第5話 風邪をひいたらしい

 ──体が怠い。重たい。

 スマホが朝を知らせるアラームを鳴らす。それを止めたのはいいけれども、何もやる気が起きない。そして動くこと自体を拒むかのように体は重たい。

 それでも今日は平日。起きて仕事をしなければと上半身を起こし、ベッドから降りる。

 起きてから、どうも頭がボーッとしている。考えていたこともあるような気がするけど、それすらもわからなくなってくる。


──ああ、これ風邪か。


 そう理解しても、どこか他人事のように感じてしまう。

 とりあえず風邪薬……と、部屋を出て居間に向かうと、母がバタバタとしていた。


「……おはよ」

「おはよう……って、顔色悪いわよ?」


 ……そうなの? しかし鏡はないし、自分の顔色はわからない。

 風邪薬を取りに来たのだけど……そうだった。今日は平日なのだ。


「とりあえず熱を測るわよ。測り終わったら部屋で寝てなさい。風邪薬も出しとくから、何か食べたら飲みなさいね」


 母はそう言って体温計を渡してくる。

 ボーッとした思考の中、体温計を左脇にさす。

 何も考えることもできず、ただただ時間が過ぎていく。


 ピピピと高い音が耳に入る。体温計に表示された体温は──


「38度1分……たぶん風邪ね。今日はゆっくり休みなさい」


 母にそう言われ、居間から出る。

 ふと階段から音がして上を向けば、妹が降りてくるところだった。


「……おはよ」

「おはよぅ……」


 怠い。本格的にヤバいかもしれない。

 は鉛のように重い体を、自分の部屋のベッドまで無理やり動かす。ベッドにつくと直ぐに眠気が襲ってきた。

 一度寝てから飯を食べて薬を飲めばいいや。そう考えて、睡魔に身も意識も委ねた。

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