第16話 失った者




「あなたは?」

「ただの剣士だ」


プリンセス・アリスが対峙している袴姿の魔法少女に尋ねると袴姿の魔法少女は即答する。


「これはあなたがやったの?」

「あぁ」

「何のために?」

「敵を倒すため」

「あなたは魔法少女を殺したの?」

「あぁ」

「………正当防衛?」

「私の警告を無視したから殺した」


プリンセス・アリスは淡々と袴姿の魔法少女に尋ねる。袴姿の魔法少女は淡々とプリンセス・アリスの質問に答える。


「ラピィちゃん、ヤバくなったら…逃げて……」

「アリスちゃん?」

「人殺しを野放しには…できない」


プリンセス・アリスはドリームの剣を手に袴姿の魔法少女との距離を詰める。迫り来るプリンセス・アリス目掛けて袴姿の魔法少女は刀を振るう。

その瞬間、嫌な予感がしたラピスラズリは宝石を1つ破壊する。宝石が破壊されて、プリンセス・アリスと袴姿の魔法少女の間に宝石の壁が生まれた。そして、宝石の壁は鈍い音を立てて破壊された。


ラピスラズリが作り出した宝石の壁が破壊されると同時にプリンセス・アリスは一気に袴姿の魔法少女との距離を詰めて袴姿の魔法少女に剣を振るう。


プリンセス・アリスの剣と袴姿の魔法少女の刀がぶつかり、鈍い金属音が周囲に鳴り響く。


「アリスちゃん、冷静になって」


ラピスラズリがプリンセス・アリスに声をかけるがプリンセス・アリスは、変わっていた。大切な人を失ったからなのか…心の支えがなくなり、余裕がないのか…ラピスラズリにはわからないが、以前のプリンセス・アリスとは雰囲気が違う。


迷いがなくなった。魔法少女を…悪と断定した者を断ち切ることに迷いがなくなったように見える。迷いがなくなったプリンセス・アリスは強かった。袴姿の魔法少女に剣で打ち勝ち、袴姿の魔法少女が体勢を崩した瞬間に、袴姿の魔法少女に蹴りを入れ吹き飛ばす。


そして、ドリームの剣を地面に突き刺して魔法を発動した。ドリームから受け継いだ魔法を……

ドリームの魔法で地面を操り、宙を舞っていた袴姿の魔法少女を左右から押し潰した。


「アリスちゃん…強い……」


突然上がった身体能力に加えて、ドリームから引き継いだドリームの魔法、プリンセス・アリス本来の魔法を使うことなく袴姿の魔法少女を圧倒した。


だが、袴姿の魔法少女も黙ってやられはしなかった。左右から地面のサンドイッチにされる直前、片方の地面の一部を抉り、空間を作り押し潰される前に地面の空間に潜り込んだ。左右の地面が勢いよくぶつかり、ラピスラズリは倒した。と思ったがプリンセス・アリスはまだ、魔法を使い続けて左右の地面を更に押し込んだ。


しばらくすると左側の地面から刀が突き出てきて少しすると袴姿の魔法少女が地面の中から姿を表した。


袴姿の魔法少女の姿を確認したプリンセス・アリスは地面から剣を抜いて一気に袴姿の魔法少女との距離を詰めるために駆ける。


「魔法の扉」


袴姿の魔法少女が、プリンセス・アリスに向けて刀を振るうと、プリンセス・アリスは魔法を発動して、プリンセス・アリスと袴姿の魔法少女の間に魔法の扉が設置されて、袴姿の魔法少女の魔法を受け止める。


「強いな…」


袴姿の魔法少女がそう呟きながら刀を構え直して勢いよく、何度も刀を振るう。プリンセス・アリスは地面に伏せながらドリームの剣を握り、魔法を発動、袴姿の魔法少女の足元の地面を押し上げて袴姿の魔法少女の体勢を崩す。


「……何故、お前は剣を握る?」

「もう何も失いたくないから。誰かに何かを失って欲しくないから」


バランスを崩した袴姿の魔法少女との距離を一瞬で詰めた。その際、袴姿の魔法少女とプリンセス・アリスはそのようなやり取りをした。


「………強いな。私と同じ、失った者の言葉か……私とは、違う道を選んだようだがな……」


プリンセス・アリスは袴姿の魔法少女の目の前で剣を止めた。それ以上、剣を動かせなかった。


プリンセス・アリスは腕を誰かに掴まれている気がした。それ以上はダメだ。と……

ドリームの姿が浮かんだ。その直後に、祭神とアヤカの姿も、思い浮かんだ。


「何故、剣を止める」

「動かないの……動かせないの……」

「甘いな…何も失いたくなければ…誰かに何かを失って欲しくないのならば……その甘さは捨てるべきだ」


聞いたことあるような言葉だった。無口で、ボーイッシュな感じの魔法少女に言われた最初の言葉をプリンセス・アリスは思い返す。


『貴様が甘いといずれ大切な者を失うことになるぞ…その時、後悔しないように甘さを捨てるんだな…私は護る者のために甘さを捨てた。戯言を語るな。話せば先程の魔法少女が貴様を殺そうとすることはなかったと思うか?そんな保証はない。最悪の場合を考えろ…人が護れるものは少ない…綺麗事を捨てて優先順位を付けろ…そのために、甘さを捨てろ…戯言を語るな。これは警告だ。次はないからな…』


「何故、泣く?」

「思い出したから…」


プリンセス・アリスは涙を拭う。地震に横たわる袴姿の魔法少女はその様子を黙って見つめていた。


「あなたも…何かを失ったの?」

「私が甘かっただけだ。今のお前みたいに…」


袴姿の魔法少女はそう言いながら立ち上がる。


「………私たちと組まない?」

「人殺しを野放しにできないのではなかったか?」

「悪い人なら、その言葉は出てこないはず」

「甘いな……私は誰かとは組まない。もう、失いたくないからな。さっさと消えろ。見逃してやる。私とは違う道を選んだ失った者に少しだけ興味が湧いた」

「あなただって、甘いじゃん」

「うるさい。斬るぞ」

「私たちと一緒に戦って」

「断る」


プリンセス・アリスの申し出を袴姿の魔法少女は拒絶する。だが、プリンセス・アリスは放っておけない。彼女は、プリンセス・アリスと同じ、失った者、なのだから……









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