第20話 変化
「ピクセル、一つだけ…頼みがある……」
戦いに向かう前、魔法少女スナイプはスマホを開いてピクセルを呼び出す。
『どうしたのだ?ミッションで何か聞きたいことでもあるのだ?』
「いや、そうじゃない……アゥアの、本当の名前を教えて欲しい…」
スナイプの傷はまだ癒えていなかった。必ず護る。と決めた命を護ることができなかったことに対して、罪悪感を抱いていた。
『うーむ。まあ、死人だし、個人情報を教えても問題ないと判断するのだ』
プログラムされた言葉を話しているのか、それとも、ピクセル当人の意思で発した言葉なのか…画面に映し出されるピクセルの発言に、スナイプは不快感を抱いたが…声に出すことはできなかった。悪いのはピクセルじゃない。護れなかったスナイプとアゥアを巻き込んだカーロスだからだ。
『魔法少女アゥアの本名は粟田夏海なのだ。どうしてそんなこと聞くのだ?』
夏海…いい名前だ。護れなかった。せめてもの報い…あの子に生きて欲しかった。もう、あの子のような子を失いたくない。あの子のようないい子を育てたい。
アゥアは、夏海は本当にいい子だった。スナイプの言うことをきちんと聞いてくれていたし、スナイプがピンチの時は、魔法で助けようとしてくれた。何より、明るい子だった。
「夏海…か……」
スナイプは自身のお腹を撫でながらアゥアの名前を繰り返した。生き延びて、あの子のようないい子を育てたい。あの子のようないい子に育って欲しい。生きて、夏海を育てたい。スナイプはそう思い、必ず生き延びる決意を固める。
『まあ、いいのだ。他に用はあるのだ?』
「ない」
『じゃあ、また何かあったら呼ぶのだ。健闘を祈るのだ』
スナイプにそう言い残してピクセルは画面から消えた。
「最後に確認したいこと。は確認できましたか?」
スナイプが振り返ると、スナイプと同じ紅組の魔法少女クリスタルとボムボムがいた。2人の後ろにはスナイプたちの側にいた紅組の魔法少女が5人集められている。合計、8人の紅組の魔法少女が集まった。スナイプたち3人のパーティーに、2人と3人のパーティーが合流した形だ。
だが、8人でパーティー登録はしない。このミッションが終わると、また生き残りをかけて戦うことになるかもしれないからだ。一時的な協力関係だ。
「ああ…確認できた…」
「では、行きましょうか」
「ああ…」
クリスタルの言葉にスナイプが返事をすると、8人の魔法少女は一斉に移動を開始する。目的は…白組の大将、すなわち、プリンセス・アリス……
プリンセス・アリスの居場所は、スナイプには筒抜けだった。一度、スコープで見た者の位置がわかる。スナイプに一度、スコープで見られていたプリンセス・アリスにスナイプの魔法は適応されていた。
プリンセス・アリスの元に一直線に向かうが、スナイプは移動しながらこまめにプリンセス・アリスの位置と、仲間である紅組の魔法少女の位置を確認する。プリンセス・アリスの元にたどり着くまで一人でも多く仲間を集めたいからだ。最短で可能な限り最大人数で一撃で叩く。単純だが、強力な作戦だ。相手の準備が整う前に叩き潰すのだから。
プリンセス・アリスの側に到達する頃には新たに4人パーティーと2人パーティーと合流し、14人の魔法少女が集まっていた。スナイプはボムボムとクリスタル以外の魔法少女にプリンセス・アリスの細かい位置を教える。スナイプは、戦いの場には立たない。スナイプが戦いに出て殺されたら意味がないからだ。なので、スナイプたちのパーティーは戦いに参加しない。それは全員が合意済みだった。
11人の魔法少女を見送り、スナイプたちは高い場所に移動する。
「クリスタル、見張りは頼む。ボムボム、いざと言う時は任せるぞ」
「はい」
「了解」
2人の返事を聞いて、スナイプは集中する。集中してスコープを覗き込み、標的をスコープに入れていく。まずは、11人の魔法少女たち。あらかじめスコープに写せば、ミッションが終わった後、スナイプたちのパーティーだけが、11人の魔法少女の居場所を把握できる優位が発生する。そういった今後の仕込みを終えた後は、ゆっくりと…スナイプはスコープ内にプリンセス・アリスを捉える。まだ、撃たない。撃つのは…混戦になってから。
生き延びる為、スナイプは手段を選ばなくなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます