第19話 抱えるもの





「ラピスラズリ、プリンセス・アリスを守れ」


アカネはラピスラズリにそう言い刀を振るう。アカネが刀を振るった瞬間、1人の魔法少女の首が飛んだ。


「え…」

「アリスちゃん、こっち!」


突然の出来事に呆然とするプリンセス・アリスの腕を掴み、ラピスラズリは森の木陰に隠れる。敵を見失ったアカネも、プリンセス・アリスたちに合流する。


「あと2人はいるぞ…警戒しろ…」

「ちょっと待って!何でいきなり殺したの!」

「あいつは私の命を狙ったんだ。今のは正当防衛、だろ?いいか、お前の命は私の命だ。だから、お前が命を狙われれば私とラピスラズリの命も狙われたということだ。私は自分の命のために奴を斬った。仕方ないことだろう。自覚しろ…お前は36人の命を背負っている。軽々しく利用しようとするな。自惚れるな。お前如きがはしゃいだところで35人道連れに死亡だ」


アカネは強く、プリンセス・アリスに言う。ラピスラズリはただ、黙って聞いていた。プリンセス・アリスは何とも言えない表情をする。


「でも!私が動かないと…」

「自惚れるなと言っただろう。また、同じ誤ちを繰り返すのか?また何かを失わないと学べないのか?35人を道連れに死ぬまで理解しないのか?お前は特別じゃない、偶然、私たちの大将になっただけでお前は弱い。自分は特別だと自惚れるな」


明らかな怒りを込めて、アカネはプリンセス・アリスに言う。誤ち…そう言われて、プリンセス・アリスの脳裏を翔太の姿が…ドリームの姿が遮る。そして、薄々感じていた自分の急激なパワーアップのきっかけとなっている祭神の姿が…その側にいて彼女を護り続けたであろうアヤカの姿が……失った者を……プリンセス・アリスは思い返した。


「お前の命に私の命がかかっている以上、私はお前を護ってやる。ただし、お前のやり方には従わない。私のやり方で勝手にお前を護る。いや、お前を護るのはついでだ。私の命を護るついでさ…いつまでも甘いお前は…この先、どうする?理想を追い求め35人を道連れに死ぬのか?理想を追い求め、お前が無理な戦いを続ければ…お前はまた、大切な者を1人ずつ、失うだけだ」


アカネはそう言い残して木の上に登る。木の上に登り、敵の居場所を確認したアカネは、魔法を使い一瞬で1人の魔法少女の首を飛ばした。側にいた仲間の魔法少女の首が飛び、恐怖を抱いたのか、側にいた魔法少女は逃げるように去っていった。


「胸糞悪い…」


アカネはそう呟き、森に姿を消した。その際、プリンセス・アリスとラピスラズリの元に、戻ることはなかった。




「アリスちゃん、大丈夫?」


失った者を思い返して、嗚咽を吐くプリンセス・アリスを、ラピスラズリが心配するが、プリンセス・アリスの視界にラピスラズリが写り、プリンセス・アリスは、ラピスラズリが失った者の中に加わる想像をしてしまい。更に嗚咽を吐く。


「アリスちゃん?本当に大丈夫?と、とりあえず移動しよぅ…ここだと、ゆっくりは出来ないからさ…」


苦しむプリンセス・アリスを連れて、ラピスラズリは人目が無さそうな場所を探して移動する。





「ラピィちゃん…迷惑かけてごめんなさい……」

「いいよ。気にしないでぇ」


笑顔でそう答えてくれるラピスラズリの存在が、プリンセス・アリスにはありがたかった。だが、どうしても、先程のアカネの言葉を思い出して、ラピスラズリの顔を長時間、見ることはできなかった。ラピスラズリを…ドリームたちと同じように見てしまうから……


「大丈夫?」

「………ごめんなさい」

「謝らなくていいよぉ」

「………どうして、ラピィちゃんは私なんかと一緒にいてくれるの?」


ドリームがいなくなり、祭神とアヤカがいなくなり、アカネにも見放されてしまった。それなのに、ラピスラズリはプリンセス・アリスの側にいてくれる。


「うーん。強いて理由を付けるなら、ドリームちゃんに任されたから…かなぁ。まあ、でも、ドリームちゃんに頼まれてなくても、ラピィはアリスちゃんの側にいたよ。アリスちゃんとドリームちゃんは、大切な仲間だし、アリスちゃんはすごくいい子だから…単純に、アリスちゃんともっと仲良くなってずっと一緒にいたいだけ…かも。まあ、理由なんてあってないようなものだよぅ。ラピィはラピィがそうしたいから、アリスちゃんの側にいるだけ。これまでも、これからも。ねぇ」

「ラピィちゃん…ありがとう。ごめんなさい」


プリンセス・アリスは泣きながらラピスラズリに抱きついた。ラピスラズリはプリンセス・アリスを優しく受け止める。


「なんで謝るのぉ?謝ることないでしょ」

「ごめんなさい…私、ラピィちゃんが……私の側からいなくなるイメージしちゃってたの、アカネちゃんに言われて、ドリームたちのこと思い出してその中にラピィちゃんも入れちゃってた…」

「ラピィを勝手に殺さないでよぅ。安心して、ラピィはアリスちゃんの側にいるよ。ラピィは強いもん。それに、アリスちゃんはめちゃくちゃ強いから、ラピィがピンチになったら助けてくれるでしょう?」

「うん…」

「大丈夫。ラピィは、アリスちゃんの側にずっといるよ」

「ありがとう。ラピィ…ちゃん……」


プリンセス・アリスは泣きながら、ラピスラズリを強く抱きしめる。ラピスラズリはプリンセス・アリスが泣き止むまで、プリンセス・アリスを優しく抱きしめた。




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