第15話 運命は扉をたたく
「おにいちゃん……わたしのことキライなの?」
背中から完全に密着するように抱きついてきた桃音は、どこか寂しげにそんなことを言う。
「──え?」
困惑に困惑が重なり、俺は一瞬、桃音が何と言ったのかわからなくなった。
「ねえ、教えてお兄ちゃん……」
「──」
……やはり、声はでない。そんな自分が嫌になる。
声が出ないのは、ただの自己保身。自己防衛ともいえるモノだ。今の関係を壊したくないからこその保身。今の関係が心地よく、満足しているからこそのこと。
無論、そんな関係に不満がないわけではない。しかしそれを口にすること──それは間接的に『ソレ』を認めてしまうことに他ならないのだ。
そうわかっているから、声に出せない。今の関係が好きだから。言ってしまえば、この関係が壊れてしまうと知っているから。
そして──
──言ってしまえば、戻れなくなるから。
「ねえお願い……それで踏ん切りがつくからさ……」
桃音の声が段々と弱々しくなっていく。
しかしその声を聞いても問への答えを口に出せない。心が弱いから、怖がりだから。
そんな言葉をどれほど重ねても言い訳にしかならないことはわかっている。
「おねがいだから……おしえてよ……」
先ほどより弱々しい声音。今にも消えてしまいそうなほどの儚さを持つ声に、俺は半ば無意識に答えてしまう。
「俺は桃音が好きだよ」
と。言ってしまってから気がついた。そして静かに、俺の心を絶望が染め上げていくのを感じた。
これまでの関係が崩れていく音が聞こえた。
そして、桃音の泣く声が、背中から静かに、聞こえた。
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