第6話 暖かい出来事

 ──ふと目が覚め時計を見ると、時刻は9時30分を指していた。

 俺は空腹を訴える腹のため起き上がる。少し寝たお陰か、幾ばくか楽になったような気がする。

 まだ熱はありそうだが……これでこじらせなければ問題ないだろう程度。明日にでも引いてくれれば──俺は自宅勤務なので、仕事はできるだろう。

 まあそれがバレて母に怒られると考えると少し憂鬱になるが……無茶して怒られるのはいつものことだからそれはさておき。実際、朝より体調はいい。空元気かもしれないが、風邪を引いてる時は気の持ちようも大切だ……まあこれは母の受け売りなのだが。

 居間に降りると、テレビの音がした。ニュース番組だろうか。とりあえず誰かがいるのは確かだろう。しかし居間に続く扉を開け、テレビのある方を向いてみるが、誰の姿もない。ソファーに寝転がっているのかと、近づいてみても、誰もいないような気がする。


「──起きたんだ」


 後ろからの声に驚き、咄嗟に振り向くと桃音がいた。

 桃音の部屋着である黒の半袖のチュニックの上から、水玉模様のエプロンを着て調理をしている最中であった。


「──おはよう桃音。学校はいいのか?」

「ママが『今日は休め』って」


 そう言って、桃音は調理に戻ってしまう。

 ──そういえば昨日は桃音が熱を出していたな。

 そんなことを今更ながら思い出す。それくらい、俺の頭は回っていないらしい。


「お粥作ったからさ、食べてよ。食欲はあるんでしょ?」


 そう言ってお粥をよそる桃音。

 ……ありがたい。何故だか涙が出そうになる。


「うわっ、なんで涙目なの?」

「いや……嬉しくてな」


 俺は袖で涙を拭く。風邪を引いたからか、涙脆くなってるようだ。

 そういえば桃音も風邪を引いて泣き虫になっていた気がする。昨日のことだし、覚えていて当然なのだが……駄目だ。何かを考えていると頭が痛くなってくる。


「じゃあ、ここに置いとくからね」

「ああ。ありがとう桃音」

「──っ」


 桃音はテレビを消して二階へ上がっていく。

 とりあえず用意されたお粥を食べて、薬を飲んでもう一眠りするか。

 俺は椅子に座り、お粥を食べ始める。


 桃音の作ってくれたお粥は、自分で作ったものより美味しくて、そして暖かい味がした。

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