最終話 妹が風邪を引こうとしている
休日の午後は暇である。
午前中こそ、部屋の掃除や布団を干したりとそこそこ忙しかったが、午後になった
そんなどうでもいい思考で時間を潰していると、居間に金具の高い音が響く。
「桃音、自主学習はもういいのか?」
「うん。今日はもういいかなって」
妹の桃音は勤勉で、今日だけでももう四時間は自主学習をしている。
俺もそこまで自主学習とかが苦になる性格ではないが……そこまでできないだろう。素直に尊敬できる。
そんな真面目な桃音は、何故か俺の足の間に座る。
「……寒くないか?」
「お兄ちゃん暖かいもん。別に寒くないよ」
そう言って体重を預けてくる桃音。
告白の日から早くも1ヶ月経ち、桃音は更に甘えてくるようになった。今のように俺に寄りかかってくることも珍しくないし、添い寝しようとせがむこともあるくらい。
ちなみに母も容認しているので、家の中では恋人のように接している。
「確かに人の体温は高いけど、炬燵のほうが暖かいぞ?」
「……」
桃音は膨れっ面でソファーから下りて、炬燵に入る。
我が家の冬のこの場所は、人を駄目にするもので溢れており、気を抜けば眠ってしまう。そんな場所なのだ。
「……お兄ちゃん、背中」
「お兄ちゃんの扱いひどくないか?」
ちょっと傷心しそう。いえまあ、なりますけどね? 背もたれに。
「恋人だからいーの」
そう言われたら、こちらは何も言えなくなってしまう。
桃音はまた俺に寄りかかる。
ふわりとした匂いが
「……そんな緊張してるなら、無理しなくてもいいんだぞ?」
「無理じゃないし……」
そう
……
「これでも大丈夫か?」
「こ、これは無理だよ……」
密着しているので、冬服越しながらも心臓の激しい鼓動が聞こえてくる。
でもそれは、俺も同じことで──
「……お兄ちゃんも、ドキドキしてる?」
「してるよ……可愛い妹を抱きしめてるんだから」
こうして恋人のように桃音と接することができるのは嬉しいし、出来ないと
だから自然と、抱きしめる力も強くなる。
「ホントだ。お兄ちゃんの心臓の音、すごい」
「桃音の心音も負けてないぞ?」
そう言い合って、自然と笑ってしまう。
どちらからともなく、本当に自然と。強いていうなら同時に、俺と桃音は笑ってしまう。
「兄妹だなぁ」
「兄妹だね」
自然と溢れた笑みはいつの間にか緊張をほぐし、いつもの、俺たちの心地よい、いつもの雰囲気を
「お兄ちゃんに包まれてるなぁ……ねぇお兄ちゃん。このままちょっと寝てもいい?」
「風邪引くぞ?」
本当に眠たげな桃音に、そう冗談混じりに言う。
すると桃音は笑顔で「いいよ」なんて呟いて、振り向きざまにキスをする。
驚き固まっていると、桃音は悪戯が成功した子供のように明るい笑みで言った。
「──またお兄ちゃんに看病されるなら、風邪になってもいいかな」
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