妹が風邪をひいてから甘えてくるようになった

束白心吏

第1話 妹が風邪をひいた

 妹とは、いずれ兄離れするものである。


『私、お兄ちゃんと結婚する!』


 そんな無邪気で可愛いことを言った時期も今は昔。五つほど歳の離れた妹はここ数年ほど反抗期だ。

 甘えてきてた頃が懐かしい。けれど懐かしいと思えるのは今の反抗期があるからなのだろう……ただ、そろそろ反抗期止めて欲しいとは思う。舌打ちされるの、アレは地味に精神的なダメージを負うものなのだ。

 まあ高校卒業までは覚悟しているけども。


 久々に昔のことを夢に見たせいか、ふとそんなことを思ってしまったり。けれど俺にもあったからなぁ……反抗期。

 伸びをひとつして二階にある自室から一階の居間に降りると、母がバタバタとしている。あれ? アイツ今日はまだ起きてないのかな?

 いつもなら──


『チッ』


 ──と、横目に俺を見て舌打ちするんだけれど……う、思い出すの止めよう。辛すぎる……。


「おはよう」

「あ、おはようみなと! 朝ごはん置いてあるわよ」

「うん。それはいいけどどうしたの? そんな急いで」


 母は引き出しをがさごそとあさり、何かを探している様子。たぶん薬。だがいつも飲んでる頭痛薬ではなさそうだ。


「実は桃音ももねちゃん、風邪ひいちゃったらしいのよ」

「あー、それで風邪薬? 探しとこうか?」

「お願い! あ、ついでに看病もお願いしていい?」

「うん。いいよ」


 ありがとね! と、母はソファーに置いてあったかばんを持って、仕事に向かう。

 さて、風邪薬か……。

 俺は記憶を頼りに戸棚から薬を探す。

 ここ数年、俺は風邪をひいていない。桃音や母もそれは同様だ。とはいえ薬は年に一度、戸棚の大掃除も兼ねて新調しているから、戸棚には入っているはず。


「あれ? ……お、ここか」


 戸棚の奥に、やっと風邪薬を見つけた。

 それにしても風邪か……そういえば朝食は食べたのか? 食欲は? 体温計も必要だよな。あと氷枕こおりまくら……って、そんなに多くは持っていけないな。

 とりあえず薬と体温計とゼリーとスプーンを袋にいれ、冷蔵庫に入っている未開封のスポドリを持って桃音の部屋に行く。


「桃音ー、起きてるー?」


 コンコンとノックして、ゆっくりと扉を開ける。

 桃音は薄目を開いてこちらを見ている。

 もはや文句を言う気力もないのか、桃音は無言で体を起こす。


「大丈夫か? おでこ触るぞ?」


 断りを入れ、桃音のおでこに触る。

 ……熱い。これは結構な熱だ。


「体温は計れる?」

「……(コクリ)」

「よし、じゃあ氷枕持ってくるから計っててな」


 桃音が体温計を受け取ったので、俺は居間に戻り、氷枕を持ってくる。

 氷枕を持って桃音の部屋に戻ると、体温を計り終えていた。


「三十七度八分……熱あるな。食欲は?」

「……(フルフル)」


 ないか……まあ仕方ない。


「じゃあ寝ててな。あ、氷枕に変えるぞ?」

「……」


 何も言わないが、起き上がっているということは変えていいということだろう。


「よし、スポドリも置いとくからな? じゃあおやすみ。桃音」


 桃音が横になったのを確認して、俺は部屋を出る。

 さて俺も仕事しないとな。

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