第9話 別れと別れ






「強かった…ですね♪これが、愛の力…というやつでしょうか♪」


黒の魔法少女カーロスは目の前で倒れている騎士風の魔法少女を見下ろしながら呟く。


「ゆ…め……」


ドリームは最後の力を振り絞る。


敵わなかった。叶わなかった。

カーロスに勝てなかった。プリンセス・アリスを…夢を最後まで護れなかった。

残された片手で、剣を地面に刺してからスマホを取り、操作する。


「ん?何を……」


プレゼントギフト

プリンセス・アリス…夢…私は、僕は…もう、君を護る剣として戦えない。だから…せめて、これを…君に託す。


ドリームがスマホの操作を終えると、ドリームの前に刺されていた剣は消えてなくなった。


「もう終わりにしても?」

「あぁ…充分だ……」

「強かったですよ♪あなたは♪」


片手で…カーロスと剣を交え…カーロスに傷を付けた魔法騎士を…カーロスは記憶に刻んだ。そして、敬意を払い、丁寧に、終わらせた。


残り-91人






「ドリーム…しょう……ちゃん………」


拠点に戻り…拠点内の魔法の扉が閉ざされた後、プリンセス・アリスは…夢は、魔法の扉を開けようとしながら泣いていた。どれだけ泣いても、魔法の扉は開かない。どこにも繋げられていないから……


「アリス、ラピィ、すぐに移動するぞ…ここは場所が知られている」

「大丈夫…だよ。移動しちゃ…だめ……だって、ドリームが戻って来た時に私たちがいなかったらさ…出迎えてあげないと…ドリームを……」

「アリスちゃん…」

「アリスさん…」


プリンセス・アリスを見て、ラピスラズリと祭神は何とも言えない表情をする。それに対してアヤカは…


「ドリームに勝ち目はない。さっさと逃げないとドリームは無駄死にしたことになるぞ」

「綾香!言い方ってものが…」

「ドリームは何の為にあの場に残った?こいつを逃す為だろう。ついでに、私たちも助けられた。ドリームにこいつを任されたからな。助けられた恩は返す。だから、私にはこいつをこの場から遠ざける義務がある。ついでに、こいつに現実を受け入れさせる義務もある」


アヤカはプリンセス・アリスを指差しながら強い口調で言った。アヤカに何と言われてもプリンセス・アリスは動こうとしない。アヤカが強引にプリンセス・アリスを連れ出そうとしたその時だった。


「しょう…ちゃん……」


プリンセス・アリスの目の前にドリームの剣が現れてプリンセス・アリスの前に突き刺さった。


「急ぐぞ…」


プリンセス・アリスがドリームの剣を掴んだのを確認したアヤカはプリンセス・アリスを引っ張って拠点の洞窟を出た。


「あら、まだいたのですね♪」

「っ…なんでこんな早く……」

「私の魔法♪を応用させればテレポートのようなこともできるのです♪」


黒の魔法少女カーロスはすごく楽しそうに笑みを浮かべてプリンセス・アリスたちを順に、品定めするように見つめる。


「あら、その剣…まだ、残っていたのですね♪そういえば…先程殺した方が、私に勝ってあなたに伝えたいことがある♪とか言ってましたよ」

「アリス、待て!」


アヤカの静止を無視してプリンセス・アリスはドリームの剣を強く握ってカーロスに一直線に進む。迫り来るプリンセス・アリスを迎え撃つ為にカーロスはレイピアを構える。


「志穂、強化頼む」

「もうやってます」


祭神の魔法で強化されたアヤカはプリンセス・アリスとは違う方向からカーロスに攻撃を仕掛ける。


「アヤカさん、アリスちゃん、下がって」


ラピスラズリは周囲に浮かぶ赤色の宝石を砕いてカーロス目掛けて投げる。


「ラピスラズリ、2手に分かれて逃げるぞ。こうなった以上逃げ切るのを優先するべきだ」

「うん。アヤカさんは祭神さんと…」

「助かる」


アヤカは祭神を担いで離脱する。ラピスラズリもプリンセス・アリスの手を引いて離脱した。

先程投げた赤色の宝石の爆発程度でカーロスを仕留められるわけない。と、アヤカとラピスラズリは理解していての行動だった。


「志穂…先に行け…」

「え、綾香?」

「先程の借りを返してくる。無理はしないさ。あいつと違って死ぬつもりはない。少し時間を稼いで終わりだ」


アヤカは祭神にそう言って離脱した道を引き返して爆発が起こった場所まで戻る。


「逃げなくていいのですか?♪」

「ちょっとだけ遊んでやる」


カーロスとアヤカは向き合い、すぐに攻防が始まった。カーロスが繰り出すレイピアを祭神の魔法で強化された体とアヤカの魔法で強化した反射神経で素早く処理する。カーロスのレイピアでの突きをアヤカは何度も躱す。アヤカも攻撃を加えようとするがなかなか隙がない。


「強い…♪」

「光栄だな」


カーロスが呟いた一瞬の隙をついてカーロスの背後に回り込んだアヤカは全力でカーロスを蹴り飛ばした。ダメージを与えた感触はあったが殺した感触はなかった。そもそも、全然ダメージが入っていない気すらもした。


「1分くらいは稼いだか…」


カーロスが起き上がる前にとアヤカは離脱して祭神の後を追う。祭神に追いついたアヤカは祭神を背負い全速力でカーロスがいる場から遠ざかろうとする。


「やっぱり♪速いですね♪」


その声を聞いてアヤカはゾッとした。全力で、走っていたはずなのに…追いつかれるはずないのに…と……

アヤカは後ろを振り返るがその場に黒の魔法少女の姿はない。幻聴か、と思いアヤカがホッとするとアヤカに背負われていた祭神が声にならない声を出して正面を見つめていた。


「こっち♪ですよ♪」

「っ…」


アヤカの正面の宙に裂け目ができており、そこから黒バラの模様が刻まれたレイピアが突き出された。


「逃げろ…」


アヤカは全力で祭神を投げ飛ばした。祭神の魔法で強化されたアヤカが全力で祭神を投げた。祭神は結構遠くまで飛んで行ったが、魔法少女の身体能力なら落下したくらいで怪我はしないだろう。とアヤカは考える。


「あなたも、大切な人を逃すのですね♪」

「あぁ、護らないといけないからな…私は志穂に生きて欲しい…」

「そうやって誰かを護ろうとする魔法少女は強い♪期待してますよ♪先程の魔法騎士さんみたいに楽しませてください♪」


アヤカは再びカーロスと対峙する。まだ、アヤカの強化は継続されていた。祭神がまだ祈っているのだろう。アヤカは…綾香は、祭神が…志穂がこの場に戻らずに逃げていることを願っていた。そして、無事に彼女が生き残れるように祈った。




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