第10話 騎士の誓い





「ラピィちゃん…離して……」


プリンセス・アリスを連れてカーロスがいた場所から急いで離れようと足を走らせていたラピスラズリに対してプリンセス・アリスが言う。プリンセス・アリスの声に力はなく、プリンセス・アリスを連れているラピスラズリに抵抗する気力もないように感じられた。


「安心して、あともう少しで転移宝石が回復するはずだから…そうすれば逃げ切れるから…」

「私は…逃げない」


そう言ってプリンセス・アリスは先程の戦いから離脱して初めて、ラピスラズリに抵抗してラピスラズリの腕を払った。


「アリスちゃん……」

「ドリームの…しょうちゃんの仇を討つ……」


プリンセス・アリスは力が全く入っていない声でラピスラズリに言い、震えながら片手で握っていた剣を両手で構える。


「アリスちゃん、ドリームの覚悟を無駄にしちゃダメだよ…」


なんて言うか、ラピスラズリは悩んでいた。犠牲、死、そう言った言葉を使うのはいけない気がした。プリンセス・アリスの心を傷つける気がした。悩んだラピスラズリは覚悟…と口にした。効果があったかはわからない。だが、プリンセス・アリスは足をガクガク震えさせて剣を地面に突き刺して、その場に座り込んだ。


「移動…するね」


転移宝石が回復したのを確認してラピスラズリは転移宝石を割り、プリンセス・アリスと、プリンセス・アリスが握るドリームの剣と共に遠くまで移動した。




「あの物陰で少し落ち着こうか…残りの宝石も回復させないとだしねぇ」


移動したラピスラズリは近くの物陰までプリンセス・アリスを連れて行き、ラピスラズリは座る。ラピスラズリが座ると、プリンセス・アリスも座り込んだ。ドリームの剣を抱きしめて…泣きながら座り込むプリンセス・アリスを見て、ラピスラズリはなんて声をかけるか悩んだ。そっとしておくべきだろうか…何か、話すべきだろうか…ラピスラズリは悩んだ。


「ドリームとは…本当の知り合い…だったのかなぁ?」

「………幼馴染み」


ラピスラズリの問いかけにプリンセス・アリスは力のない声で答えた。


「そうだったんだねぇ。ドリームは…男の子?」

「うん……」

「そっかぁ、男の子なんだねぇ。通りでかっこいいわけだ。アリスちゃん、大切にされていたんだねぇ」

「うん……」

「辛いなら黙るけど?」


プリンセス・アリスが先程より激しく泣くのを見て、ラピスラズリは間違えたか。と思いながらプリンセス・アリスに尋ねるが、プリンセス・アリスは大丈夫。と短く答える。


「しょうちゃん…私なんかを護るって…言ってくれたのに…戦ってくれたのに…私、あの時、怖くて、パニックになって…何もできなかった」

「それが普通だよ。ラピィだって逃げることで精一杯だったから…ドリームが強かったんだよ…いや、きっと…ドリームだって怖かったはずだよ。逃げたかったはずだよ。でもね。ドリームは逃げなかった。それはね。アリスちゃんに生きて欲しいから…なんだよぅ」

「私なんかより…しょうちゃんが生きていた方が…」

「アリスちゃん、それ以上は言っちゃだめ」


ラピスラズリは人差し指をプリンセス・アリスの口にそっと置いて、プリンセス・アリスの言葉を遮る。


「それは、ドリームの覚悟を否定することになるからダメ。ドリームの覚悟を…想いを…アリスちゃんが否定するのは絶対にだめ…」

「ラピィちゃん…」


ラピスラズリの言葉を聞いて、プリンセス・アリスはドリームの剣を抱きしめながら号泣する。ラピスラズリはそっとプリンセス・アリスの背に手を置いて優しく撫でる。


「ドリームが何でアリスちゃんに生きて欲しかったか…何でアリスちゃんを護ってくれたかわかる?」

「わか…らないよ……」

「ドリームはアリスちゃんのこと、好きだったんだと思うよ。だから、命がけでアリスちゃんを護った。命がけでアリスちゃんのために戦った。大好きな人のために戦っていたから…ドリームは立ち向かえたんだと思うよ」


ラピスラズリの言葉を聞いてプリンセス・アリスは「しょうちゃん…しょうちゃん…」と泣きながら何度も繰り返した。


「アリスちゃん、生きないとね。ドリームの想い…無駄にさせられないよ。ラピィと一緒に生きよう」

「ラピィちゃん……」


優しい声でラピスラズリに言われたプリンセス・アリスはドリームの剣を片手で握り、もう片方の手でラピスラズリに抱きついた。


「ほら、泣かないの。アリスちゃんが泣いているところ…ドリームは見たくないと思うよ」

「ラピィちゃん…ありがとう」

「いえいえ」


まだ、プリンセス・アリスの心に深く刻まれた傷は癒えていない。だが、ラピスラズリの言葉を聞いて、プリンセス・アリスは生きよう。と…生きて、ドリームの…翔太の覚悟が無駄ではなかった。と証明しよう。と思えた。


プリンセス・アリスは立ち上がり、ドリームの剣を地面に刺し込んで両手で強く握る。


「しょうちゃん…私を…助けてくれてありがとう。護ってくれて…ありがとう。直接…伝えたかったけど…私も、しょうちゃんのこと…好き。だよ。………しょうちゃん、私に力を貸してください。私と戦ってください。私を…護ってください……一緒に私としょうちゃんの夢を叶えてください」


プリンセス・アリスは、ドリームの剣を強く握り、祈るように言う。

プリンセス・アリスの、魔法少女になる夢、その夢を護りたいというドリームの夢、それを掴む力をください。と、プリンセス・アリスは…夢は、ドリームに…翔太に願う。


「これって…」

「しょうちゃん…ドリーム…ありがとう」


夢が…プリンセス・アリスが握る剣が光り、翔太の…ドリームの力は夢に…プリンセス・アリスに託された。

夢と翔太、魔法少女プリンセス・アリスと魔法騎士ドリームの夢を願いを掴む力が…プリンセス・アリスに…夢に宿った。


「ラピィちゃん、私、戦う」

「え?」

「私としょうちゃんの夢を叶えるために、私は魔法少女として…人を護るために悪を断つ」


プリンセス・アリスは、ドリームの剣を地面から抜いて背に背負う。


「私が…私としょうちゃんが…カーロスを倒す。魔法少女プリンセス・アリスとして…魔法騎士ドリームとして!」


翔太の…ドリームの力は引き継がれた。夢の…プリンセス・アリスの夢を叶える力として…

夢はプリンセス・アリスは誓う。騎士の誓い、あの時、翔太が…ドリームが、夢に…プリンセス・アリスに誓った時のように……









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