦めてスコープから目を外した。そして、スコープを外して外したスコープを覗き込む。


「………?何故、こんなに遠くにいる?一瞬で移動……あの3人のうちの誰かが、テレポートのような魔法を使えるということか?」


スナイプの魔法…一度スコープで狙いを定めた者の居場所を、スコープを覗き込めば理解できる魔法により、3人の居場所を把握したスナイプは一人で呟いた。


「まあ、いい…一度見た。いつでも殺れる……」


スナイプは巨大なライフルを背に身につけて場所を移動する。一度撃ったからにはこちらの居場所を特定されているリスクを背負ったと考えなければならない。近距離で戦えば勝ち目のないスナイプにとって、誰かと遭遇する可能性は少しでも減らしたかったのだ。


スナイプは適当な建物の内部に入り身を隠す。しばらく時間が経つのを待とうと思いながらスマホを手にするが、スナイプの手は震えていた。人の命を奪う。その重みが…怖さが…蘇ってきた。スナイプは自身のお腹に手を当てた。そこには誰もいない。重みも温もりも感じない。だが、死ねない。と強く思うことができた。


「っ……」


スナイプがマップを確認しようとスマホを開くと、魔法少女の残り人数が98になっていた。スナイプは背中に冷たいものを感じて慌ててスコープを覗き込んだ。


「私じゃない……」


殺す覚悟で撃った。だが、死んでいなくて…自身がまだ、人殺しになっていなくて安心した。実際に魔法少女が死ねば本人も死ぬかはわからない。でも、これだけ異常なことが起こっているのだ。信憑性は高い。


「しまったな……」


スナイプは少し、後悔した。咄嗟に撃ってしまったが、あの場にいた魔法少女は3人、ならば、協力関係になるべきだったか…と……生き残れる人数は5人…カーロスを殺せなかった場合でも4人は生き残れる。ならば、3人で行動していた彼女たちと手を組むべきだった。とスナイプは後悔した。1人より4人の方が生存率は高いだろう。しかも、スナイプは遠距離型の魔法少女、近距離に強い魔法少女と対峙したら勝ち目がない。殺されるだけだ。

失敗した。と舌打ちをしながらスコープを覗きこむが、3人は既にスナイプでは追いつけない場所にいた。手を組むなら自分を合わせて4人がベスト。そう、スナイプは判断した。いや、寧ろ早く4人のグループを作らないとどんどん不利になる。そう感じたスナイプは焦った。


「追いかけるか…」


先程、遭遇したドリームたちの居場所をスコープを覗くことでスナイプはいつでも把握できる。追いかけることも考えたが、やはり距離が遠い。

スナイプは自身の装備を確認する。スナイパーライフルに魔法の弾丸が5つ。スナイパーライフルはどれだけ撃っても普通の弾は減らないが、急所を逃すと先程のように仕留めきれない。対して、魔法の弾丸は、爆発する。撃って、物に触れれば超高火力の爆発をする。ピクセルはそう説明していた。それをスナイプは5回使える。多いか少ないかで言えば少ない。生き残るためにスナイプが引き金を引く回数は5回では圧倒的に足りないだろうから……


「うぁぁー」


スナイプが悩んでいると、奇声のようなものが、スナイプのいる建物内で響いた。近くに何かいると悟ったスナイプはすぐに行動に移る。ライフルを背負い、少しでも動きやすい状態にしてから走り始めた。建物の通路を走り、次の角を曲がり外に出ようと判断したスナイプは角を曲がり足を止めた。


「これは…」

「あぅぁー」


見るからに赤ん坊…魔法のローブのようなものを着たかわいらしい赤ん坊が通路でよちよち歩きをしていた。まるで、親に可愛がられている生後数ヶ月の赤ん坊が親にハロウィンコスプレのベビー服を着せられているみたいで可愛らしかった。


「ピクセル、彼女は?」

「魔法少女なのだ」


画面越しで即答したピクセルの言葉を聞いたスナイプは怒りを露わにする。スナイプにとって許せるわけなかった。


「お前たちは…生まれて間もない赤ん坊も…この殺し合いに巻き込んだのか…」

「そうなのだ」


せめて…間違いだと言って欲しかった。この子だけでもこの殺し合いから離脱させてあげて欲しかった。


「外道め…」

「なんで怒ってるのだ?」

「こんな小さな赤ん坊に殺し合いをさせてようとしているのだぞ。怒らないわけないだろ」


スナイプは怒りの感情を込めて言うがピクセルは悪びれた様子はない。いや、そもそもピクセルを責めることは間違っているのだろうか…真に責めるべきは…とスナイプが考えていると、ピクセルは「殺さないのだ?」とスナイプに尋ねた。


「私はお前たちとは違う…こんなに小さな子を殺せない…」

「勘違いしているみたいだから説明しておくと、その子は魔法少女にならなかったら死んでいたのだ。産まれて間もなく病気になって、あと数秒で死ぬところを運良く魔法少女の資格を得て生き延びているのだ。彼女は助かるチャンスを得たのだ。魔法少女として、生き残ることができれば、彼女は死ぬことはないのだ」

「それ…でも……」


ピクセルの説明を聞いたスナイプはピクセルを責めることが出来なくなった。


「私と一緒に行こう」


スナイプは赤ん坊の魔法少女に手を伸ばした。スナイプの手を赤ん坊の魔法少女は笑顔で握った。


「懐かれたみたいなのだ。なら、その子のことを教えておくのだ。彼女は魔法少女:アゥア、彼女の魔法は簡単に言うと超音波なのだ。本当は他の魔法少女のことを教えちゃいけないけどその子は特別なのだ。正直、ピクセルも扱いに困っていたから助かったのだ」

「そうか…ありがとう。教えてくれて」


スナイプがピクセルに礼を言うとピクセルは画面から消えた。スナイプは赤ん坊の魔法少女、アゥアを両手で優しく抱えて建物を出る。


「静かにしていてね」

「あぅぁー」


スナイプの言葉を理解できるはずはないが、アゥアはスナイプに言われた通り静かにしていた。スナイプとアゥアは建物を出て、建物が並んでいた町を出て一度、近くの野原のステージに身を隠すことにした。スナイプの装備や、アゥアのことを考えての行動だった。




「ピクセル、様子はどうです?」

「ぼちぼちなのだ」


目の前で倒れる魔法少女の血を舐めながら黒の魔法少女はピクセルに尋ねた。


「あなたが気にしていた魔法少女は?」

「別の魔法少女と行動しているのだ」

「そうですか、では、そろそろ本格的に始めましょう。ミッションを始めてください」

「わかったのだ。カーロスはどうするのだ?」

「そうですね。序盤に殺しすぎては楽しくないですしね…しばらくは大人しくしていようかと。しばらくしてからの方が身体能力や魔法に慣れた強い魔法少女と戦えますからね♪」

「相変わらずの戦闘狂なのだ」


ピクセルは呆れた様子で黒の魔法少女、カーロスに言うとカーロスは不適に笑う。


「とりあえず、ミッションよろしくお願いしますね」

「わかったのだ」


ピクセルが消えたのを確認して、カーロスはしばらくどうやって時間を潰そうかを考える。すると、カーロスの足元で何かが動いた感触がした。


「あぁ…忘れてました」


カーロスはそう呟きながら、片足で踏みつけていた血塗れの魔法少女にレイピアを突き刺した。カーロスに踏み潰されていた魔法少女はレイピアを刺されて少しするとその場から消えた。


「あと97人♩」


序盤に自身が殺しすぎてはいけないが、他の者が殺し合いをしないとつまらない。殺し合いをしなければ強い魔法少女は育たないから……カーロスはそう考えながら適当に歩き始めた。


残り-97人





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