第14話 かくして賽は投げられた

「──湊は桃音ちゃんのこと好きなの?」


 千夏の呟いたその言葉は、俺の思考を止めるのに十分なモノだった。千夏にとっては話半分に聞いたことかもしれないが、その疑問は──


「昔──それこそ出会った時から、暇さえあれば喋っていたからさ、桃音ちゃんのこと好きなのはよーく知ってるつもりだよ。だけどその『好意』は親愛からくるものなの?」

「──」


 そうだ。そのたった三文字が、喉元でつまって声にならないし出せない。無論、わざとではない。これは言わば警鐘けいしょう。それを言葉に、明確にしたら、戻れなくなると、壊れてしまうとわかっているからこそ、言えないのだ。


「──ま、無理には聞かないよ。そこまでして知りたいことじゃないし。は」


 そうきちんと目を見て話す千夏から、思わず目をそらしてしまう。


「さて、じゃあ帰った帰った。あんまり長居されると私が怒られるんだよねー」

「……今更じゃないか?」


 そうだね。と千夏は笑い、桃音の会計を済ます。どこか桃音がたどたどしいのは、きっと先ほどの話を聞いていたからだろう。聞こえてしまうほどの声で千夏も喋っていたが。

 ありがとうございましたー。なんて店員らしい言葉を千夏の口から聞いたその帰り道は、とても暗い雰囲気ふんいきになった。いつもなら繋いでいる手も今日は繋いでいないし、そこそこ距離もあいている。

 その理由は言わずもがな。桃音は先ほどの会話の問の答えが気になっているのだろう。


「……」

「……」


 お互いに無言のまま家の門を通る。鍵を開けようとポケットから鍵を取り出したと同時に、後ろから衝撃が走る。


「も、桃音?」


 カランッと鍵が音を立てて地面で跳ねる。

 待て、俺、今何をされてる?

 背中から桃音の体温を感じているし、桃音の腕は俺の動きを制限するかのように腕ごと抱き締めている。それに女性的な膨らみが背中に押し当てられているのか、どこか柔らかさも感じている。

 そんな困惑を知って知らでか、桃音は呟くように、けれどハッキリと呟く。




「おにいちゃん……わたしのことキライなの?」

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