第10話 1ヶ月越しの真実

 先月のことを、覚えてる範囲全て話した。


「そう……」


 桃音はどこか冷めた様子ですっと立ち上がり、黒のチュニックの上から薄手のパーカーを着る。どこかへ行くのだろうか。


「ちょっと走ってくる」


 そう言うと、桃音はフードを深く被り、居間を出ていく。時刻は八時半。俺はいってらっしゃいと送り出す。

 ふぅ……俺も走ってくるかね?

 異様に室内を暑く感じながら、そんなことを思う。


「湊ー、お風呂上がった──って、桃音ちゃんは?」

「先月のこと聞かれたからさ」


 そう言うと、母は「あー、青春ねぇ」と笑って、コップに水を注いで飲む。


「はぁ……風呂上がりの一杯は生き返るー!」

「おじさんくさい……」

「おばさんだって、これくらいは言うわよ」


 まあ知らないけど。と付け足して、母はソファーに座ってテレビをつける。


「……じゃあ、俺も入ってくる」

「んー、行ってらー」


■■■■


 風呂から上がり、一息つく。

 桃音はまだ帰ってきていない。時刻は9時半すぎ。母は料理番組を見て寝てしまった。


「10時になっても帰ってこなかったら、外で待つか」


 そう独りごつ。こういう時ほど時間というのはゆっくりと過ぎていき、ただただ不安だけが募っていく。


「よし、もう行こう」


 心配が臨界点に達した俺は自前のウェアを着て、財布を後ろポケットにつっこみ、ランニングシューズを履いて外に出る。

 外はうすらと寒く、走るのに適しているかと問われれば否と答えざるを得ない。強く冷たい風が吹くのも理由の一つだ。


「……お兄ちゃん」

「桃音、帰ってたのか」


 どこかつまらなそうに塀に背を預けていた桃音を見て、俺は安堵あんどの気持ちを覚えた。


「お兄ちゃん。コンビニ行こ?」


 桃音はどこか憂いを含んだ表情でそう言った。

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