第17話 わし、2度あることは3度あることを知る 後編の前編

2つの武器がシャドウダイバーを捉え、辺りに赤いエフェクトを撒き散らしながらその肉体を吹き飛ばしていく。肉体を切断されれば例えモンスターでも生きてはいられまい。


「よっしゃ!野郎もこれで倒したか!?」


「「「あ……」」」


勝ちを確信したマチスが禁忌の言葉を呟いてしまった。わしは知っている。この言葉を呟いた次に起きる出来事を――――――――。不安を察したA達はその場から即離脱。その不安は確かだったようだ。


「ああ、危ねぇ。咄嗟に肉体をさせてなけりゃ本当に死んでたぜ……………」


先程分断されたシャドウダイバーは少し疲れが見えるものの、今目の前で生きている。A達は武器を構え直した。再び緊張感がその場に溢れる。


「よく助かったな。これはお前のスキルの効果じゃろう?しぶといやつだ」


ふっ、と鼻で笑うシャドウダイバー。


「まぁ、体力の半分は持っていかれたがな。体力を半分削り、己の肉体を2つに分ける能力。これが俺様の専用スキル[水肉分離ミネラル・ライフ]だ。これを斬られる直前に発動した。つまりさっき殺られたのは俺様本体ではなくコピーの方ってわけよ」


まぁ、どちらも俺様本体とも言えるが……と付け足すシャドウダイバー。


(めんどくさいスキルじゃな…………)


そんな心を見抜いたようにシャドウダイバーは自身のスキルを語る。


「安心しろ。この能力は基本的に1日に1度しか使えない。体力の都合でな。んなわけで俺様は次殺られたらおしまいだ。だが――」


「そうか、なら俺達4人でちゃんと殺ってやるよ。今度こそ葬られな!」


マチスの言う通り、確実にやつを葬らなければならない。確かにシャドウダイバーは強い。だが1度は倒すことに成功しているという事実があるためか、『やつには勝てる』というビジョンが4人には浮かんだ。4人のシャドウダイバーと初めて対面した時に感じたはもう薄れていたのだ。


吠えるマチスに対して、シャドウダイバーは銛を持たぬ左手を掲げ、何かを呟いていた。

Aはその呟きにできる限り耳を傾けた。Aがシャドウダイバーの単語を理解するのに時間はかからなかった。


(これは………スキルか!)


Aはそのスキルを把握していた。なぜなら自分も目の前の敵と同じスキルを持っているから。今までに使用したことは無かったAだが、まさかここで見るとは思わなかっただろう。


「ふん、俺様はそう簡単には殺られんよ!![隠煙水蒸クリアースモーク]!!」


スキルを唱えると、シャドウダイバーの周りに霧のような煙のような気体が漂い始めた。Aはこのスキルを発動させたシャドウダイバーは不味いと察したのか、他の3人を置いて1人でシャドウダイバーへ駆け抜けていった。


(このスキルは気配を断ち、さらに視界を悪くする気体を放つ……。まさに[忍びの極意]の上位互換スキル!!やつはこれに紛れて態勢を建て直すつもりじゃ!)


「[5連斬り]!!」


Aはスキルを発動させ、気体へ紛れて行くシャドウダイバーへ斬り掛かる。[5連斬り]により、気体を5回、縦横に斬りつけるが、一太刀もシャドウダイバーに当たることはなかった。


「シャハハハハ!当たらんよ!!」


何度も斬りつけていると、気体が晴れ、ようやくシャドウダイバーの姿が見えたかと思うと、すでに森の方角へと走っていた。


Aはすぐには追わず、3人に焦った声をかける。


「シャドウダイバーは先程、[水肉分離]は1日につき1度だけと言っておった!やつは今日の戦いを持ち越すつもりじゃろう……今すぐ全員で追ってけりをつける!」


Aの呼びかけに3人が応じるのは早かった。


「ああ、Aさん。さっさとあんなやつぶっ倒してやろうぜ!」


任せろり!」


「よし、ならこんな会話してないですぐに追いましょ!」


全員の気持ちは一致したようだ。


「よし、それでは――――――行くぞ!!」


「「「「[加速]!!」」」」


Aを含め、4人もシャドウダイバーの向かった先である森の中へと[加速]で強化された足で走って行くのだった。A達は負ける気など毛頭ない。そういう面構えだった――――。




〖〗

シャドウダイバーの後ろ姿を追い、森の中へ踏み入れたA達。しばらくそのまま追い続けると、まるで何かを埋めたてているような大きな窪みが真ん中にある広い空間へと抜けた。そのエリアだけには木々が隅々に生えてるわけではなく、窪みを避けるようにして生えていた。まるでミステリーサークルならぬミステリーホールだ。


「おい!見てくれ!」


キースが窪みの真ん中へ指を指す。窪みの真ん中にはあのシャドウダイバーが銛を携えて立っている。


「ああ、シャドウダイバーだな。俺はやつを倒す!行くぜ!」


槍を構えたマチスが窪みの中へ飛び込みでいく。それに続くキース。窪みは覗いてみるととても深く、1度降りたら縄でも使わないと登って来られないレベルに見えた。どうやって彼らがシャドウダイバーを倒して戻ってくるのかは分からないので、一応Aとリカが上に残り、スキルによる支援に回る。


「さてと、もう鬼ごっこは終わりだろ?ここでお前には倒されてもらおうか」


「キシャシャ!!いや、むしろ倒されるのはお前達だ!まんまと俺様に誘われたのが運の尽きよ!」


シャドウダイバーの言葉を聞き、危険を察知した2人は武器を一層深く握りしめた。そんな2人を嘲笑うようにしてシャドウダイバーはを発動した。


「さぁ、ここからは俺様の舞台だ!呑まれろ!スキル[大海たいかい]!!」


「「!?」」


シャドウダイバーの周りの、何もない空間から大量の水が生み出され、窪みの中へ流し込まれていく。やがてその大量の水は窪みの中にいたシャドウダイバーと2人を飲み込んでいった。この瞬間から、その窪みは1つの池と化したのだった――――――――――。



































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る