第二章その4

 土谷大地は図書室で探してた四冊の本が見つかり、それをテーブルの上に置いて手がかりを探そうとページを捲る。

 寄贈された本は何の変哲もなく、ページを捲っても何もないしヒントや暗号になってる落書きのようなものもなく、カバーを外すのも試してみたが何もない。

 だが何もないわけじゃなかった、本にはそれぞれ寄贈した人の名前が書かれていた。


『さよならおじさんが愛した映画集』は柴谷太一しばたにたいち


『アカデミー賞年鑑』は中沢舞なかざわまい


『マリア・フォン・トラップの生涯』は神代彩かみしろあや


『ナチス・ドイツと戦った青少年たち』は真島翔ましましょう


「この人たちが初代エーデルワイス団?」

 美紀は名前を見て言う、同じ日に四人で寄贈したから可能性は高い。

「一体どこに隠したんだ? 後輩にヒントに残しつつ……先生たちにバレない……タイムカプセルのようにどこかに埋めた?」

 大地は何となく思いついた手段を口にするが、美紀は否定する。

「それはないと思う。グラウンドや庭に埋めてしまうと掘って埋めた痕跡が残るし、工事でコンクリートが敷かれたりしたら永遠に掘り出せなくなる」

「ええ、それに地中ではいくら金属容器だとしても雨水による酸化や腐食で、中身が見る影もない物になってしまうわ」

 睦美も頷く、なるほどだとしたら隠し場所は校舎の中に限定される。大地は考えながら口にする、博学多識な睦美と機転の利く美紀にも伝わるように口に出す。

「先生の出入りが少なく……生徒には容易に入れて隠すのも容易な場所といえば……」

「教室ね、もしこの人たちが卒業前に隠したとしたら三年生の教室!」

 睦美が言い当てるが美紀が待ったをかける。

「待って、三年生の教室に入るのはマズイわ。あの……ほら三年生、もう文化祭も終わって楽しい高校生活も終わりだから、何かとピリピリするじゃない? さっき通ったんだけど、先輩たち補習とかで勉強してた。教室を一つずつ虱潰しに探すのはマズイわ」

 確かに受験勉強でピリピリしてる先輩の教室に、一年の俺達が呑気に宝探しにやってきたらそれこそ目立って先生にもバレる可能性もある。大地は少し考え、時計を見ると午後三時だ。

「時間帯を変更して、涼と草原にも直接話してそれからまた来よう」

「そうね、今日のところは一度解散しよう……部活動生でもないのに、学校でコソコソ動いてたら怪しまれるわ」

 美紀は周囲を目で見回す、大地も周囲を見回すが幸いこっちを見てる様子はない。

 とりあえず記録できるところは記録して、今日のところは解散だ。

『涼、俺たちは今日のところは解散する。あとは自由にやってくれ』

『うん、ありがとう。草原さん……プレステ5で遊んでる』

 盛り上がってるといいな、大地はスマホをポケットに入れると睦美はスマホを見ながら落ち着かない顔をしてる。

「葵から連絡がない……大丈夫かしら」

「大丈夫よ、きっと二人で楽しい時間を過ごしてるわ」

 美紀は呑気なことを言うが、睦美はワナワナと震えていた。



 夕方五時前になり、そろそろ帰さないといけない。葵は「お邪魔しました!」と満足げで家を出て米島涼はJR川尻駅まで見送りに行く。

「ああ楽しかったぁ! 涼君あんなの持ってたなんて」

「そりゃあゲーム好きな奴はみんな持ってるよ」

「でも涼君みたいにシャイな男の子って、女の子とイチャイチャするのを持ってるのかなと思ってたけど……まさか宇宙を冒険するゲームだったなんてね」

 葵はすっかり暗くなった秋の空を見上げ、くるりとバレリーナが舞うように回った。

「ねぇ! 涼君ってもしかして将来の夢は宇宙飛行士?」

「というより天文学者かな……君は、何をやりたいの?」

「そうねぇ……今の夢は普通の女の子かな?」

 葵の明るい表情が一瞬だけ微かに曇ったような気がしたが、また花がパッと返り咲くかのように満面の笑みで白く綺麗な歯を見せた。

「なんてね! 将来のことも大事だけど、あたしは今しかできないことを精一杯やりたい!」

「どんなこと?」

「そりゃあ勿論、青春!」

 思わずこっちが笑ってしまいそうなほどの眩しい笑顔だった。涼は思わず葵の笑顔に釣られて笑ってしまった。

「……クサイ台詞」

「それでもいいよ、だって……君が笑ってくれたから!」

「えっ? んごわっ!」

 涼は葵に両頬を引っ張られる。

「やっぱりさ、君の笑顔……とっても可愛いよ!」

「もっほひひほほははいの(もっといい言葉ないの)?」

「あははははっ! でもさ、初めてあたしに笑ってくれたよね!」

 あっ、そうなのか? 涼はふと、こんなにドキドキした楽しい気分で歩いたのはいつ以来だろう? そう気付いて考えてるうちにJR川尻駅に到着した。

「明日は辛島からしま公園に一〇時集合だって! それじゃあ!」

「うん……気をつけてね」

 涼は微笑みながら手を振って改札口を通る葵を見送る。

 葵がいなくなった途端、涼は思わず胸に手を当てる。ああドキドキした……でもなぜだが心地良い心臓の鼓動だったと涼はしばらくの間余韻に浸っていた。

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