わし、「世界の破壊者」村人

39ZOU

第1話 わし、世界の破壊者になる

まず話をしよう。ん?お前は誰かだって?そうだね。自己紹介がさきだね。僕は田中。このVRMMOゲーム、グランドワールドの運営の1人さ。いや、元運営の方が正しいかな何故運営を辞めさせられたか?……。気になるならしょうがない答えよう。

本当にあの会社の社長は理不尽だよ。社長にはお気に入りの女の子がいてね。いつもその子ばかり眺めているんだよ。僕は正直どうでも良いと思ってたけどね。だが、彼女は僕によく話しかけてくるんだ。仕事大変だね。とか、またあのお店のご飯食べたいなあだとか。


まあ、いつもだるそうに仕事をしていた僕への彼女なりの気遣いだったのかもね。だけど、それが社長は気に入らないらしく、僕に何かとイチャモンを付け、してもいないミスをあったことにさせられ、まさかの退職処分だってよ。酷い話だよね。普通に考えてそんなこと許されないと思うよ。訴えてやろうかと思ったけど、そんな気は途中で消えたよ。


でも、退職する前に何か置き土産でもしてやろうと思ったのね。僕のいた会社はゲームを作るとともに、AIについても研究していて、今度グランドワールドにAIの導入をしようか考えていたんだ。

結局、一応AIを作るだけ作って、やっぱり急に導入して誤作動を起こしたくないなという理由で導入はなしになったのさ。そこで僕は思いついた。「このAI勝手に導入してグランドワールド狂わせてやろwww」とね。

僕はグランドワールドの運営と共にAIの方も噛んでたからAIの導入くらいは簡単さ。ただ、普通に導入するのは面白くないし、むしろAIの技術が成功して会社の利益になってしまう。だから僕は1人のモブにAIを導入してやった。会社の奴らに気づかれないようにね。導入してしまえばもう消すことは出来ないからこっちの勝ちさ。1人の理由は、導入が1人分しか間に合わなかったからさ。他の奴らにバレたら計画が台無しだからね。


とりあえずそのモブにはメッセージを残しておいたよ。なんだい?なんのモブかだって?それはもうすぐ分かるさ。さて、僕はグランドワールドを眺めるとしようか。ほら、もう始まってる。グランドワールドの崩壊が。…………ちなみに僕はしばらく出ることはないだろう。では、またいつか。








〖〗

「ここはどこ?わしは誰じゃ?」


そう言い、彼は辺りを見回す。周りには森、そして多くの家と呼ぶ小屋。人は決して多くはないが、数10人は見える。まず、わしがすることは………。彼は考え、とりあえず辺りにいた男性に声をかける。


「ここはどこ?わしは誰じゃ?」


分からないからにはとりあえず人に聞くしかない。だが、彼に返ってきたのはこんな言葉だ。


「あなたが勇者様ですか?こちらの家へどうぞ」


なんのことじゃ?ゆう、しゃ?なんじゃいそれは。聞いた質問と会話が噛み合ってないし。意味分からんぞい。彼は困る。その時、彼の意識が白の世界へと飛ばされた。


「なんじゃこれは?」


「あなたが村人Aさんですね。こんにちは。僕は田中。あなたに頼みたいことがあります。ではこの世界の破壊者になってください」


何を言っているのだこの者は。世界の破壊者とは?彼は困惑する。


「急にこんなことになって困惑していることでしょう。今あなたには記憶がないと思います。何故なら、あなたは今構築されたのですから。この世界でのあなたは過去に現れた勇者の数だけ死に、勇者の数だけ生まれているのです。もう他の村人とは話しましたか?変な反応をしたはずです。それは、彼らが意思を持たず、話しかけられたときに特定の言葉を話すただの人形だからです。ですがあなたは違う。意思を持ち、自分で好きな言葉を話し、自由に動けるのです。なのでそんなあなたにこの世界の破壊者になって貰いたいのです」


この者の言っている意味が本当にわからない。わしは何度も死んでその度に生まれている?


「世界の破壊者とはその名の通り、この世界、グランドワールドを破壊する者です。僕はこの世界を壊したいのですよ。だが、僕には何も出来ない。なのであなたに頼んでいるのです。とりあえずこの映像を観たほうが良いですかね」


ん?なんじゃ?何かが見えるぞ…。あれは、誰じゃ?


「よく来てくださった。あなたが勇者様ですね?こちらへどうぞ」


白髪の老人が勇者と呼ばれている集団をどこかへ案内しているようだ。


「この森にわしたちを困らせるモンスターがおります。その住処まで案内させてもらいます」


白髪の老人と勇者の集団は森へと入っていく。


「うわぁーーーーー!!」


次の瞬間、老人はモンスターと呼ばれているものに襲われ、光の結晶となり消えてしまった。


「これがチュートリアルか。弱そうなモンスターだぜ」


しばらくしてモンスターも勇者達の手により光の結晶となり、消えた。


「なんだったんじゃ今のは…」


今の彼は恐怖という感情に支配されていると言えるだろう。ただ、彼が前までただのモブだからわからないだけで。


「あれは、前回のあなたですよ。あなたは勇者が現れる度にあのように襲われ消えてしまう。もう嫌ではないのですか?生まれては殺される。恨んでいませんか?あなたがこんな目に合う原因の勇者。そして、モンスターを従える魔王。もしそうならば僕の手をお取りください。あなたにこの不の運命から逃れる力を与えましょう」


このような事になったのは勇者と呼ばれるものと、モンスターを従える魔王。こやつらが居なくなればわしは嫌な目にもう合わないのか?ならわしは選ぼう。自分の幸せを掴む道を。


「わしは世界の破壊者となり、運命を変える!!」


彼は手を掴む。そして彼に光がさす。


「あなたが世界の破壊者としてやることはおおよそ今伝えました。そして、この世界の仕組み、ルール。もうあなたはモブではなく1人のプレイヤーです。では行きなさい!村人Aよ!あなたがこの世界を壊すのです!」


彼に再び光がさし、目の前に最初に見た風景が現れる。


「わしのやるべきことは決まった。よく分からん部分はあるが先程の者に教わったことをやってみるかのう」


Aは初めて明確な意思を持って言う。


「オープン」


Aの前にゲームで言うところの、ステータス画面が現れる。たまげたなあ。


「なんか色々と書いてあるのう。えー、名前:村人A,Lv:1,役職:一般人,スキル:なし、と」


グランドワールドにはLvというものがあり、モンスターやプレイヤーを倒すことで上がっていき、強くなっていく仕組みである。

役職は様々な種類があり、剣士、魔法使い、薬剤師など色々あり、これは自分がゲームを始める時に決めるものだ。


この役職はスキルに大きく関係している。

スキルは役職によって得られるスキルが違う。基本的に剣士は魔法使いのスキルを使えず、魔法使いも剣士のスキルを使えない。

なので、役職を決めるときは慎重に決める必要がある。スキルはこの世界のあちこちにいる仙人と呼ばれる者の元へ行き、教わることでスキルを習得できる。もちろん、仙人に教わるまではスキルはゼロだ。


ただ、この村人Aの役職である一般人というのは本来はない役職だ。プレイヤーが役職を選ぶ際には現れることがない。この役職は主にモブが持つ役職である。だが村人Aは元はモブ。そのため、この一般人が引き継がれたのだ。この一般人という役職は剣士などとは違い、どんな役職のスキルでも獲得できる。一般人というなんにでもなれる者だからこその特権だ。

だが、逆に言えば、一般人という平均的な者のため、限界というものがある。そのため、剣士に特化したものと、平均的な剣士。勝負は目にみえている。


「とりあえず一通りはあの者が残した文章を読んだが、この老体では勇者達には勝てないとのことじゃ。ひとまず武器とスキル等を手に入れる必要があるのう。これらが手に入る所を探していくかのう」


Aはマップをみる。マップは簡単な周りの地形と、仙人の場所を知ることができる。


「この辺りだと、ここかのう」


Aが向かおうとしている場所は始まりの街。そこはプレイヤーがグランドワールドに初めてログインした時に送られる街である。

そこには、初心者のために、あらかじめ全ての役職に適した仙人がおり、最低級のスキルを教えてくれる。これで1つはスキルを得ることができるわけだ。


「よし。いくかのう」


Aは始まりの街の方向へと歩き出す。







〖〗

Aは1時間ほどかけ、始まりの街へとたどり着く。本来は30分ほどで村からは着くのだが、Aは老人だ。さすがに体力がきついだろう。


「ふー、ふー、………。流石にしんどかったのう。だからこそまずはこのスキルじゃ」


Aが初めに会いにいった仙人は格闘技の仙人だ。格闘技はその名の通り、剣などを使わず、拳など、体を使って戦う役職だ。

そして始まりの街での格闘技スキルは、[肉体強化]。効果は一定の時間肉体を強化し、パンチやキックの威力を上げられる。それと、体力が増えるため、疲れにくくなる。老人のAには真っ先に欲しいスキルだ。


「うむ。確かに体が軽いぞ。若返った気分だ。少し若者のような喋りかたでも良さそうじゃな。…………。よし。次のスキルだ」


その後もAは始まりの街で得られるだけのスキルを全て習得し、いい感じに仕上がっていた。まだ戦っていないが、少なくとも、このゲームを始めたばかりの初心者を狩れるくらいには。


「オープン。うん。これでよいだろう。多くのスキルを得ることができたぞ。この喋りかたをなかなかしっくりくるようになってきた」


スキル:肉体強化,発火魔法,2連斬り,忍びの極意,遠眼


これで準備万端だ。さて、これでどこまでやれるかな?


「それでは村に戻り勇者がくるのを待つとしよう。[肉体強化]」


Aは自身を強化し、村へ行きよりも楽に戻るのであった。





〖〗

「勇者様。お待ちしておりました。では、わしに着いてきてくだされ。村を困らせるモンスターの場所へ案内いたします」


「よろしく頼む」


来たか………。


Aが村へ戻り、しばらくすると、1人の勇者が現れた。前に観た記憶を頼りに、それっぽい言葉を言い勇者を案内する。もちろん、案内するのはモンスターの巣などではなく、誰も来ない静かな場所だが…………。


「あれ?モンスターの巣なんてどこにも見えねえぞ?モブがバグを起こしたのか?」


そう勇者がいった途端、ドタン!!と何かが倒れる。それが自分だと勇者が気づくのはすぐだった。


背中には小さなナイフが刺さっている。Aがスキル[忍びの極意]の恩恵の1つであるサイレント能力を使い、勇者に気づかれないないように刺したのだ。


「ぐはぁ!!どうして村人が?!壊れたのか?!おい!なんなんだよお?!お前なんなんだよお?!」


「わしか?わしは、この世界の破壊者、村人Aだ。お前ら勇者も魔王も全てを破壊し、運命を変える者だ」


Aが再びナイフを勇者へ突き刺すと、次には勇者は光の結晶となり消えた。何故だろう。この時、とても自分が満たされるような感覚になった。これが意思を持って動いた結果か。


「ふう。あの者によると、勇者とやらはまだ先客が居るようだ。そやつらにも追いつき、わしと同じ目にあわせてやろう。待っているがよい!!勇者よ!!そして魔王!!」







〖〗

ふう。なかなかいい感じだね。チュートリアルの要である村人Aが自由になってしまえば初心者はチュートリアルが出来ず、苦労することになるだろうね。彼が勇者を襲い始めて数日たってようやく運営が事態に気づいたね。もう遅いよ。今更対処しようとしたって。さあ、村人Aよ。世界を壊すのだ!!







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